親と子
翌朝の稽古はいつも通りに過ぎ、朝食後兄弟二人が学校に行くとアイナが話しかけてきた
「ゲイル、治療院の見学はもういいわ。何しているところか分かったでしょ」
「うん」
「じゃ、今日は午前中、ダンと一緒に部屋に居てね」
「あい」
さすがにあれだけ騒ぎになってしまった治療院には行かなくていいようだ。
しかし、部屋で待機か。
ダンのやつ、交渉失敗したのだろうか?夜遅くまで話しあっててそのまま帰ったから結果聞いて無いんだよな。任せとけって言ってた癖に。
「ミーシャ、お昼ご飯終わったら、ゲイルを連れてダンと一緒にアーノルドの執務室に来てちょうだい」
「はい、わかりました」
ミーシャと部屋に戻るとダンがやって来た。
よっ!と手を上げるダンをジト目で見る
「任せとけって言ってたのに部屋で待機なんだけど、どういうこと?」
「なんだよ~、その目は。ちゃんと話して問題なくなったぞ」
「だって部屋で待機してろって」
「昼からミーシャも一緒に執務室に呼ばれてるだろ?」
「はい、ダンさんと3人で来るように言われました」
「そこでこれまでの事の確認とこれからの事を話してくれると思うぞ。とりあえず部屋に閉じ込められることはないはずだ」
「そっか、それならいいんだけど」
「あぁ、安心しとけ」
「ダン、疑ってごめん」
気にすんなと言ってカッカッカと笑うダン。
「で、どこまで話したの?」
「ぼっちゃんに魔法の才能があると神様からお告げがあったこと、すでに大人と同じように話せること、ミーシャも無詠唱で魔法が使えること。こんなとこだ」
「分かった。父さんと母さんはどんな反応だった?気味悪がってなかった?」
「すげぇ驚いてたが、気味悪がることなんかこれっぽっちも無かったぞ。それに旦那様は薄々ぼっちゃんがしゃべれるんじゃないかと思ってたみたいだしな」
「父さんとあんまり一緒にいることなかったのに気付いてたの?」
「あぁ、半信半疑だけどな。さすがはアーノルド様って奴よ」
「母さんは?」
「ちょっと淋しそうだったな」
「淋しそう?」
「あぁ、ミーシャや俺が先にぼっちゃんの秘密を知ってたことにな」
「奥様が・・・」
青い顔をするミーシャ
「ミーシャ、気にすんな。お前が一番ぼっちゃんといる時間が長いからだと奥様も納得してたからな」
「は、はい・・・」
ミーシャはアイナに拾って貰った恩を感じてるからな、裏切ったような気持ちになってるのかもしれん。
「ミーシャが先に知ってしまったことは俺が母さんに話すから気にするな。ミーシャは悪くないんだから」
「はい、ぼっちゃま・・・」
まだ落ち込むミーシャ
ミーシャよそんな顔するな、こっちまで辛くなるじゃないか・・
ダンもなんだか気まずそうだな
少し暗くなってしまった空気をなんとかしないとと思ってるうちに昼飯の時間が来た。
「ご、ご飯の時間だから行こうか」
ダンは昼飯後に執務室でと言いながらそそくさと出て行った。
食堂に行くとジョンとベントが帰ってきた。
そこへアーノルドもやって来た。
「あれ、父さん?お昼ご飯を家で食べるなんて珍しいね」
ベントが声をかける
「あぁ、ちょっと用事があってな。たまには昼飯を一緒に食うのもいいだろう」
「はい父さん」
ベントとアーノルドが少し話したあと、ジョンがアーノルドに話しかけた
「父上、相談があります」
「お、なんだ珍しいな」
「はい、中等学校のことなんですが」
「なんだ、行きたくないのか?」
「いえ、そうではなく、王都の騎士学校に行きたいのです」
「なんだ、おまえ騎士になりたいのか?」
「将来はどうなるかわかりませんが、もっと剣の腕を磨きたいのです」
「そうか、ここだと俺との朝稽古だけしか出来てないからな。しかし、騎士学校は試験があって難しいぞ。国中から人が集まってくるからな」
「はい、頑張ります」
「そうか、試験はいつ頃だ?」
「3ヶ月後です」
「なら間に合うか・・・。分かった。やれるだけやってみろ」
「ありがとう父上」
そうかジョンは騎士学校に行くのか。王都の騎士学校はどれくらいのレベルかわからんけど、ジョンなら突破しそうだな。
ふとベントを見ると下を向いたまま、何かぶつぶつ言っていた。
ご飯を食べ終わるといつものようにサラがベントを連れていく。
その後にアーノルドとアイナが執務室に。
ダンが来たのでミーシャと3人で執務室へと向かった
コンコンっ
「入れ」
中からアーノルドの声がする
「失礼しやす」
ダンは相変わらず三下みたいな敬語だな・・・
「ドアを閉めてくれ」
カチャン ミーシャがドアを閉めた
(ゲイル達が執務室に・・・?
子供は入っちゃダメって言われてるのに)
その様子をそっと見ていたベント
「何をしているのですか?ベント様、早く始めますよ」
「サラ、今ゲイル達が執務室に・・・」
「はい、それが何か?」
「何でもない・・・」
すごすごと自分の部屋にいくベントであった
「奥様、申し訳ありませんでした」
「あら?ミーシャ、何か謝るようなことでもしたの?」
「ぼっちゃまの秘密を黙っていて申し訳ありません。それと先に知ってしまって・・・」
「あら、ミーシャが謝る事では無いわ。あなたが一番ゲイルと一緒にいる時間が長いもの。少し淋しかったのは事実だけれども」
「そ、それは・・・」
「それに、初めての言葉も本当はママじゃなくミーシャだったのでしょ?」
「申し訳ありません・・・」
「だから、謝らなくてもいいって。ね、怒ってるとかじゃないから」
「はい、奥様・・・」
「ゲイル、ミーシャの事好きでしょ?」
「みーしゃ すき」
「ゲイル、ダンから聞いてるから普通にしゃべっていいわよ」
・・・・
・・・・・
「はい、かぁさん。ミーシャは本当の家族と思っています」
「き、聞いてたけど、本当に普通にしゃべれるのね」
「黙っててごめんなさい。気持ち悪いでしょ・・・」
その言葉を聞いてばっとアーノルドとアイナが俺を抱き寄せてぎゅぅぅっと抱きしめる
「馬鹿ね、ゲイル。自分の子供を気持ち悪がる親がいるものですかっ」
「そうだぞゲイル!お前は俺達の可愛い息子だ。そんな心配するなっ」
二人とも涙を浮かべながらさらに強く抱きしめる
「ゲイル、ごめんね気付いてあげられなくて・・・辛かったでしょ。何があっても私達はあなたの味方だから気を使わなくていいのよ」
「そうだゲイル。俺達を信じてなんでも話せ。絶対に嫌いになったりなんかしない」
親の愛をヒシヒシと感じる。
俺も元の世界で親だったが、こんなストレートに愛を伝えたことがあっただろうか?子供達は何か不安を抱えていてそれを気付いてやれてなかったんじゃなかろうか?
親の心子知らず、その逆もしかりか・・・
そんな事を思いながらアーノルドとアイナをぎゅっと抱き返す
「ありがとう、父さん母さん」
ダンとミーシャも俺達を見ながらもらい泣きしていた。




