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第1話-襲撃

 今から行うのは、明確な殺意の乗った虐殺だ。


 学生生活とは違い、誰かを助ける事は即ち誰かを助けない事に直結する事も、私は理解できていた。


 けれど、それでも良いの。


 この世界で、私が私らしく生きるために、その初めの一歩として、私は風の精霊王の依頼を受ける事にした。

 少女を助けて、邪魔をする者は殺す。中途半端な事はしない。みねうちとか、そんな事を出来るほど私は強くないからね。


「ほ、ホントに良いの……?」


 私の様子を見ていた風の精霊王、シルフィーネは心配そうな表情をしていた。


「私がやるって決めたからね」


 依頼してきたのはそっちなのにね? 気にするくらいなら、言わなきゃ良いのに。


 着物を身に纏い、ケモ耳が生えて、尻尾が三つ生える。私が二人増えて、それぞれが大型ビームライフルを構える。


 準備が出来た。


「美玲」

「どしたの? 陵」


 彼に名前を呼ばれてそっちを見た。


「俺も行って良いよな?」

「ん、お願い」


 どうせ来るなと言っても、彼は付いて来る。

 だから、私が私らしく生きるために、彼が人を殺す事は受け入れた。


「シルフィーネ、私を風で運んでくれるって言ってたけど、ホントに出来るの?」


 私が一番気にしていたのは移動手段だ。


 湖がある山の上から、空を飛んで現場に殴り込むらしい。こういう場面じゃなければ、空を飛ぶのも楽しめるんだけどね。


「ええ、例え何人に増えても問題ないわ」


 これは心強い。でも、ドライブが好きな私には、車を使う機会が減るのはちょっと悲しいかな。


「レイア、行ってくるから。あ、何か欲しい物ある?」


 リビングに顔を出して、ソファの上でのんびりとしていた少女に伝える。レイアは家にお留守番だからね。


「大丈夫ですよ。いってらっしゃい、ミレイさん、リョウさん、お気をつけて」


 軽く手を振って、私達は家の外に出た。


「じゃあ、シルフィーネお願い」


 私の分身と、陵の合計四人の周りにごうっと風が吹き荒れる。段々と身体に風が回って、やがて宙に浮いた。

 あんまり気持ち良いものじゃないね。あんまりにも不安定な感じがして、いつ落ちても可笑しくなさそう。


「移動させるわ」


 私達の身体は木々が生い茂っている山肌を軽々と飛び越え、見知らぬ方向に飛んで行く。知らない国だから、そりゃ知らない所に連れて行かれるのは当然なんだけど、流石にちょっと身構えるよね。


『帰宅ルートをマッピングします』


 うん、ありがとう。


 レイアの話だとシルフィーネが約束を違える事は無いらしいけど、警戒しておいて損はない。契約の効力も、本当にどこまで意味があるのかわからないしね。


「シルフィーネ」

「どうしたの?」

「そこに居るのはハイエルフの少女だけなの?」

「……いいえ、色々な種族な子供が人身売買にかけられてる」


 まあ、そうだよね。


 ハイエルフの少女一人だけを丁寧に丁寧に扱っているのだとしたら、そもそも、誘拐なんてしないし、されないだろうからね。


「シルフィーネに命令する。私達と子供達、全員を抱えてあの湖まで逃げること」

「……良いの?」

「うん。もう、やりたいようにやるから」


 シルフィーネは頷いてくれた。


 依頼じゃないからって、ちっこい子供を置いていったら、きっと目覚め最悪だよね。それに対してのリスクも理解はしてるつもり。


 でも、食料だって、湖の近辺に無限にあるわけじゃない。


 いやぁ…正直、どうしようかな……


 私達も生きていけなくなる可能性はありそう。


 うーん、やっぱりやめるべきかな……


 前言撤回、わかってなかったかも。ちょっと短絡的過ぎた。やりたいようにやって、今ある物を捨てるのはダメだよね。


『美玲様、天照大御神様から伝言です。一旦、連れて帰るようにとの事です』


 子供達を?


『はい』


 何のために?


『天照大御神様をこの世界に顕現させ、この地で一人の神として力を振るう為です』


 んあ? どう言う事?


『美玲様、陵様のお陰で天照大御神様がこの世界、あの湖の土地に顕現する事が可能になりました。これを機に新しい事をしたいと仰られています』


 アマたんが何かやりたい事があるのね。それなら、色々とお世話になってるし言われた通りにしようかな。


「陵は私の前衛をしてくれる? 邪魔者は全部焼き払うから」

「ん、任せろ」


 大型ビームライフルが二つあれば、敵がどんなに多くても問題ないはず。


 一番怖いのは、その中に強い人が居て、ビームライフルを撃つ前にやられてしまうこと。

 陵が一緒に来てくれるから、今回はその心配は全くない。


 段々と地面の流れる速度が速くなる。これ、とんでもない速度で飛んでるよね?


