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第2話-異世界と餞別と遭遇②

 

「おえ……」


 美玲が軽く嘔吐いた。


 スコープ越しに撃ち抜いたら、そりゃあグロテスクな瞬間もより鮮明に見えるわけで、彼女がそうなってしまうのは何ら可笑しい事じゃない。


 俺より耐性も無いだろうに、何でそんな簡単に引鉄をひいたんだろうか……


「大丈夫か?」


 やっぱり、俺がそう言う事は全部やるべきだ。美玲に任せたくない。


「……大丈夫。多分、本当に直感だけど、ここはそういう世界な気がするから……」


 でも、俺の考えを見透かすかのように彼女は笑った。


 ああそっか、美玲は俺にだけ背負わせない様に、先んじて命に手をかけたのか。……無茶な事するなあ、ホントに。


 そう思ったら彼女の事を抱きしめていた。俺よりも小柄で華奢な身体なのに、いつも何かを踏み出すのは彼女からなんだ。


 なんでこんなに強く在れるんだろうか。俺には怖い事ばかりだと言うのに、何で彼女はこうも簡単に恐怖に踏み出せるんだろうか。


「……陵? 私はもう大丈夫だよ。倒した怪物を確認しに行こう?」


 ふにゃっとした彼女の声が心地良くて、けれども、そのまま抱きしめたままは許されなかった。


「ん、わかった」


 彼女の手を握って、恐る恐る肉片が落ちた方角に向かった。


『目標、おおよそ500mを直進です』


 機械的な声が未だに頭に響いた。敵対的な存在でないのはわかるんだけど、如何せん正体が掴めない。


 この声は何者なんだろう?


『私は指輪の声です』


 疑問に返ってくるとは思わなくて、結構ビックリした。


「?」


 ビックリしたせいか、手を握った彼女から不思議そうな目を向けられる。


「大丈夫、気にしないでくれ」


 いつもなら深堀して聞いて来るのに、今回は美玲に追及される事はなかった。彼女に追及される時とされない時の違いは、正直に言えば俺には全く見当がつかない。


 それよりも……、この声は、アマたんから貰った指輪のものって事で良いのか?


『はい』


 そうらしい。この指輪ってマジで何のために造られたんだろうか……


 指輪について悶々と考えていると地面に不時着した大きなトカゲの死骸が、視界の端に入った。


「うわぁ……」

「凄い光景だな……」


 思わず二人して声を漏らしてしまったのも仕方がないと思う。

 何故なら、あちらこちらに鮮血が飛び散って、ミンチにすらなっている肉片もチラホラと見かけられたからだ。別の動物が群がって食い荒らした訳でもないのに、がっつりとスプラッター状態だ。

 もうちょっと解像度が低くて臭いが無ければ、まるでB級映画の一コマにすら見える。


「大丈夫か?」

「気持ち悪い……」


 彼女の顔はもう既に青白い。けど、目を逸らす気は無いのか、まじまじと辺りに転がった肉片を見ていた。


「せめて、どんなのを殺したのかなって思ってさ」


 その呟きを拾って、会話に繋げようとはとても思えなかった。風に流されてしまえと思った。


 俺もそれなりにまじまじと肉片を眺めていると、トカゲの瞳と目が合った。その瞳は知性的なものでは無いが、まじまじと覗き込んだら……色々と病みそう。


「私が殺したんだ……。動物を殺すってこんな感じなんだね……」


 ぶるっと身体を震わせて、けれども感慨深そうに彼女は呟いた。


「殺すってそう言う事だしな。まあ、せめて殺したんだから、ある程度は有効活用しないとな」 


 食べるでも良いし、武器を作るでも良いけどさ。せっかく命を奪ったんだから、このままは良くないだろ。


『スキャニング完了。食材として利用可能です。調理しますか?』


 良いタイミングが過ぎる。ちょっと有能過ぎやしないかな。


 頭に響く声に対して頷きを返して調理する事にした。すると、俺の目の前に、キャンピングセットらしき物が現れた。


「こ、今度は何!?」


 急に出現したキャンピングセット驚きつつも、彼女はまじまじと見つめる。そんな彼女を見て、可愛いと思ってしまった。こんなに美玲って可愛かったっけ。


 儚げな美人さは昔から持ってたけど、可愛いと思った事は無かった。

 どちらかと言えば、仕方がないなぁという気持ちが、可愛いって感想より先に来てしまっていた……というのもある。


「指輪が用意してくれた。美玲も聞こえてるよな?」

「声? ああ、頭の中に響くやつだよね。ドラゴンを撃つ時に聞こえたよ」


 ……ん? 指輪の声は美玲には聞こえてないのか。


『はい。私達は個別で質問に答えさせて頂きます』


 俺の疑問は俺にしか返さないし、美玲の疑問は美玲にしか返さないって訳か。


『その通りです』


 へえ、そうなんだ。


 ところでさ、指輪は一体何が出来るんだ??


