表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/145

第7話-目的地と襲撃②

 馬車を走らせて、数日が経った。


 盗賊やら何やらに襲撃される事も多々あったけど、特に困ったりはしなかった。


「皆さん、見えてきました!」


 レイアが指し示す先に視線を向ける。そこには、立派な城壁があった。恐らくあれが、バレル公爵が収める土地なんだろう。


 レイアが空間魔法で、私達は指輪に収納出来るお陰で、物資が豊富で途中で街に寄ったりとかする必要が無い。

 レイアの故郷が思ったより遠くなかっただけかもしれないけど、こんなに早く目的地に着くとは思わなかった。


 土地勘が無いから、距離とか全くわからないんだよね。そりゃ地球じゃないし当たり前なんだけど、かなり不便さを感じる。


 街壁の外には、幾つもの馬車が並んでた。並んで入らなきゃいけないから、待ち時間憂鬱だなーとか思ってたんだけど……

 レイアがバレル公爵の娘だからか、特別な窓口からスルッと領地内に入れちゃった。


「おお……」

「凄いな……」


 凄い凄い! めっちゃ賑やかじゃん。


 地球にあった昔の商店街みたいな感じで、滅茶苦茶活気があって、本当に沢山の人が居て、ガヤガヤしてて、凄いねこれ。


「喜んで頂けて光栄です」

「レイアさんってほんと、とんでもない家の人なんだね……」

「でも庶子……ですよ」


 私達には庶子かどうかは関係無いからね。ただただ、凄いって感想しか出てこないや。


『敵性反応あり』


 それにしても敵さん、少しは素直に楽しませて欲しいな。


『監視されています』


 あいよ。


「レイアさん、今日はどうするの?」


 到着はしたけど、到着後の予定は聞いてない。


「このまま父上に会おうと思ってます」

「ん、りょーかい」


 私も陵も腰に武器を携える。


「マリオ、戦闘体制」

「は、はい」


 陵の指示で、馬車の中に数体の人形が出現する。人形は以前の打ち合わせ通り、レイアの両隣に座る。


「もう……ですか?」


 ピリついた空気に、レイアが気が付かないわけもなく。


「監視されてるっぽい。安易な行動は謹んでね」


 敵性反応の位置は?


『こちらです』


 大通りの真ん中を馬車で走っていて、その両脇に様々な露店があって、本当に様々な格好の人々が歩いている。


 その人々な中に数人……か。


 先に暗殺……って訳にもいかない。この大往来では無理だ。


「ミレイ、リョウ、俺は馬で手一杯だ。……任したぞ」


 ブライドの声が聞こえた。彼も色々と気が付いているらしい。


 馬車の前方から悲鳴が上がった。


「おい!? あぶねえだろ!! ……大丈夫か?」


 ブライドが馬車を止めて、馬から降りた。


『子供が馬車の進行方向に投げ出されました』


 ……やられた。馬車の足を止めて集中攻撃するつもりだ。


「戦闘準備、来るよ」


 住民が居る大往来で、白昼堂々と仕掛けてくるとは思わなかった。


「行ってくる」

『後方です』


 指輪よりも陵が早かった。レイアに向かって放たれた矢を叩き切って、馬車から飛び降りた。


「ミレイ様、壁役は俺にお任せください」


 フード男は馬車周辺にも人形を召喚する。不用意に馬車に人を近付けない為だ。


 ……はあ、やるしかないか。


 ホルスターから、対の銃を取り出す。


「前方、敵です」

「……わかってる。レイアさん、伏せてて」


 馬車を囲むように出現した人形達。それに接敵した瞬間に片っ端から引鉄を引く。

 放たれているのは、フード男に使った封印術式が仕込まれた銃弾だ。


 一人、二人、三人……待って、襲撃人数多くない?


 一人ずつ弾丸を撃ち込んで動きを封じてるけど、流石に数が多過ぎる。


『右斜め上、矢』


 指輪のサポートに頼りながら、視界に映らないそれを撃ち落とす。


 陵、遠距離武器の制圧を早くっ!


