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第6話-二つ目の依頼②

 美玲の元に少女が訊ねて、早二日立った。


 少女らしくないから、少女の護衛はあんまり困らなかった。

 避難を促せば大人しく避難してくれるし、隠れてろと言えば出てくる事もない。


 美玲はまだベッドの中で、可愛い寝顔を晒していた。

 レイアの故郷に帰る……か。仕事が増えそうで若干憂鬱になるな。

 とは言え、少女らしくない少女の少女らしい頼みだし、断る気にはならないんだけどな。

 彼女が引き受けてしまったからには、全力でバックアップするつもりだし、出来る限りの事はやるつもりだ。


「むにゃむにゃ( ¯꒳¯ )ᐝ」


 美玲は何か美味しい物を食べる夢でも見ているのかもしれない。


 食事と言えば、レイアに雇われてからは食事に困る事はなくなった。

 ちゃんと味付けされた飯が出てくるし、それだけで十二分に幸せだった。強いて言うなら、和食が恋しいって事くらいか。


 調味料も見つけ次第に買い込んでるから、自分で料理をする時も困らないと思う。宿に住んでる間は面倒だからやりたくないけどな。


 美玲の寝顔が可愛いなあって思う。今まで仕方がないなあって感じだったのに、自分の中の気持ちの変化に、俺が追い付かなくて少し驚く。

 手を伸ばして撫でてみる。ふへぇ……と鳴いたと思えば、頭を擦り付けてきた。まるで猫みたいで、思わずにやけてしまう。


 こういう空虚な時間が出来ると、ふと、俺は“これからやっていけるだろうか”って不安になる。

 今持っている力で、この世の中は簡単に生きていける気がした。そうじゃなくて、ちゃんとこの世界を楽しめるだろうか……って事だ。


 高校生活は美玲に助けられてばかりだった。

 俺はあんまり、人に懐かれる性格もしてないし、懐くような性格でもないから、独りで居る時間は本当に多かった。

 テストは何をやってもそれなりに取れるし、美術や体育も特に困った事はない。それが余計に人生ソロプレイに拍車を掛けたのは知ってる。


 何となく面倒くさい。


 そうやって切り捨ててきた物を、拾って俺の前に持ってきてくれたのは、紛れもない彼女だった。


 レイアの件もそうだ。


 そうやって、彼女らしい彼女の隣に居たいんだって、そう思ったんだよなって、再度答え合わせをさせられた気がしたよ。


「陵……?」


 起こしちゃったな。


「きーて」


 美玲が布団を捲って、さあ飛び込んで来いと言わんばかりに両手を広げた。促されるままに、俺は彼女に抱きついた。

 ちょっとだけ、ドギマギしたのは内緒にしたいし許されても良いと思う。今まで幼馴染で親友ってだけで、異性だと意識した事は無かったのだから。


「やー、えっち」

「……うっ」


 ちょっと抱きついた先に胸があっただけだ。故意じゃないから。疚しい感情がある訳じゃないから。


「陵だから許そう〜」


 お前、押し付けてるよな? むしろワザとだよな? 押し付けるのやめない? なあ、やめない?


「嫌?」

「……嫌じゃない」


 美玲は完全に着痩せするタイプだ……と思う。中学生までは気にした事すら無かったと思う。高校生になってからも意識した……つもりは無いけど、今思い返せばスキンシップは減ってた……よな。

 もしかして、美玲がこうやってスキンシップを求めるのは、スキンシップが減った三年間の反動か?


 彼女の胸が更に押し当てられて、直に柔らかさが伝わる。色々としんどい……こっちだって我慢してるのに。


「……我慢し過ぎじゃない? そういう欲望、私にぶつけても良いんだよ?」

「そんな簡単に言うなよ……」


 はいそうですかと服を脱がせて、襲える訳が無い。大切な人に欲望をぶつけるのが、気持ち悪く感じるんだ。


「あはは、ごめんね。私は大丈夫だからね。だから、いつか……ね? ……しよ?」


 今日の美玲は破壊力が無駄に高い。俺はこうやって永遠に振り回されるのだろうか。


 ……まあ、悪い気はしないけど。



 **


「美玲様! 俺も連れて行ってください! 必ず役に立ちますから!」


 マリオネット人形を操るフード男が現れた。ちょうど私達は馬車に乗って、街を立とうとしていた。


 っち、見つかる前に出発しようと思ったのに。


「レイアさんが良ければね」


 自分の命を狙った人物だし、どうせ断るだろうと思って雇い主に話を振る。


「戦力が増えるのは喜ばしい事ですし、私としては歓迎したいのですが……」


 なんでぇえ!? 命狙われたんだよ? この男にだよ!? なんで、あっさり許せちゃうの!?


「過去は過去ですから」

「う〜ん」


 頭を抱えたいよ。何が良くて陵以外の男に好かれなきゃいけないんだ。


「変な事したら、その場で殺すから」

「はいっ!姉御っ!」


 姉御ってなんだよもぉぉおおおお!!!


「なんか、どんまい」

「泣いて良い?」

「やめとけ」


 慰めてくれるのが陵しかいない。悪い事ではないのかもしれないけど、ないのかもしれないけどさあ!?


