六話
Sランクの魔物クンラビットと相対した俺たち。そして、奴の高速の猛突進を、文字通りただのビンタで止めてしまった(ぶっ飛ばした)クリスタ。
俺の中で、またしてもクリスタへの評価が大幅に上がった瞬間だった。
「ご主人様。奴はまだ息がありますので、私から絶対に離れないでください」
安堵していたところに、クリスタがそう忠告してきた。どうやら奴はまだ生きているらしい。
「そ、そうなのか?わかった。俺はクリスタから絶対に離れないからな!絶対に!」
俺がクリスタにそう返事をするとーーー
「ご主人様…!!……このクリスタ、必ずや御身をお守り致します!!」
男としては情けないような、そんな俺の返答がお気に召したのか、クリスタは感極まったように、若干眼を潤ませながらも堅い決意を抱いた瞳で俺を見つめた。そんなクリスタに俺は激励をおくった。
「ああ、頼んだ!頑張れクリスタ!」
「はい!お任せください!ご主人様!」
俺の激励にクリスタはさらに気合が入ったようだ。そして、そんなやりとりをしていると、クンラビットがのそりと起き上がりまた動きだし始めた。すると、クリスタはすぐにクンラビットの方へと、鋭い視線を向けた。
先ほどとは違い、なかなか気合の入った眼光に、クンラビットは少し怯むも、ここで引くのはプライドが許さないのか格上相手であるクリスタに再度戦いを挑んだ。
「さあ、来なさい!」
「ギュオァーーーー!!!」
ここで奴は初めて雄叫びをあげた。理由は定かではないが、格上を相手に挑むのに対して己を鼓舞しているのかもしれない。
そして、雄叫びが収まるとクンラビットは、その太い脚を使い遥か上空へと跳躍した。
「おいおい、うそだろ!?」
クリスタから話には聞いていたが、実際に目にするのとではやはり違う。俺はこの非現実的な光景に驚きを隠せない。
そして、クンラビットはだんだんと俺たちめがけて地上へと落下して行き、その太い足で俺たちを踏み潰さんとする。少し焦る俺に、クリスタは安堵させようと声を掛ける。
「ご安心くださいませ、ご主人様。この程度の攻撃、大したことなどございません。すぐに終わらせます」
そう言うと、クリスタは落下してくるクンラビット目掛けて手のひらをかざす。すると、クリスタが手のひらをかざした空間に、なにか大きな力が集まり出したような気がした。
その間もクンラビットだんだんと俺たちのもとへ落下してきていた。そして、ついにクリスタが先ほど、なにかをした空間に到達せんとしていた。するとーーーーー
ドパンッッ!!!!!
ーーーと言う音がしたと思ったら、クンラビットはまたも弾かれるように、大きく吹き飛んでいく。
今なにが起こったかと言うと、クリスタがクンラビットが落下してくる空間へと、事前に魔法で強力なシールドを展開していたのだ。それも、相手の力を利用して吹き飛ばす、自動カウンター付きのシールドだ。そこへ勢いよく突っ込んで行ったクンラビットは、クリスタの狙ったとおり、勢いをつけて突撃した分より自分へと返ってきた衝撃に苦しむこととなった。
「っっっっ!!!!????」
もちろん、明人にはハッキリと認識することはできていなかった。ただ、なんか見えない何かが何かを弾いたくらいの認識だ。そして、ちゃんとリアクションも忘れてない。
めっちゃ怖かった。膀胱に尿が溜まってたら危なかった。ちびるどころじゃ済まなかったかもしれない。いや、本当に。マジで。気分はダンプカーが落ちてくるのを、黙って見物している気分だった。腰が抜けていないだけ褒めて欲しい。
だが、戦いはまだ終わっていなかったようだ。
「さあ、立ちなさい。まだ、戦いは終わってはいませんよ」
やばい、クリスタが怖いと同時にものすごく頼もしい。でも、やっぱり少し怖い。そう少し思ってしまうのは許して欲しい。
「ギ、ギュラーーーッッ!!!」
クンラビットは弱っていながらもゆっくりと、また立ち上がった。大した根性だと思った。
だが同時にーーーー
「良い覚悟です。では、そろそろ決着をつけさせてもらいますよ」
クリスタには、到底叶わないだろうということに若干同情の念が湧いたがすぐに消え失せた。なにより、クリスタのその凛とした声色がそうさせたのだ。
クリスタは30メートルほど先、つまり最初に相対していた時と、ほとんど同じ距離へ戻ったクンラビットへとまたもや鋭い視線を向ける。そして、右肘を後ろへと大きく引き絞り、その手のひらの構えは手刀の形をしていた。
そして、ついに限界まで引き絞られた手刀が、クンラビットへめがけて突き出された。すると、大きなうねりと轟音とともに、強力な衝撃波が大地を駆け抜けて行った。
そして、射線状に立っていたクンラビットは、それをモロに喰らい見事に大きく吹き飛んだ。そして、今度こそ完全に、奴の息の根は止められた。