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第3話-夢のマイホームは異世界で

『完成しました』


 そんな指輪の声が聞こえた時には、水面に真っ赤な太陽が水面に映っていた。異世界だから太陽って言っていいのか怪しいけどな。


「だってさ、陵」

「聞こえてるって、じゃあ早速、な?」


 高校卒業後に、こんなにすぐに一軒家を立てるなんて誰が予想しただろうか?


「アマたんに感謝だね」

「だなあ」


 異世界なんて来たくもなかった。けど確かに、一人の友人の気遣いで、俺達は幸せを少しずつ感じられていた。


 今度、軽く感謝の手紙を送ろう。


『大変お喜びになられるかと思います』


 アマたんに何か出来る事があれば、今度返せたら良いなと思う。そんな機会が来るとは思えないけど、な。

 異世界の出来事なんて、アマたんに関係があるとも思えないし。


「レイアも行こう」


 美玲が少女の手を引いた。


「は、はいっ」


 勢いに気圧されて、少女も走り出す。そんなに新居が楽しみだったのか。


 ……そりゃそうか。


 俺も美玲も何処でどう生きていくのか、ずっと不安だったしな。


 国籍も無い、土地も無い、完全に世界の邪魔者として異物として降り立って、そりゃあ、こんな世界に呼んだのはそっちなんだから責任取れよとか、やっぱりちょっとは思うし、けど、それを言う相手は居ないんだ。


 美玲は本当に頑張って受験勉強をして、やっとの想いで第一志望に合格を決めて、俺もそれにやったなって笑って……笑ってた筈なんだけどな。


 俺がどうこうなるのは別にどうだって良いんだよ。でもさ、あいつの頑張りを否定したこの世界が俺は本当に嫌いだ。


 彼女の方が何千倍も苦しいはずだ。俺はまだ、先の未来を決めて歩いていたわけじゃないから、まだ良いんだよ。


 俺達はこの世界で、この場所で生きていく。もしかしたら、いつかは引っ越しをする事になるかもしれないけど、今はここを全力で護ると決めよう。


 俺達の生活を邪魔する者は誰であっても許さない。何処かの貴族であれ、何処かの王であれ、それこそ神であれ、絶対に殺してみせる。


『スキル:心眼が進化します』


 ? なんだ? また変なことを言い始めたな。スキルってなんだよ?


『元々ご自身が持っている物や、後天的に身に付いた物を指します』


 つまり、自分が磨いた技能にラベリングをしてるって事か?


「陵も早く早くっ!!」

「ああ、今行くよ」


 彼女に呼ばれてしまった。俺も新居に興味が無いわけじゃないし、何ならめっちゃ内装とか気になっていた。呼ばれたからには行かないとな。


『死眼へと進化を果たしました』


 御大層なスキルになったな。あんまり興味ないけど。


 **


 外から見た建物は、日本で言う所の一軒家が二つ並んだくらいの大きさになっていた。


 心臓をバクバクさせながら、玄関扉に手をかける。


「あ、開けるよ?」


 陵とレイアの表情を確認して、扉を開け放した。


「おおおっ!!」

「凄い……」


 感無量ってこういう事を言うのかな。


 視線の先に異世界では見る事の無かった日本式の室内が広がっていて、玄関には靴を脱いでしっかりと仕舞える収納スペースがあった。もうこれだけで感動しちゃって声が出ない。


 だって、だってさ? この世界って靴を脱ぐ習慣が無いみたいでさ? ベッドインするまでの間、ずっと怠けられないんだよ?


