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第11話-最後の依頼

 魔族を倒してから、数日が経った。


 レイアから暫くはこの宿を拠点にすると言われ、毎日毎日、彼女の商談に俺達は付き合った。ちょっとした暇な時間で、盗賊のお宝で調味料なんかを買い込んだりもした。


 目の前でお金が増えたり、お得意様が増えていく様を見てると、ほんとにこの少女はなんなんだろうと思う。


 こんこんっ、部屋の扉が叩かれる。


「どうぞ〜」


 部屋に訪れるのなんて、雇い主のレイアくらいだ。彼女への対応は基本的に美玲がする。


「いつもいつも、押し掛けてすみません」


 少女は申し訳なさそうな顔をしていた。


「まあ、雇い主だからでーんって構えてれば良いんじゃない?」

「そんな、色々と無茶もして頂いてるので……」


 護衛以外の業務についてを言ってるのかな。そんなに無茶って感じもしなかったけど。


「で、今度はどんな相談?」


 最近レイアが訊ねてくる時は、決まって相談事がある。俺達に話して何になるのかって思わなくはないけど、美玲が楽しそうだから別に構わない。


「……実はブライドをクビにしました」

「ああ、全く見ないなって思ったら」


 数日間、全くブライドの姿を見なかった。それに疑問に思う事はあったけど、納得したよ。


「問題はその後でした。父から召還命令……みたいな物が出されまして、どうやらブライドをクビにしたことを怒っているみたいなのです」

「ああ、父親の紹介なんだっけ?」


 紹介をクビにしたら、紹介先に怒られたって奴か。


「そうなのです。……で、問題は召還命令にミレイさんと、それからリョウさんを連れてくるように、と書いてあるのです」

「あー…………」


 美玲が遠い目をした。俺も死ぬほど面倒だなって思ったよ。


「ブライドが完全に裏切ったってわけか。普通、過去の雇い主だからって人に話すもんなのか?」


 思わず気になって口を開いてしまった。


「話しません。特に護衛なのに口が軽いって知られていたら、誰も雇いたがりませんよ」


 少女は苦い表情を浮かべた。まあ、普通はそうだよな。


「元々、ブライドは親の手の者でした。私の監視も含めていたのでしょう。恐らく、今まで彼を連れていた商談の話も、父に流れてる事でしょう。

 …………最悪ですよ」


 子の業績を親が奪ったような物か。


「取り敢えず、召還命令に応じないと指名手配される可能性もあるので、お二人にも応じて頂かねばなりません」


 そう言って、本当に申し訳ありませんと、少女は悲痛な面持ちで頭を下げた。


「まあ、それは良いよ。指名手配されても、別の国に行けば良いだけだし」


 この国が故郷って訳じゃないしな、金銭的な物で困りそうだけど。

 そう言えば、この国の通貨って別の場所で使えるのか? いや、無理だろうなあ。金貨は金として売れるかもしれないけど。


「……で、本題はそれだけじゃないでしょ?」


 美玲が何かに気が付いたみたいだけど、俺には全く検討もつかない。


「もし逃げる必要があった場合、本当に差し出がましいお願いなのですが、私も連れて行って頂けませんか?」


 逃げるって事は、無理難題をふっかけられる可能性が高いのか?


「そうなる可能性は……あるの?」

「無いとは言い切れないかと」


 苦笑していた。少女の身の上の話は知らない。けど、もしかしたら過去にも似たような事があったのかもな。


「陵」

「俺は良いよ。ただ、無理だったら諦める」


 俺達がお互い以上に優先する物なんてない。

 たとえ年端のいかない少女であれ、美玲以上に優先するなんて有り得ない。……でも、手が空いていたら拾ってやったって罰は当たらないだろ。


「それで構いません」

「もしそうなったら、全力は尽くすよ。他の護衛はどうする?」


 マリオもエルフも、俺が本気で戦うとなれば只の足枷にしかならない。

 正直な事を言えば、実力で言えば美玲だって邪魔になる。彼女は俺のサポートに徹してくれているから、色々と俺の事を知っているから、足枷にならないように動けているだけに過ぎない。


 頼もしいと思うよ、本当に。


「マリアさんは、雇ったばかりなのですけどね」


 つまり、雇い続けたりエルフとのやり取りを期待したり出来ないってことだ。その言葉は未来が確定されている気がして、俺の中の闘争本能に少しずつ火が灯っていくのを感じた。


「いつ行くんだ?」

「日が落ちかけたあたりです」


 夕方か。


「……アップしてくる。美玲、こっちは任せた」


 実戦に準備運動はない。けど、準備運動した方が身体スペックを余すこと無く使えるのは事実だ。


 

 **


「そういう訳ですので、マリアさん、マリオさん、今日でお仕事は終わりです。手切れ金はこちらになるので、お好きになさってください」


 レイアは金銭の入った袋を二つ、地面に置いた。


「お待ちください。俺はミレイ様やリョウ様に勝手に同伴させて頂いているだけです。……なので、こちらは受け取れません」


 そう言えばマリオって護衛じゃなかったんだよね。あんまりにも護衛として優秀で忘れてたよ。


「では、私は偶然落としちゃったので、拾うかはお任せします。捨てても良いですよ。……では、また機会があったらよろしくお願いします」


 レイアはさっさと彼らの部屋を後にした。


「はあ……親って厄介ですよね」

「まあ、なんとも言えないかな」


 少女の言葉に何と言えば良いのやら。人に寄るが正しいから。


「後は時間を待つだけですね」


 私達がやるべき事はもう無い。



 **


「リョウさん」


 雇い主の声を皮切りに、振っていた剣を仕舞う。


「そろそろか」


 装備は……一番動き易い奴で。


『了解』


 以前、魔族と戦った時と同じ装備を身に纏う。


「行ける」

「はい、お手数お掛けします。リョウさん、ミレイさん」


 護衛をしていた美玲と俺に、各々に目を合わせる。よく顔色を伺う少女だと思う。俺達は足を領主の屋敷に向けた。




「ではレイアよ。何が理由で我の顔に泥を塗った?」


 前座の挨拶を済ませ、やっと本題に入った。


 かつては傷だらけであった男が、玉座で偉そうに座っていた。そのすぐ隣にブライドが立っていた。俺達は扉のすぐ傍で立ったままだ。用が無い者は手前で待っていろって事らしい。


