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第2話-異世界と選別と遭遇

 そこには明らかに日本にはない植物が存在していて、けれど、鼻につく香りは自然の豊かさを感じさせた。

 視覚と嗅覚が捉える物は、これでもかという程に俺達の知ってる世界ではない事を訴えてくる。辺りを見回してみても、人工物だと頭が処理できる物は無かった。


「ここ……、どこだろう?」


 状況を確認して、やっと言葉に出来たのは知らない事を知らないと肯定するだけの、まるで白に透明を被せて白色ですと表現しただけの物。


「アマたんの言う通りなら、私達にはわかんないよ」


 幾ら問答を重ねても、何も発見が無いのなら、この話題は止めようと美玲は暗に口にした。

 彼女の言うとおりで、もっと建設的な話をする必要がある。右も左もわからないんだから少しでも情報を集める必要がある。


 まずは身の回りの物の確認、俺と美玲が着ているのは高校の制服で、首にはお揃いで買った磁気ネックレスを身に付けていた。ついさっき友達から貰った指輪は掌の中だ。


「……アマたんがくれたこの指輪って、普通のじゃないよな?」


 あのタイミングで、あの友達(アマたん)が只のアクセサリーを渡してくるとは思えなかった。


 この世界も地球と同じように太陽はあるみたいで、俺は綺麗な指輪を太陽に翳してみる。世界が違うらしいから、それを太陽と呼んでしまって良いのか怪しいけどな。


 特に指輪に変化は無かった。ま、そりゃそうか。


「これ、どうやって使うんだろうね……?」


 美玲は輪に瞳を覗かせながら辺りを見回す。そんな彼女を視界の端に収めながら、もう一度だけ俺も辺りを見回す。


 うん、何もない。わかるのは青々とした草原があって、地平線の先とまでは言えないけど、でも、かなり遠くに森がある事だけだ。


「ねね、ちょっと我儘……言っても良い?」


 その表情はとても真剣で、けれども少しだけ頬を染めていた。そんな普通じゃない表情に俺も思わず身構えてしまった。


 それでも、大人しく彼女の言葉を待つ。


「指輪、嵌めて欲しいな」

「ふはっ……」


 声に出てしまった。いや、あんまりに真面目に言うもんだから、もっと深刻な事なのかと思った。


「あ、笑うなっ! 私、真面目に言ってるのに……」


 これ以上声に出すと、本格的に彼女を怒らせてしまう。今の状況でヘソを曲げられたら困る。


「ごめん、もっと重たい話かと思ったからさ」


 頬の緩みを誤魔化す為に、正直に弁明しておく。どうせ嘘を吐いたって、彼女にはすぐにバレてしまうから悪手が過ぎるしな。


「良いよ。貸して」

「ん……」


 彼女から指輪を受け取った。けれど、差し出された手の平が引っ込められる事はなかった。


「陵の、貸してよ。私が嵌めたい」


 ああ、そう言う事か。自分の鈍さにちょっと嫌気が差すな。


 あんな盛大に告白されたからか、今まで以上に彼女の存在が大きくなっているからか、いつもなら気にも留めない様な事が、今はとても気になってしまう。


 指輪を渡すと、差し出した左手を彼女に掴まれる。そのまま薬指に嵌められた。


「良いの?」

「陵が良いから良いんだよ」


 流石にこういう事柄に疎い、鈍い俺でも彼女の意思はしっかりと伝わっていた。こう……なんか、こそばゆいな。


「ん、じゃあ嵌めるよ」


 彼女に差し出された左手に、薬指に指輪を嵌める。


「ありがと、陵」

「こちらこそ、どういたしまして」


 彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。それは酷く煽情的で心音が加速してしまったけど、きっと美玲には届いていない……はずだ。


「ところでさ、これってどうやって使うんだろうね」


 そんな俺の想いを他所に、左手を上げて満足そうに眺めた彼女は呟く。ちょっと恨めしい気もしなくもないけど、こういう所も好きなんだよな。だから、恨めしいけど嫌じゃないんだ。


「どう使うんだろうな……」


 俺も彼女に倣って、空に指輪を翳してみる。でもまあ、想像してた通りで、指輪に変化は全くなかった。


「わかんないね~……おっ!?」


 らしくない声をあげた。これは素で驚いたな。でも、幼馴染とは言えど、何で彼女が驚いたのかまでは、皆目見当が付かなかった。


「なになに……ふむふむ、なるほど」


 何やら一人で考え込んで納得し始めてる。お願いだから置いてきぼりにしないでくれ。


「どういうことだ?」


 教えろと言外に意味を混ぜる。


「あれ? この透明な板、陵には見えてないの?」


 透明な板? そんなの俺には見えないぞ?