 ……ここが私の家なんだね。


 靴を脱いでさっさと家にあがった。玄関は広いけど、流石に三人は窮屈だったから。


「あがろうか。あ、レイアもそこで靴脱いでね」


 きっとレイアは知らない筈だから、間違える前に注意しておく。


「靴を脱ぐ……ですか?」

「脱いだ靴は、こんな感じで入れておけば良いよ」 


 陵がお手本と言わんばかりに、下駄箱の下に靴を揃える。私は指輪に仕舞っちゃった。


「もちろん、私みたいに仕舞っても良いけどね」

「あ、じゃあ……そうします」


 レイアも空間魔法と呼ばれる能力を持ってる。私達の指輪のように物が仕舞えるんだけど、容量は無限とか言ってた気がする。

 水や塩なんかを大量に別空間に貯めてるって言ってた。何処でも売れるかららしい。レイアのそれが人の持つ能力だって言われると少し怖い物があるよね。


 玄関から見て、二階に繋がる階段が一番奥にあって、その手前に右と左に一つずつ扉がある。廊下に窓は無くて、少し薄暗い感じがした。


「こういう時ってさ、無性に二階から行きたくならない?」

「ならないな」

「そ、そっか……」


 陵の断定的な否定が結構辛い。ま、まあいいや、一階から見て回ろうかな、うん。


「どっちから行きたい?」

「どっちでも良いけど……、左にしようか」


 ちょっと意外だなって思った。どうせ、どっちでも良いで終わると思った


「じゃあじゃあ、開けるよ……?」

「良いよ」

「はいっ」


 扉を開けると、眩しい夕日が窓越しに見えた。


 **


 ミレイさんが扉を開けた先から、眩い光が入ってきた。眩しくて、ちょっと目を開けてるのが辛い。


「と、取り敢えず、カーテン閉めよっか」


 ミレイさんは何かに見とれていて、でも、ハッと正気に戻った。ぱたぱたと歩いた先のカーテンを閉めた。

 一気に暗くなった。ちょっと目が慣れなくて辺りが見えない。ちょっとしたら見えるようになるはず。


 ぱちん


 そんな音ともに部屋は明るくなった。少し眩しいけど、さっきよりも調度良い光だった。


 その白い灯りに火の揺らめきはなく、私が知っている赤色の火とは全く違う技術を使っているのだと理解出来た。

 そんな白い灯りに合わせるかの様に壁紙は白く、床には濃い茶色の木目が並んでいた。


「おおー、ソファとか元々あるんだね」

「だな、作らないとだと思ってた」


 そこは多分リビングルームと呼ばれる場所で、ソファと背の低いテーブルが置かれていた。

 私はこの家の建築文化を知らないけど、リビングというのはそう変わらないと思ってる。


 こういう家が、ミレイさんやリョウさんが暮らしていた、見知った建物だとしたら、水の精霊が言っていた異界がどうとかって話は納得出来る。

 ミレイさんが見た事のない道具ばかり使うのも、異界から来たのだとしたら納得出来る。まだ半信半疑だったけど、多分本当にそうなんだと、ストンと心に落ちた気がした。


「レイアはこういう家はどう?」

「私ですか? 私は好きですよ。落ち着いていて」


 機能性もあるし、狭いとも思わないけど、だからといって貴族みたいなやり過ぎた装飾はない。

 彼らがこんな家に住んでいたのなら、きっと、私がとった宿では大して休めていなかったのではないだろうか。


「嫌じゃなくて良かったよ」


 ミレイさんはホッとした様子だ。たとえ嫌でも私に選択権はないし、それを口に出さないだけの分別はついているつもり。


「リビングってより、客間って感じがするね。友達を呼んで遊ぶならここって感じだね」

「だな。肝心のお友達が居ないから、ここはあんまり使わなくなりそうだけど」


 言われてみれば、置いてある家具はリビングルームに相応しい物だと思う。でも、広さが如何せん大き過ぎた。

 客間として使っても全く違和感はなさそうだった。客間にするなら、もう一つソファが欲しいかな。商談などをするなら、隣り合って話すのはちょっと受け入れられない。


「次行こうかっ」


 ミレイさんは興奮を冷まさずに、次の部屋に向かった。大きくて日当たりの良すぎた部屋を私達は後にした。


 **


「開けるよーっ」


 美玲が向かい側にあった扉を開けた。


「……あれ? こっちもリビングかな?」


 彼女の言いたい事もよくわかった。だって、こっちの部屋もリビングルームと言える内装だったから。

 違う所を上げるとするなら、さっきよりも小さな部屋だって事くらいだ。

 左右によって大きさが変わると言うよりも、こっちの部屋はリビングとダイニング、それからキッチンと分かれていたから、リビングルームだけの大きさで見たら小さいってだけだな。