 馬車の人数は雇い主のレイア、私達、ブライド、フードの男の五人だけ。


 商人みたいな事をしてるのに、馬車が一つしかないのが気になって聞いた事があるんだけど、どうやらレイアは空間魔法って呼ばれる魔法を使えるみたいで、荷物とかは別空間に仕舞ってるらしい。だから、馬車は一つで良いし護衛も数が要らないんだってさ。


 あんまり魔法は上手くないって言ってたんだけど、それって相当に特殊で凄い能力なんじゃないかなって思ってる。

 四次元ポケットなんて無かった。自前だった。異世界美少女すげーってシンプルに思ったよね。


 フードの男と私の間に陵を挟んで座った。ごめんけど、マジで陵以外の男は無理。好意を向けられるのすらキモイ。自分より年下なら百歩譲って可愛いなとか思うかもだけど、年下か年上かわかんないし風貌的には年上だし、もっと余計にホントに無理。


 名前も知らないし。


『フード男の名前はマリオ・ネットランド。人形遣いです』


 知ってるから知ってるけど知らないから。


「顔が怖いぞ」

「甘やかせよバカー!」


 そんな私の思いは他所にブライドが御者する馬車は、段々とタイヤの回転数を上げて、やがて心地よい風が馬車の中を通る程になった。


「こうして走ると、気持ち良いよね」

「……だなぁ」


 心地良い風が、ささくれていた私の心を清めてくれる。


 でも、そんな時間は長く続くはずもなくて、


『敵性生物の存在を感知』


 指輪のアナウンスが心地良い雰囲気を一刀両断した。


「敵がいるっぽい。レイアさん、どうしたい?」


 陵は雇い主に問う。ホウレンソウ大事。


「お任せします」

「ん、わかった」


 レイアは基本的に護衛時の襲撃に関しては、あまり意見を挟んでこない。私達はやりやすいから悪いことじゃないんだけどね。


「フード……じゃなくて、マリオさん、前方に敵が出てくるから、処理してもらっても良いか?」


 陵がフード男に指示を出す。今のうちに実力を見ておきたいって事だと思う。

 フード男の実戦って、私達が取り押さえた時以外に見た事ないし、私もちょうど良い機会だと思った。


「了解しましたっ! 俺の実力……お披露目しましょう!」


 くっそテンションたけえなぁ、うぜえなぁ、とか、朧気に思いながら、黙ってフード男の戦闘を見る事にする。


「敵はどちらに?」

「あっち」


 取り敢えず索敵能力は無い……と。


 フード男は成人男性ほどはある人形を召喚した。その人形を暗闇に見たら私は逃げる自信しかない。不気味で怖いし、お化けとか好きじゃないんだよね。


 人形は馬車から離れて走り出した。走り方も本当に不気味で、せめて、人っぽい動きをして欲しいと思った。関節がダラケている……って言えば良いのかな、上半身は関節バラバラなのに下半身はしっかり地面を掴んでる感じ。


 うーん、小さい子が見たら泣くねこれ。まじ怖い。


「見つけました! 捕獲しますか?」

「出来るならしてくれ」


 私が今回の戦闘に口を挟む事は無い。

 てか、陵の方がそういうの得意だし、私の出番なんて無いよ。


『ちょっと拗ねてます?』


 いや全く。急に鳴り響く地響きとか、急に目の前に並べられた盗賊達とか、私には全くもって関係ないから。


「ただの盗賊かあ……」

「残念ですね」


 陵はレイアの件があっての事だろうけど、レイア狙いでない事がわかって、とても落胆したような顔をした。


 フード男は私が絡まなければ、テンションも上がらないし普通に仕事出来そう。

 いや、きっも。そんなので喜べるほど若くないわ。


『まだ18……』


 うっさいなあ。そういうの無理なんだよね。


「レイアさん、ちょっと寄り道しても良い?」


 陵がなんか面白い事を思い付いたみたい。


「それは構いませんけど……」

「……何するの?」


 今の所、検討は付かないし、陵に素直に聞くしかない。


「盗賊がお宝抱え込んでるらしい。俺達、金欲しいよな?」


 陵の瞳が¥マークになってる気がするのは気の所為だよね? 気の所為であって欲しい。

 でも、確かに私達にお金は無いし、盗賊から奪うなら悪い事じゃないの……かも?


 でも、盗賊とは言え人間だし殺しは嫌だった。


「私は無闇に人殺しをするのは反対かな」


 この世界に私はまだ馴染めてないし、殺すのには抵抗があるよ。やらなきゃいけない事だから、割り切ってるつもりだけど。


「大人しく差し出してくれるなら、戦わないって方向でどうだろ?」

「んー……まあ」


 でも、それって結局は戦う事になるよね?


「ダメです。絶対に殺してください」


 悩んでいた私達にレイアが言い切った。その言葉には確かに強い意志が宿っていた。


「なんで?」

「生かしておいたら、善良な市民が被害を受けます。

 私の故郷でも帰らぬ人になったり、助けられても既に廃人になっていたり……

 なので、やるなら全滅させてください」


 少女の目には少女らしからぬ感情が芽生えていた。それはとても暗い物であることはわかるけど、流石にそれ以上に込み入った話をするつもりにはならない。

 少女の言葉は殺しの大義名分を与えてくれた気もした。殺した方が良いかもって、ちょっと思っちゃったもん。


「……了解。じゃあ、行ってくるわ」


 陵はふらりと森の中に消えた。


「あ、ちょっと待って! 私も行くから!」


 私が居ない所で陵が人殺しをするの、なんか嫌だから。

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