七話
たった今、目の前で起こった惨状に俺は驚愕し、ただ呆然と突っ立っていた。完全に、思考停止状態である。
「ご主人様。たった今、敵の掃討が完了いたしました」
「あ、うん。おつかれ」
俺はクリスタからの報告に、生返事を返すことしかできなかった。そうしているとーーー
「あの、ご主人様、私の実力はちゃんと確かめていただけたでしょうか?」
クリスタが恐る恐ると伺うように尋ねてきた。気のせいかもしれないが、猫耳が一瞬"ピクッ"と動いたように感じた。これは、どう言う感情表現なのだろう。
まだ、クリスタについてわからないことはたくさんあるが、やはりこんなクリスタも可愛いなと、ただ今はそう思う。
俺はそんなクリスタに少しの躊躇いもなく、賞賛を送った。
「もちろん。クリスタの実力は見させてもらったよ。文句の付け所が全くないくらい、最高の戦いだったよ。まあ、素人の俺が言えたことじゃあないけどさ」
「いえ、このクリスタ。ご主人様にそのようなお言葉をいただけるだけで、これ以上なく幸せでございます!」
俺の返事に対して、クリスタは感極まったように眼を潤ませた。声も熱がこもっているのと同時に少し震えている。少し反応がオーバーな気もするが…それがなんかかわいい。
うーん。忠誠心の高いメイドさんって、やっぱりいいよね!
一人、心中でバカなことを考え終わると。俺は最後にクリスタが放った攻撃について聞いてみた。
「クリスタ、最後の攻撃なんだけど、あれなに?」
「あれはただの手刀でございます」
すると、クリスタはそう即答した。
やはり、あれもただの手刀だったらしい。全くもって理解し難いが。ただ、本当にそうなのだとしたら、この世界の人間全体の、身体能力はどうなっているのだろうか?。
この世界は、異世界転生での典型的な、人間の能力が数値化している世界なのだろうか?。だとしたら、俺の心情的には、期待半分と怖さ半分だ。
能力の数値化には自分の能力や目標が明確になりやすいというメリットがあるが同時に、どれだけ体を鍛えても能力値が変動しなければその努力も意味がない。さらには、自分の命がHPなんていうものによって表されてしまう。こんな不気味なものは、ごめんだ、とそう思う。もちろんメリットが全くないわけではないし、むしろ得られる恩恵としては最高のものかもしれない。だがやはりというか、そんなものがない世界から来た身としては受け入れ難いものなのだ。
それで、これが気になってクリスタに聞いてみた。
そして、クリスタが言うには、どうやらこの世界の人間は、基本的に鍛えれば鍛えるほど身体能力が上がっていくらしい。どんな身体の構造だよ、とツッコミたくもなるがさすがは異世界ということで納得しておく。そして、どうやら俺が危惧していたことはないようだ。ステータスというもの自体は存在しているが、それには能力を数値化したものは無いとのことだ。では、なにが記載されているのかというと、そこには自分の名前や年齢、そしてスキルが記載されているのだとか。はい、ここで出ました新単語、スキルってなんだ?。
テルンの奴またなんも説明して無いよ。スキルがなんなのかは、大体想像できるけど一応聞いておくことにする。
「クリスター、スキルって一体なんだ?」
「では、説明させていただきます。スキルとは、そのものが持つ能力を項目化したものです。スキルは先天的に獲得していることもありますが、ほとんどのスキルは後天的に獲得したものが多いです。例えば、スキルにはいくつか種類があるのですが。一つ目に一般技能系スキル、一般技能系スキルは努力次第では誰にでも獲得できるスキルです。二つ目は特殊技能系スキル、特殊技能系スキルはある特殊な条件を満たすことで獲得できるスキルです。これら二つのスキルは先天的にでも獲得可能です。そして、三つ目に固有スキル、固有スキルとは先天的にしか獲得できないスキルです。ご主人様が転生する直前に神から得た能力は、固有スキルに分類されます」
「またまた説明ご苦労さん。ありがとね」
「いえ、また何かありましたら、なんでもおっしゃってください。ご主人様」
「ああ、そうするよ」
こうして何度も説明を聞くと、本当にクリスタには助けられているなと、しみじみそう思うのだった。
てか、呑気にこんな事を話している場合ではなかった。いやまぁ、大切な事なんだけれども。
気がつくと、辺りはほとんど日が落ち始めていた。今俺たちが居るのは森の中なので街灯などの類は全く無いので周りは真っ暗になるだろう。灯りはクリスタの魔法でなんとかなるだろうが、寝床が確保できていない。野宿するにしてももう少しマシにならないだろうか。もちろん野宿の経験などあるわけもなく甘い事を言っている自覚はあるが。
それに、お腹も空いてきた。食料の確保はあの兎の魔物を使えばいいのだろうが、もちろん俺に解体技術など備わっていない。
途方にくれた俺は、すぐさまクリスタへ頼ることにしたのだった。