 指輪の全容を理解してないから、全くのチンプンカンプンで、この声に何を指示出来るかすらわからない。


『私に出来る事は、陵様の生活や戦闘をアシストです』


 そこに美玲の名前が出なかった事が、少し気になった。


『美玲様の指輪と私は、別の思念体となります。その為、私はあくまで陵様限定のサポートをさせて頂きます』


 あ、そうなんだ。俺が持っている指輪と美玲が持ってる指輪は、あくまで別個体なのか。よし、何となく指輪の事がわかった。


 本題に戻ろう。取り合えず今は死骸をどうにかしたくてだな……


『解体方法、指示致しますか?』


 ドラゴンの解体方法なんて、俺にわかる筈がないから指示が欲しい。


『地球上には存在したことの無いドラゴンなので、竜骨が有るか無いかくらいしかわからないのですが、それでも問題はありませんか?』


 ついさっきまで普通科の高校生だった俺達には、竜骨がなんなのかすらわからない。ましてやドラゴンの身体なんて知るわけがない。だから、指示をして貰うしかないんだ。例えそれが不完全であっても。


『脚から行きます』


 その思いを汲んでくれたのか、指輪が指示をくれた。飛び散った肉片の中でも大きく形が残っていた脚から、解体作業を始める事にした。


 **


 陵が大きなナイフを持って、ドラゴンの脚を斬り始めた。


 私もやらなきゃ……


『警告、美玲様の精神状態が不安定です。休息を取る事をオススメします』


 わお、こんな事も言ってくれるんだ。流石アマたんの力作だね。


 でも、不安定だからって陵に全部丸投げには出来ないよ。だって、私は出来るだけ隣を歩きたいんだから……


『精神状態が不安定な為、違う事をする事をオススメします』


 ……例えば?


『周辺の警戒は如何でしょうか?』


 指輪に言われて、私もはっとした。


 そうだ、ここは日本じゃないんだ。急に襲われたって可笑しくないんだ。


 ……わかった。でも、どうやれば良いの?


『複数のドローンをオート操作させて、周辺警戒をするのが良いでしょう』


 それって結局、私要らないやつじゃない?


『・・・・・・』


 指輪の反応はわかりやすかった。


 確かに頭に響くのは無機質な声だけど、機械的な何かではなくて、まるで人が入ってるような、そんな感じがする。


 でも、ドローンって精密機器でしょ? 野生生物に見つかったら、簡単に壊されちゃいそう。


『ご安心ください。ドローンとは言いましたが、役割が同じで内部構造は全く違う物です。何かが接近し次第お知らせ致します』


 そう……なんだ、わかった。ドローンを飛ばしてくれる?


『承知致しました』


 空間が歪むと、歪んだ奥から20機くらいのドローンが出てきた。


 え、いや、数多くない??


 音はとても静かだけど、数が多くて結果的に煩く見えた。


 ドローンは四方八方に飛び散っていった。


 結局、私はやる事ないじゃーん。まあ、でも、ちょっと限界だったかも……


 ゆっくりと座って、大人しくのんびりする事にした。無理して倒れても、結局は陵を困らせるだけだからね。


 悔しいけど我慢するよ。


 草原に座って、軽く横になってみた。


 青空には雲一つかかってなくて、それが逆に不気味にすら思えるし、新たな住人の門出を祝っている様にも思える。


 地球に比べて空が遠い気もした。この草原はもしかしたら、標高の低い所にあるのかもしれない。


 そんな事をぼんやりと考えて、青空を眺めていた。不思議と飽きないのは、私達が見知った青空ではないから……かもしれない。


『美玲様、人です』


 それは本当に急だった。青空を眺めて暫く経ってからの出来事だった。


 こんな大自然なのに、動物とかじゃなくて人なんだね。って、この世界にも人って居るんだね……


 なんかちょっと安心したかも。


『解析した結果、かなりの手練と判断されます』


 陵よりも強い?


『あまり良い結果にはならないと予想されます』


 陵でもダメか。逃げるべきかな……?


『今の所、その必要は無いと思われます。戦闘になっても良いように、美玲様をフル装備にします』


 制服が頑丈そうで、けれども動きやすそうな鎧に変わる。金属製のプレートを腕と脚と胸に纏って、メイン武器に銃を、サブ武器に盾を装備した。右腕に銃を、左腕に盾を持っている状態だね。


「美玲、どうなってる?」


 彼も状況を知っているみたいで、解体してた手を止めて武器を携えていた。


 陵も私と同じ装備……かと思ったら、そうじゃ無かった。小さな盾を持っていて、腰には小さな剣が刺さっていた。鎧も私より身軽で、胸あてが私のより明らかに薄かった。


「ちょっと待ってね」


 ドローンの映像って見れる?