「指輪から急に出てきたんだよね」


 指輪から急に出てきた透明な板、か。もしかして指輪の装着者にしか見えないのか?

 そんな仮説を立ったなら取り合えずは試してみよう。起こった事をすぐに検証するくらいしか、俺達にやれる事なんて無いんだから。


「……開けっ」


 そう呟いて指輪に念じると、指輪から透明な板が飛び出てきた。これが美玲にも見えてるって事で良いのか?

 透明な板の姿形が、彼女が見ている物と同じなのかを擦り合わせたい。取り合えず色々なボタンがあって……うん、なんだかこれ既視感あるなって思ったら、前までやってたゲームのメニュー画面だ。


「美玲に見えてるのは、ゲームのメニュー画面で……あってる?」

「……あってる」


 アマたんはもしかしたら、この指輪を作ってる時にオタクを拗らせたのかもしれない。いや、元々俺達と出会った時には拗らせてたし、もしアマたんが天照大御神だとするなら、数千年前から色々と拗らせてる事になるけど、うん、何も気が付かなかった事にしよう。


 メニュー画面には様々なアクションをする為のボタンがあった。その中で一番に目に入ったのは、装備と書かれたボタンだった。


 目に入ったので取り敢えずタップする。


 すると、透明な板は一度画面を開きなおした。PCでウィンドウを開き直してるのと挙動が全く一緒でビックリする。

 この指輪、本来はどんな用途で造られたのかめっちゃ気になるけど、それを聞くことが出来る相手は残念ながら居ない。


 新しいウィンドウには、腕と脚と体防具、それから、メイン武器とサブ武器の合計五つの枠が描かれていた。体防具には"制服"と表示されていて、他は"なし"と書かれている。


 ……まんまゲーム仕様だな。


 今居るこの世界はどうしようもなく現実なのに、装備がゲーム過ぎて途方の無い違和感に襲われる。


 制服と書かれた場所をタップすると、鎧マークの付いた物が数種類表示された。その中の一つをタップしてみる。すると、もう一枚の透明な板が出現した。そこには鎧の説明(だと思う)が書いてあった。