 色々な視線を感じるけど、合わせてやる気にはならないな。


「ブライドが私の邪魔になると判断したからです」

「ほう……」

「また、護衛として役に立たぬと判断しました」

「ブライドは我が騎士団で、かつては騎士団長を務めていた男だぞ? 何処に不満があると言うのだ」


 あれが騎士団長だったのか。へえ…………


「具体的に言えば、今回にお父様から頂いた手紙もそうですが……何故、雇い主の情報を他人に流しているのでしょうか?」

「それは我がブライドを雇い直したからに過ぎない」

「それに、ブライドは私を主として認めていないのです。中途半端な内心を抱えた者は要りません。

 ああ、それから……雇い直したのではなく、正しく騎士団長として私の行動を監視していただけでしょう?

 私から金銭を受け取っておきながら、護衛ではなくお父様のスパイとして、私と共に行動していたのですから、雇うのを止めるのは当然の決断だと思われますが?」

「ふむ。そこまで強気なのは、新たな護衛のせいか? ……そそのかされたか?」

「いいえ、正しくブライドより優秀ですよ。ええ、お父様の騎士団長よりよっぽど」


 今まではあくまで下手に下手に出ていたのに、不穏な言葉を男が発すると同時に、レイアは高圧的に言葉を叩き付ける。


「ほう……であれば、今この場で証明せよ」


 ブライドが帯剣していた武器を持って、一歩前に足を踏み出した。そのままレイアに斬りかかった。


 ぱぁん!


 美玲の銃が火を吹いた。ブライドはそれがまるでわかっていたかの様に、身を翻らせて躱した。俺達の戦い方を多少は知っているから、そこまでは想定内だ。

 その一瞬の間に俺の足が間に合った。少女と裏切者の間に身を滑らして刀を抜く。流石に分が悪いと、ブライドは距離を取った。


「……お父様、これは何のつもりですか?」

「お前の護衛は優秀なのだろう? これくらい乗り切れて当然ではないか」


 随分と上から目線なこって。


「レイアさん、あれは倒して良いのか?」

「ええ。……殺して良いです」


 殺して良いなら物凄く楽だ。手加減する方が難しいんだよ。

 ここの騎士団長様は、俺の全力の一閃を抑えられるか?


 納刀して体重を前に寄せる。


 ブライドが脚を踏み出した一瞬で、俺の刀は肉体を通った。


 ……おい、流石に一撃で死んでくれるなよ。


 上半身が地面に転がった。


 言葉を交わした人を殺すのは、赤の他人を殺した時とは違う感覚になるな。


「ここまでだとは……」


 領主の男が驚きの声を上げていた。


「これで……ご理解頂けましたか?」


 レイアが一瞬の戦闘を見届けて、玉座に一歩進んで言葉を紡ぐ。


「動くなっ!!」


 一瞬の出来事に放心していた騎士たちが一気に抜剣した。数は……10か。


「そこの護衛よ。我に雇われないか?」

「丁重にお断りさせて頂きます」


 少なくとも俺からしたらお前のやり方は気に入らないし、そもそもレイアに雇われたのがマグレだ。


「だがな、その腕を我が愚娘に遊ばせておく訳にはいかぬ。国に使う事こそ、意味のある事だ」

「丁重にお断りさせて頂きます」


 何でお前らの為に人を殺さなきゃいけないんだよ。ってか、誰かの為に鍛錬してるわけじゃない。


「首を縦に振らねば大変な事になるぞ。……それがわかってるのか??」

「丁重にお断りさせて頂きます」

「そうか。では、ここを去った後に騎士団長を殺した罪で指名手配にしよう」


 ああ、権力を好き勝手に使ってるタイプなのか。


「……まあ、そもそも、ここから生きて出られたら……だがな。やれ」


 騎士が動き出した。お前はさっきの一撃を見てなかったのか? それとも、騎士団長を殺す程の一撃だから、連発が出来ない必殺技だとでも思いこんだのか?

 なあ、どうせ指名手配されるなら、公爵を殺しても変わらないよな。あの玉座に座っている男を殺したい。レイアの父だとかどうでも良い。その殺し合い、買ったからな。


「陵、レイアさん、伏せてっ!」


 その声で反射的に地面に伏せた。レイアを庇いながら地面に身を張り付ける。頭上を高出力の光線が通り抜けた。

 10人の騎士は、腰より上が無くなっていた。

 美玲の方を見ると、キツネ耳に三本の尻尾、それから見た事のない大きな銃を構えていた。


『大型ビームライフルです』


 なんだそりゃ知らない武器だな。…………まあいい、邪魔は消えたし、さっさと殺すか。


 玉座の前に立ち、刀を振り下ろした。


 命乞いをしてた気がするけど聞こえなかった。


 …………ああ、聞くに絶えなかっただけか。


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