『承知しました』


 ドローンの映像が直接、脳に叩きつけられた。私の視界とドローンの映像が二枚のテレビ画面が混ざってるみたいになってて、気持ち悪いし吐きそうだし、ちょっと頭が痛い。


 瞼を閉じてみる。見えるのがドローンの映像だけになって、かなり楽になった。


 ドローンの映像には人間が四人映っていた。一人は盾と剣を持っていて、もう一人は双剣、その後ろは杖を持ってる……って事はもしかして、魔法使いって奴かな。あともう一人は武器を持ってなくて(腰にはナイフがあるけど)、装備も軽量で斥候って感じだった。


『接触と同時に、映像を切らせて頂きます』


 ありがとう。映像があるとイザとなった時に戦えなさそうだからね。


『接触まで、5、4、3、2、1』


 森の奥から、人が現れた。ドラゴンの肉片を見て、驚いているのがわかる。


 彼らの言葉が聞こえた。けど、日本語じゃない。


『言霊を拾い、翻訳します』


 指輪の言葉を皮切りに、彼らの言葉が理解出来るようになった。


「討伐依頼が出てたドラゴンじゃないか?」

「誰がこんな事を……おい、あれを見ろ」


 遠耳で聞いていた私達に、四人組は気が付いた。


 彼らに敵対の意思は感じられない。けど、厳つくてあんまり好きじゃない。近寄られたらちょっと怖いなって思うタイプだ。


「おーい! 言葉は通じるか!?」


 彼らの言葉の意味はわかる。でも、こっちからどう伝えれば……


『自動翻訳します』


 指輪やば、凄すぎる。


『お褒めに預かり光栄です』


 こんなの褒めなくてどうするのさ。こういう反応が人っぽいんだよねぇ……


「意味はわかる。こっちの言葉、わかる?」


 少し大きめな声で、言葉を返してみる。


「わかるぞ。ドラゴンをやったのはお前らか?」

「……だとしたら?」


 ドラゴン倒したら不味かったのかな。


 陵は鞘に手をかける。敵だと判明した瞬間に斬り捨てるつもりなんだと思う。きっと彼はそれが出来るんだろうけど、お願いだから早まらないでね。


「いや、特に何も無い。俺達は近場の村がドラゴンに襲われたと聞いて、討伐隊として派遣された冒険者だ。そいつが死んだのなら、俺達はそれで終わりだよ」


 私達が仕事を取っちゃった形になったのかな? まあ、襲われた?んだし仕方ないよね。


「そっか、じゃあな」


 陵は淡白にヒラヒラと手を振って、どっかに行けと態度で示した。


 今はまだ基本的に関わりたくない……というのが大きいと思う。この世界にどう向き合って行けば良いのかも、私達はまだ決め兼ねてるからね。


 彼らは特に何かを言うでもなく、大人しくこの場から去っていった。


 ホッとしたけど、念の為、ドローンで本当に離れていくまで追跡する事にした。


「トカゲ肉って上手いのかな」


 陵は今の出来事が無かったかのように、剥ぎ取った肉を一口サイズにカットしていく。色合い的には牛のカルビみたいだけど、実際どうなんだろうね。


「陵がわかんなかったら、私もわかんないよ」


 まだドラゴンのお肉に触った事すら無いんだから。陵みたいに解体しようって気になんてならないよ。必要な事なのはわかってるけど、今はまだ無理。


「それもそっか。取り敢えず焼いてみよう」


 草原に置かれたキャンブ道具で、陵は肉を焼き始めた。肉は薄切りで、火は簡単に通った。いつもならレアなんだけど、異世界でレアは怖いよね……


『解析完了。その肉は生で食べても問題ありません』

「なんですとっ!?」


 びっくりたまげた。生で食える肉なんて、ほぼほぼ高級食材みたいなもんじゃんっ!


「……ん? どした?」


 陵に訝しげな目を向けられた。なんかちょっと辛い。


「そのお肉、生でも行けるらしい」

「……美味しいのかなそれ」

「やってみようよ!」

「焼いたの食べてからな」


 初っ端から生はそりゃ無いよね。うん、陵の言う通りだよね。焼いたの余ってたら、生身を一つ口に放り込んでみようかな。


 ん、待って、調味料とか無くない? あるはずないよねえ……

 いくら美味しくても、塩すら無いってなると、期待値はめちゃくちゃ下がる。

 素材だけで美味しいなんて事は、もしかしたら有るかもしれないけど、限りなく無いに等しいと思う。

 でも、ドラゴンが飛んでたり、さっきの四人組みたいな人達も居たりするんだから、もしかしたら、そのまま焼いたの食べても美味しい説ある?


 ドラゴンなんてファンタジーだし、それから取れた肉もファンタジーかも……なんて。


「美味しいけど、美味しいけど、きっと美味しい肉なんだろうけど……」


 焼けた肉を口に放ったら、あっさりと淡い幻想は打ち砕かれた。

 食べた肉は肉汁が凄く、とても美味しいと思える。けど、肉の味がしかしない。物足りない、物足りなさ過ぎる。


「素材の味がして美味しいけど、それまでだよな」

「どんなに美味しい食材でも調味料がないと……」


 泣きたい。


「肉は持って行こう。塩とか見つけよ?」


 絶対に塩とか手に入れて、この肉を美味しく食べてやる。


「今後の目標は調味料を手に入れる事だな……」


 私達の調味料を探す旅は、これから始まった。


 いや、しんどっ

 日本帰りたい。無理だわァ……

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学園モノはカクヨムにて→欠落した俺の高校生活は同居人と色付く。

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