 人だけならまだ何とかなるけど、遠距離武器に押し切られるのは時間の問題だよ。


 **


「これで三人……と」


 血の着いた剣を振る。


 住民が沢山居る大往来で仕掛けてくるとは思わなかったから少し動揺した。せめて裏路地に入った時とかを想像してたな。

 とか思っても、緊急事態で動揺している暇なんてない。迷ってる暇なんてないから、今ここで剣を振り切ったんだ。


『急いでください』


 次の射手ポイントは……そこか。やっと見つけたぞ。


 随分と見つけにくいのが一人紛れてた。急かす割に指輪も敵を見つけられていないのが、なんだかんだで敵を仕留めるのに無駄な時間を掛けさせてる。


 そもそも今回の索敵に関して言えば、俺の方が圧倒的に早かった。射手が居そうな場所と美玲に放った一撃を目で見て、斜線を辿って探しているのに対して、指輪は悪意や敵意を読み取ったり、あとは全方位をスキャニングして敵の洗い出しをしてるから、俺に比べて時間が掛かるんだろう。


『( ´・ω・`)』


 落ち込まなくて良いから、目標までの最短経路を提示してくれ。


『承知しました。100m先、塔の上です』


 俺が向かって走る間にも攻撃は続く。このままだと美玲の手が回らない。先に牽制する為の道具は無いか?


『弓と空気の矢を、召喚します』


 剣を鞘に仕舞い、弓を握って矢を引いて、目標に向けて放つ。目標が居る塔の壁にぶち当たり、大破させた。


 ……流石に100mもあると、風やら何やらで当てるの難しいな。


 馬車に対しての攻撃は止んだけど、それは目標が俺に替わっただけで、何ら解決に至っていない。


 なあ、空を走れたりしないか?


『可能です。エアロ・ブーツを装備します』


 履いてた靴が厳つい青色の物に変わった。


 思い付きは伝えてみるもんだな……っと!?


 余所見をすると直ぐに矢が飛んでくる。飛んできた矢は着弾と同時に砕け散った。これ、普通の矢じゃないのか。


『我々が作り出す空気の矢と同じものかと』


 なるほど、魔法とかの類な訳だ。俺にはよくわからん。


 ……で、この靴はどうやって使うんだ? 練習無しで使うのキツイって。


『そこに地面があると思い込んでください』


 ??? いや、よく分からん…… 地面がある地面がある地面がある……


 そんな事を考えてても、飛んでくる矢の数は全く減らない。空中を歩けるようにもならない。


 ……なんか、時間を無駄に使ってる気がする。


『陵様、お下手ですね』


 おいっ!? 随分と直接的な罵倒だな!? 


 もういいや、そのまま行くか。


 屋根を蹴って走り出す。屋根から屋根に飛び移り、飛んできた矢を弾きながら塔に少しずつ近づく。


 近付いて思ったんだけど、敵の顔が視認出来ない……よな?


『何らかの方法で顔や存在を隠しているようです』


 発見が最後になったり、指輪が見つけられなかったのはそれが原因か。

 まあ、一番手強い相手が最後に控えてる方が、時間を無駄に使わずに済むし、結果論ではあるけど効率は良くなった。


 塔の真下に辿り着いた。

 ……さて、こうやって狙われてる状態で、どうやって登るかな。


『スパイクシューズを装備します』


 靴がまた変わった。今度は足裏に凶悪な棘が生えていた。突き刺して進めって事か。


 ガキンっ


 壁に足裏を突き刺す。そのまま垂直に登れ……そうだな。これならいける。

 壁を歩くように、上から飛んでくる矢を全て叩き落として前に進む事にした。

 今の俺にはそれしか出来ないし、別の手段を探す気にはならなかった。


 **


 まさか、街で見えた敵性反応全てが、今この瞬間に襲いかかって来るとは思わないでしょ。


 一応、レイアの立場的にあれだから、殺さないようにしてるけど……ぐぅ……


「キリがありませんね」


 フード男-マリオがボソッと呟く。


 敵の人達って操られてるって訳じゃないんだよね?


『はい』


 って事は、大々的にレイアに懸賞金でも掛けたのかな。


『レイアが帰ってくる事、それ自体が予想されていた物だと思われます』


 先手を打たれたって事ね……


 馬車は私が中から銃を撃ちまくってるせいで穴だらけ。こればっかりは許して欲しいと思う。


 何かレイアの顔を隠せる物ない?


『こちらを』


 一つの大きな布が、右腕に引っかけられる。

 一瞬だけ片方の銃を地面に置いて、毛布を投げるようにしてレイアに掛けた。


 がしゃあん!!


 それが油断になったのか、後方を守っていた人形が叩き壊された。


「ミレイ様、新手ですっ!」


 知ってるよ! 見えてるもん!