 こっちが一家団欒用で、向こうはリビングというより、さっきも話してたけど、客間ってイメージの方が強いのかもしれない。


「ダイニングとリビングが分かれてるの良いね」


 三人で暮らすなら、大きなリビングルームなんて使うタイミングは無い。

 友達が居ないのはそうだけど、それ以上に顔見知りすら居ない。商売相手なんかも居るわけでもない。

 もしかしたら、レイアが商売を始めるかもしれないけど、それなら結局は、俺が使う事なんてないだろう。


 リビングルームには先程と同じように、ローテーブルとソファがあった。同じとは言っても、向こうとは違って小さめの物が置かれていた。

 リビングの隣にあるダイニングテーブルも、それなりに広くて、けれども気取ってない感じで住み心地が良さそうだ。木製のテーブルって所も、かなりポイントが高い。普段の食事はここでする事になりそうだな。

 キッチンには食器や調理器具も、キッチリと揃っていて少し驚いた。これなら狩りさえやっておけば、あんまり困らなさそうだ。山を降りれば山菜くらい、幾らでも取れるだろうし。


 ただ、味付けは簡単な物になりそうだ。レイアが商人時代に得た物の中に、それなりに種類はある物の、流石に毎日毎日使っていたら無くなってしまうだろう。

 塩と水だけは、湖を作れる程は持っていると言っていたので、流石にそう簡単に尽きる事は無いと思われる。


 レイアに初めてその話を聞いた時は、生身の人間がそんな事を出来てしまって良いのかと思った。

 魔法使いや魔法、伝説上の生物が普通に存在している世界だけあって、人が生身でこなせる事の幅が広いなと思った。


 そんな世界と武術だけで向き合っていくのだから、俺も身を引き締める必要がある。


 魔法が身近な世界とは言え、じゃあ、人々がレイアのように大規模な物を使えるかと言うと、そうでも無いようだ。

 魔法の適正とかもあるらしくて、火魔法は得意だけど水魔法は全然出来ない、みたいな人も居るらしい。レイアは空間魔法以外からっきしだと言っていた。

 そう考えると、幅が広いと言うよりは、何か一つの物事に特化した人々が多いのかもしれないな。


 **


 階段は思ったよりこじんまりとしてた。木製の螺旋階段になっていて、アンティークにオシャレだった。


 階段を登り切ると、一つ長細い廊下があって、右と左にそれぞれ扉が三つずつあった。


 ん? アマたんはそんなに大世帯になると思ってたのかな?