『推定、時速300kmです』


 風の精霊王ってホントにヤバい存在なんだね。これだけでレイアがあそこまで拘った理由がわかる。

 ……でも、こんな事が出来るなら、少女一人を助ける事くらい簡単なんじゃないの?


「シルフィーネは自分で助けようとしなかったの?」

「私達精霊王は、自らの力を自らの意思で振るう事を許されていないの。今回、こうやってあなた達を運べているのは、そこにミレイの意識があったからよ」


 なるほど、強力過ぎるが故に制限があるのかもね。私を説得してくれたレイアに頭が上がらないよ…… 




 空を飛んで一時間くらい経ったんじゃないかな。


 段々と減速して、やがて、一つの街の上で止まった。


「ここよ」


 下に歩いている人達の表情は、小さな少女を攫っているようには思えない。


 あー、そりゃそうだよね。全員が全員敵じゃないってことくらい、少し考えたらわかるよね。私は全員が敵だと思ってた。


 流石に関わりない人を巻き込むのは嫌だなぁ。


「敵のアジト的な所があるんだよね?」


 街の一部だと思うから、だとしたら、その手の人が集まってる場所くらいあるはずだ。


「地下よ」

「……地下? まさか、この街の下なの?」


 シルフィーネはこくりと頷いた。えぇ……、それは手間が過ぎるよ。


「入口は知ってるの?」

「それはあっち。だけど、そもそもこの街に結界が張られてるから、潜入したら速攻でバレると思う」


 入口があるらしい建物を指さした。


 そこにはボディガードらしき黒服の男が立っていた。順序通りに道を選んだら敵に先回りされるよね……


「美玲、どっかにデカく穴開けたら? そこから入った方が早いと思う」


 ビームライフルでって事? 

 無しじゃない気がする。敵が沢山寄ってきそうだけど、順序通りに攻めるより相手は混乱するはず。


 だとしたら、攻めた後をどうしようか。救出対象に合流したら、どうやって逃げようか。子供の手を引いて、何処まで逃げれば良い?


「シルフィーネは何処からなら、子供達を運んでいける?」

「屋外に出ないと厳しいわ」


 でも、子供達が地下にいるとなると、屋外に連れ出すのは難しいと思うんだよね。


「美玲、考え過ぎだから」

「えっ?」

「天井ぶっ壊せば空は見えて屋外になる。だから、見つけた場所の天井をこれでぶち抜けば良い」


 連れ出すんじゃなくて、強引に屋外にするってことね。その手は気が付かなかった。けど、ビームライフルって、そんなに火力あったかな。


『素材を解析しない事には、何とも言えません』


 だよね。出来る気はするけど、うん、って感じ。100%出来るってわけじゃない。


「ミレイ、私に命じなさい。私の力なら、街一つを吹き飛ばす事くらい、造作もないことなんだから」


 シルフィーネがそんな事を言った。彼女が風の精霊王であることを、すっかり忘れてたよ。


「任せても大丈夫?」

「ええ。精霊王の力、よく見ておきなさい」


 とりあえず、私が持てる全ての力を使えば、地下から地上までの穴を開けられるっぽい。


 じゃあ、方針も決まったし突入しようかな。


「何処が通路の上?」

「何処でも、よ」


 地下都市状態にでもなってるのかな。指輪、煙幕って焚ける?