 滅茶苦茶筋肉のある男がそこにはいた。賞金首ハンターって所かな、結構強そう。


 マリオは馬車の周辺警戒で手一杯、ブライドは前方で対応してるんだろうし……私がやるしかないか。


 ……はあ、こういうのは本当は陵に任せたいんだけどな。


 左手にナイフ、右手に光線銃を持って馬車から飛び降りた。手元狂って周りを巻き込んじゃっても恨まないでね。


「すげえ大金が掛かってるから、どんな従者が降りてくるのかと思いきや……こんなに可愛いお嬢ちゃんだとは思わなかったな」


 男は何やら楽しそうだ。


「・・・」


 敵との会話は極力してはならない、どんな情報を渡してしまうかわからないから。これは陵のお爺さんの言葉だ。


「随分とつれないな」


 面白く無さそうな顔をしようが、私には関係ない。


「じゃあ、このまま死ねや」


 街中で大っぴらに剣を抜いた。それもかなり大きい。


 露店の店主も、遠目から見ていた住民も急に阿鼻叫喚になり、やっと逃げ出す人が現れた。


 銃に見慣れないし知らないから、銃声だけじゃ多少騒がしいなくらいにしか思って無かったのかも。フード男の人形バリケードも、むしろ物見遊山な人が集まってきたくらいだしね。

 敵に撃ち込んでる弾丸も封印術式ってだけで、血が飛び散ったりする訳じゃないから、余計にアトラクション風に見えていたのかもしれない。


 この男は……殺すしかない、よね。私に迷えるほどの腕はない。


 光線銃の引き金を軽くひく。じゅっ……という音がなった。


 あんまり長く引き金に指を掛け過ぎると、光線を放射し続けて貫通しちゃうから、特に街中だと神経を擦り減らす。


 狙いと結果はズレてしまった。心臓狙ったのに、光線は右脇を抉った。


「ぐあっ!?」


 躱されたって事だ。この男それなりの腕があるみたい。今まで封印術式を打ち込まれていた有象無象とは違うんだね。


 そりゃそうだよね。じゃなかったら、マリオの人形バリケードが突破されてない。


 諦めずに光線銃をひたすら撃ち込む。全て躱されたけど、男との距離は取れた。


「なんだその武器……」


 饒舌に答えてくれるのは、アニメの中の悪党くらいでしょ。


「割に合わねえ! じゃあなっ!!」


 ぼんっ!


 そんな音と同時に、男は煙の中に消えていった。リアルで煙幕を使う人を見るとは思わなかった。煙が消えると、綺麗さっぱり男の姿は無くなっていた。


 逃げの判断が早くてビックリする。追跡は出来ないの?


『敵性反応はありません』


 無理っぽい。……はあ、完全に逃がしたね。


 **


「そろそろ……っ!?」


 塔のてっぺんまで辿り着いた……と思ったら、敵がふわりと飛び降りたのが見えた。


 ……逃がすかよ。


 普通の靴に戻してくれ。身体能力勝負なら負ける気はない。


『了解しました』


 刺さっていた棘は消えて身体は落下する。敵の逃走経路に向かって壁を蹴った。

 敵は屋根伝いに逃げてる。俺もその後を追う。


『敵性反応がありません』


 ん? つまり、諦めたのか?


『そのようです』


 まあ、だからなんだって話なんだけどな。一度、命を狙ったんだ。しつこく追われる事くらい……簡単に想像できるだろ?


 狙うの止めたからお終い……なんて、俺が許すと思ったか?


 あんまり使わないけど……仕方ない。

 銃を片手に握って発砲する。外れはするけど、敵さんの足元には突き刺さる。それでも、足が止まらない。


 ……手っ取り早く捕まえるのに、何か良い妙案はあったりするか?


『光速の羽衣を装備、起動します』


 光り輝く羽衣に腕が通される。その瞬間に時間が止まった。

 この装備って、こうやって使うのか……


『光速状態に入りました。限界稼働時間、体感で5分です』


 俺の速さが時間を置き去りにした。

 ……えぐいな、この装備。


『非常に危険な装備を使用しています。なるべく早い処理をオススメします』


 そんな気はしたよ。明らかに可笑しい状態だからな。掴まえたら解除してくれ。


『了解しました』


 止まった敵に追い付き、腕を掴んだ。


『光速状態を解除します』

「っ!?」


 敵さんの驚きは掴んだ腕から伝わる。けど、それを容赦なく地面に叩き付けた。


 一本背負い。


「かはっ」


 痛くて苦しいよな。上手く投げてやらないと死んでしまう。


『殺さないのですか?』


 こいつは他の奴とは違いそうだし、詳しい事を知ってるかもしれないからな。


 今の一撃で意識を失ったのか、隠れていた顔が見えるようになった。


 ……俺が知ってる人間じゃない。耳が明らかに長く尖っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブクマ・ポイント評価お願いします!

小説家になろう 勝手にランキング

学園モノはカクヨムにて→欠落した俺の高校生活は同居人と色付く。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