 残念ながら異世界に来てからは、私達にお友達も出来なければ、顔見知りはもう死んでる。

 なんか、そんな事を思ったら、ちょっと悲しくなった。


「一部屋ずつ見ていこうか」


 そんな悲しさは端っこに寄せて、私は手前の扉を開けた。開けた先には、一階とは違って何一つとして物が置かれていなかった。


「スッキリしてる部屋だな」


 大きな窓が一つあるだけの部屋だった。けれども、その窓に興味をそそられる。だって、ベランダがあるから。

 かちゃっと、鍵を下げてベランダに飛び出た。


「結構、絶景じゃない?」


 夕方よりも暮れた頃に二階から見える湖は、かなりの絶景な気がした。


「確かに、綺麗かも」


 陵も目を細めた。


「綺麗ですね。初めてです。こういうの」


 レイアの言葉は、この世界だと特に特別な意味を持たずに、けれども、私達にとっては特別な意味を持った。


 ま、人それぞれだからね。それに、これから、こんなに綺麗なに場所で暮らすんだし、嫌でも見慣れると思う。


 ベランダは繋がってたけど、私達は部屋の中に戻った。


 反対側の部屋も全く同じ構造だった。一つ違うとすれば、山から下がよく見えること。こっちはこっちで、結構絶景かもしれない。どっちの部屋にするか悩むね。


 **


 合計六部屋ある個室見て回った。


 特に大きな違いは無かったけど、一つ言えるとすれば、一番奥の二つの部屋はベランダが無かった事かな。腰上の窓が三つくらいあって、寝室にするなら此処だろうって感じの部屋だった。


「レイアは何処にする?」


 美玲はレイアに選ばせてから、自分の部屋を選ぶつもりらしい。俺も彼女が選んでからにしよう。こういうのが年下の特権の一つだ。


「私は住ませて貰えるだけでありがたいので……」

「じゃあ、本当に何処でも良いの?」

「う……はい、えっと、その、湖側が良いです」


 ずいっと美玲が身を寄せると、少女はたじろいでから要望を口にした。レイアが要望をしっかり口に出すなんて、中々に面白い物を見た気分になった。

 けど、それ以上に要望を出してくれるようになったのは、本当に良い事だと思う。ギスギスしない為には、したい事、やりたい事をある程度は口に出す必要がある。

 出し過ぎても嫌われたり、排他されたりするけど、言わないと苦しくて仕方が無いからな。気がつくと、嫌いなタイプの友人ばかり出来てました……なんてのは、美玲の友達の話だっけ。


「なら、湖側で好きな所を選んで良いよ」

「じゃあ、一番手前で」


 レイアの部屋が決まった。


「陵はどうする?」

「俺は……どうしようかな」


 正直どっちでも良いんだよなぁ。確かに湖も山から見える地上の景色も、どちらも美しいと思うけど、実際はあんまり美醜に興味も無いし。


「先、決めて良いよ」


 だから、美玲に譲った。


「じゃあ、私は山側にするっ!」


 山側って言っても、その先に山があるわけじゃないけどな。どっちかと言えば、登ってきた道を天辺から見下ろすのだから、谷と言った方が正しい気もする。


「じゃあ、俺は美玲の反対側で」


 美玲は真ん中の扉を開けたから、俺はその反対側の扉を開けた。レイアの部屋の隣だ。


「あ、陵?」

「ん?」

「寝室は一緒が良いな」


 急に照れる事を言ってくれる。今まで、なし崩し的に一緒のベッドで眠っていたけど、改まって言われると、また違う物がある。


「良いよ」

「よしっ」


 彼女の可愛らしいガッツポーズを見て、それが可愛くて普通に照れた。



 **


 部屋に必要な物を置き終わった私は、そっと廊下に出た。


「陵、私はこっちが良いっ!!」


 ミレイさんが本当に楽しそうにレースのカーテンを手に取った。

 結構高い物な筈だけど、もうそんなに驚かない。どこから持ってきたとか、そんな野暮な事は聞かない。


「良いよ、そっちで」


 リョウさんは仕方ないなあと言いたげな顔をして、けれども、本当に幸せそうな顔だった。


「あの……」


 話しかけようとして、やめた。今はまだ、彼らの世界に居て欲しかったから。


 いつも優しいミレイさんが、いつも私に向ける笑顔と違う表情で笑っている。

 いつも表情の変わらないリョウさんが、今はしっかりとにやけたり、笑ったりしてる。


 私は確かに彼らについて来たけど、でも、彼らの幸せの時間に割り込む権利はない。というよりも、割り込みたくない。


 いつもと違う表面をお互いに曝け出せる二人には、ずっとそのままで居て欲しいとか、まるで何様だよみたいな、そんな事を思っちゃう。


 とても強い二人の人間的な一面は、恐ろしい程に魅力的だった。

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