 名:光速の羽衣

 光速行動:パッシブ

 ※破壊不能


 よくわからないけど、速く動けるようになるって事はわかった。でも、鎧マークをタップしても装備する事が出来ない。


 もしかして、そこは流石に自分で着ろってことかな……


 取り合えずシングルタップで動かないなら、ダブルタップをしてみよう。


「りょ、陵?」

「お、成功した」


 美玲がまじまじと見てくるので、流石に服が変わったのだと気が付いた。身に纏った羽衣は眩しく輝いていた。


 目が痛いからまずは制服に戻そう。眩しいのはちょっとな。


「装備のボタンを押すと、服を変えられるみたいだ」


 制服に戻して、端的に彼女に説明する。


「へえー」


 そんなぶっきらぼうな返事をした次の瞬間から、彼女はコロコロと服装を変え始めた。時たま可愛いのが紛れ込んでいて、少しどぎまぎしたのは内緒だ。


 っと、そんな事を考えてる場合じゃないぞ。もうここは地球じゃないんだ、知らない大地なんだ。流石に俺でも武器が無いなんて怖すぎる。 


 武器:なし


 と書かれている場所をタップすると、何種類かが武器のマークと一緒に表示された。何が良いんだろうな。うーん……あ、銃があった。


 名:ノーバウンド光線銃

 ロックオンシステム:アクティブ

 反動制御システム:パッシブ

 連射可:パッシブ

 ※破壊不能


 説明文を見ると強そう。


 右手に装備してみると、形は思ったより未来感があった。ちょっと高めの水鉄砲みたいな見た目をしている。

 うーん、やっぱり飛び道具は好きになれないな。幾千幾万と振り続けてきた刀や薙刀の方がよっぽど身体に馴染む。


「え、なにそれかっこよ!」


 自らを着せ替え人形をしていた彼女は、俺が取り出した武器を見るなり凄い勢いで距離を詰めてくる。


 美玲、銃とか好きだもんな……


「武器のボタン押すと出てくるよ」


 瞳をキラキラさせた美玲に教えると、すぐに同じものを取り出した。


「色々書いてあったけど、なんだろうね?」


 あ、そう言えば美玲って説明文を読み飛ばすタイプだった。俺? 俺は説明文を見てもよくわからなかったよ。


 武器に関しては特に、近接武器しか握って来なかったし、それすらも現代日本で使う機会なんてほぼ無いに等しい。

 なんなら親族が道場主でも無い限り、刀を握る機会なんて、自分から作りにいかなければ与えられる事なんて無いからな。


「さあ? ちょっと撃ってみようかな」


 右腕でしっかりと銃を構えて、それに左手を添えて目標を決める。草原の先に立っている一本の木を狙う事にした。


 引鉄をひいた。


 実銃とは違い全く反動が無くて拍子抜けする。放たれた光線は目標には当たらずに、近くの地面をえぐった。


「「やば……」」


 俺も美玲も互いに顔を見合わせるしかない。それくらいの破壊力が光線銃にはあった。アマたん……、なんて物を渡してくれたんだ。


「この武器……」

「やばいね……」


 でも、やばい武器だからこそ使いこなしたい。しっかりと武器を知っておかないと、いざとなった時に使える訳がない。それは強力な武器だろうが、黒曜石で出来たぼろっちい旧石器時代の槍だろうが変わらない。


 処女撃ちが人相手とか勘弁したいしな。そもそもこの世界に人が居るかなんてわかんないけど。


 色々と機能があるみたいだし、指輪も“開け”って言ったら動いたんだから、同じようにアクティブって書かれた機能も呟いてみる事にする。


 すると、光線銃の上にスコープが出現した。ほぼ生えたに近かった気がしなくもないけど、細かい事を気にしてると剥げそうだし気にしないでおく。


 いや、なんだよスコープが生える銃って……


「これなら外さないかな……」


 気を取り直してスコープを覗き込む。先程狙った木に再び照準を合わせる。引鉄をひくと光線は真っ直ぐに放たれて、木の幹を溶かすように貫いた。


 幹の上半分が宙を舞い地面に転がり、ずずんという音が草原に鳴り響いた。


「なるほど、こう使うのか」


 やっぱりパッシブと書かれた機能は、常に機能しているみたいだ。でなきゃ、この威力で反動が無いのは可笑しい。


「「!?」」


 突然、身を震わせるような叫び声が聞こえた。何かの絶叫にも思えるし、猛獣の咆哮にも聞こえたそれは、確かに恐怖感を煽る物だった。


 手を引いて、声から彼女の身体を遠ざける様に隠す。もう片手に持っていた光線銃を構えて、周囲を警戒するも猛獣の気配はない。


「あ、あれ……」


 美玲が指差したのは遥か遠方の青空だった。そこには確かに巨大生物が大きな翼を羽ばたかせていた。


『敵性生物の反応を感知、警戒してください』


 急に声が頭の中に響いた。気になるけど今は考えている余裕が無い。スコープ越しに巨大生物を覗いてみて、明らかな肉食獣であるとわかってしまったからだ。

 端的に言えば肉食恐竜に翼が生えたような形だ。空飛ぶトカゲと言っても良いかもしれないし、人によってはドラゴンだと言うかもしれない。


『敵性生物の解析を始めます。指輪を対象の生物に翳してください』


 酷く無機質な声が頭に響き渡る。不明な声に身を任せるのは気に入らないけど、この際は仕方ない。俺達は大人しく空飛ぶトカゲに指輪をかざした。


『解析完了。光線銃による射殺が可能です』


 光線銃を使え……と、そう言われているようなもんだな。指示通りにするか一瞬悩んだけど、どちらにせよ今使える武器は光線銃しかない。


 光線銃を構えて、宙を舞うトカゲをロックオンした。


「ねえ、私がやっても良い?」


 スコープまで覗いたのに、彼女がそんな事を言い出した。


「それは良いけど……」


 でも大丈夫かな。俺はちょっと特殊な家系の生まれだし、争い事に免疫があるけど、美玲はあくまで一般家庭の生まれで、偶然にも俺と幼馴染だっただけに過ぎない。


「おっけー」


 けれど、そんな心配は他所に彼女はあっさりと光線銃の引鉄をひいた。


 光線は空飛ぶトカゲの土手っ腹に風穴を空ける。


 鮮血がとび、飛び散った肉片と共に地面に落下した。


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学園モノはカクヨムにて→欠落した俺の高校生活は同居人と色付く。

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