『煙幕用の弾丸を回転式拳銃にセットします』


 右手に回転式拳銃を持つ。


「……行くよ」


 煙幕を放った。


 二人の分身が、煙幕が焚かれると同時に大型ビームライフルを照射する。


「穴、空いたわよ」


 煙幕で見えなかったけど、シルフィーネが教えてくれた。こうして、私達は地下に潜入した。


 **


「お前らっ、なにもっ!?」


 目の前の敵を殺した。


 俺が先陣を切っているから、一番最初に敵に接触するのは当たり前な事だ。


「シルフィーネ、どっちだ?」


 美玲に聞くよりも精霊王とやらに聞いた方が早い。


「まっすぐよ」


 三つに別れていた道の、その真ん中に足を踏み入れる。


 狭い場所だと美玲の光線銃は使えない。下手すれば俺達が巻き込まれるからな。


 敵が出てきた。武器を持ってない。刀を裏に持ち替えて、峰打ちする。殺しても良かった。良かったけど、俺には余裕があったから生かした。


「次はどっちだっ!?」

「左っ!」


 曲がると同時に人影が見える。そのまま斬り裂いた。


 やがて俺達は長い地下廊を抜けて、だだっ広い場所に出た。


 そこには観客席らしい物が沢山あって、そうだな、俺が知ってる物で置き換えるなら、ドームの会場みたいだった。

 真ん中のステージに歌手が居ても可笑しくなさそうだ。


「次は何処に行けば良い?」

「あの通路の先に、捕まってる」


 精霊王が指さしたのは、ステージのバックヤード。


 あー、なるほどな。つまり、ここは人身売買をする為の会場になってるってわけだ。


「行こうっ」

「あいよ」


 美玲に押されて、俺達はバックヤードに潜入した。


 **


 そこには数多くの檻と、それを監視している人が居た。人は陵が速攻で斬り捨てていた。


「ハイエルフは?」

「その子よ」

「確認した。ここに居る人の中から子供を探すのめんどくさいし時間ないから、シルフィーネは全員運んで」

「精霊使いが荒いわねっ!!」


 指輪、何処を撃ち抜いたら崩れない?


『素材の解析が完了しました。こちらでエネルギーを調節します』


 二人の私の大型ビームライフルにエネルギーが収束する。キュイーンという機械音が鳴る。


「シルフィーネっ!!」

「合わせるわっ!!」


 放たれたビームライフルに、目に見える程の空気が纏われて、それが風圧に変わって天井を貫いた。


 地上にぶち抜いた穴が、思ったより小さい気がする。

 地下を崩さないように地上までの穴を開けるのは、これが精一杯だった。


「シルフィーネ、いけるっ!?」

「やるわよっ!!」


 風の精霊王と言えど、その表情からはそれなりに難しい事が見て取れた。でも、頑張ってくれるみたい。


「この箱を外に出すまでの時間は!?」

「この狭い穴だと、一つずつしかっ!! この数だと早くても15分かかるわっ!」

「おっけーっ! シルフィーネ、私達を外にっ」


 分身二人がシルフィーネの力で脱出する。それに続いて、箱が一つずつ運び出されていく。

 空を舞う箱には、そこはかとない奇妙さを覚えたけど、目の前に起こっている事が真実だから仕方ない。


 バックヤードの入口から、敵がゾロゾロと入ってくる。もうタイムアップだ。

 彼は一度鞘に収めた刃を、再び抜くと同時に斬り捨てる。


 ケモ耳の私と陵は武器を構えて、時間稼ぎをする事になった。


 地上は突然地面が吹き飛んだ事によって、阿鼻叫喚の嵐だった。住民の悲鳴を聞きつけて、兵士達が集まってくる。

 大型ビームライフルから鎮圧用弾丸が装填された自動式拳銃に持ち替えた。

 私が二人いるから、普通の兵士程度だったら特に困る事はない。弾丸をバラバラに放ちながら、的確に兵士を無力化していく。


 どっちかと言えば、ヤバいのは地下の方だ。


 陵が前衛として剣を振るってくれるけど、私は銃しか使えないから、地下で闇雲に撃つことが出来ない。


 つまり、実質的な戦力外になってる。


 陵と一緒に訓練しよ。剣の使い方、教えてもらおう。銃だけじゃ乱戦になった時に戦力になれない。


 陵の一閃が敵にしのがれた。


 えっ、陵が一撃で仕留められない程に強い奴がこんな所に居るのっ!?


 敵が陵を見て、ニヤリと距離を取った瞬間、そのニヤリ顔を私が撃ち抜いた。そんなお行儀よく一対一をやらせるわけがない。


 今日、初めて人を殺した。


「ないす」


 陵は撃ち抜いた敵の首を撥ねてから、次の敵に視線を動かす。


 これくらいしか出来なくてホントにごめんね。


「ミレイ、全部運び出したわ」

「おっけ! 陵っ! 退くよっ!」

「あいよっ!」


 私達は箱に倣って、シルフィーネの力で中に浮き、地上に脱出した。


 ちょうど通常の兵士よりも、強そうな兵士が出てきた所だった。彼らは兵士と言うよりも騎士っぽかった。


 でも、戦う気は無いよ。


 シルフィーネは宙に浮かべた檻をフワフワと旋回させ、その風に私達をも巻き込んだ。


 檻と同じように空に舞い、私達はあっという間に上空に消えた。

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