三話
あの後、自分が口に出したそこそこキザな台詞を思い出し、結構恥ずかしいことを言っていなぁと自覚した。
やばいわ。これ絶対黒歴史認定(自分の中で)されるやつだよ。後になって、布団にくるまって枕に顔を押し付けた自分が、死にたいと連呼しながら悶絶している光景が嫌でも目に浮かぶ。
は〜っ!
できるだけ忘れるように努力しよう。俺はそう決意した。
その後、若干気まずい空気ができたものの(主に作っていたのは俺だが)、俺はおかわりにもらった水を全て飲み終えた。
「まあ、そのなんだ…魔法の使い方とか、魔法についての詳しいこととかはまた今度暇があったら教えてくれ」
「はい。聞きたい時はいつでもおっしゃってください、ご主人様」
「ああ、わかった。そうするよ。じゃあ、その…そろそろ出発しようか」
「はい。ご主人様」
クリスタは俺の持っているコップに手をかざすと、俺の手の中にあった丈夫そうな金属でできたコップが一瞬にして消え去った。
何したんだろう?魔法を解いたのかな?。まあ、それもまた後で聞けばいいか。そんなことより今は…
「あの…さ…、さっき自分で頼んでおいてあれなんだけどさ、本当におぶってもらっても大丈夫?」
そう、先程休憩しようとした時に頼んだことだ。あの時は疲れていて深く考えていなかったが、こんな森の中を女性におぶらせて移動するとか本当に大丈夫なのだろうかと思ってしまう。いや、たぶんクリスタなら大丈夫なのだろうが、心配なものは心配だ。それに、本当に今更なんだが、自分をおぶらせるとかクリスタに嫌がられるんじゃないかと危惧してしまう。いや、これもたぶん大丈夫なんだろうけどさ。
そう、ここにきて俺はチキっていたのだ。万能メイドとはいえ、女性におぶってもらいながら森の中を移動するのは大丈夫なのかと。そういえば、テルンからこの森について何にも聞いてないな。クリスタなら知ってると思って説明を省いたのか?あいつ。魔の森なんていう、いかにも物騒な名前がついていることからもやはり危険な魔物が出たりするのだろうか?。この魔の森に来たばかりの時にクリスタがさりげなく魔物の存在を仄めかしていたけど。ここに来るまでに一度も魔物を見ていないのでやはりどこか実感が湧かないのだ。今更だが、本当にあいつ何も教えてくれなかったな……。やっぱりどこか抜けたとこがあるな……あいつ…。魔物のことも後でクリスタに聞いてみようかな。そんなことを考えていると……
「ご心配いりません、ご主人様。私にお任せください」
「………うん」
だが、俺はまだクリスタに対して躊躇していた。するとクリスタは……
「私を信じてはいただけませんか?」
説得されても、煮え切らない返事しかしない俺に、クリスタは上目遣いでそう言ってきた。
うっ!そんな眼で見られたらっ……!!断れるわけがないじゃないか!!!!。
「ああ、わかった。頼んだよクリスタ!」
「はい!ご主人様!!」
結局根負けした俺はクリスタにそう言うのだった。だって美人な女性に、あんな上目遣いで頼まれたら断れるわけがない。
特にクリスタのような絶世の美女に頼まれたらなおさら断れるわけがない。これは俺だけじゃなくて、全人類共通だろう。
もちろん、この中には女性も含まれている。本当にそう思ってしまうくらい、さっきのクリスタの仕草には破壊力があった。まったく……、クリスタ…恐ろしい子……!。
なるほど、この台詞はこういう時に使うんだなと思った。誰もは一度は聞いたことがあるネタだろう。一度は使ってみたかったのだが、あまり使う機会がなかったのでちょっと嬉しい。
「ではご主人様、背中にどうぞ」
「ああ、うん……じゃあ乗るよ?」
「はい、どうぞ」
そうしてクリスタは、その細く華奢な背中を俺に向けてしゃがみこんだ。俺もその細い背中を見て少し躊躇いをおぼえつつも、先程同意した手前彼女の厚意を無碍にするわけにもいかず、俺は繊細に作られた芸術品を扱うかのようにゆっくりと、そのクリスタの肩に手を置いた。そして俺はそのまま、その細く華奢なクリスタの背中に身を預けた。
「では、立ちます」
「頼む」
そう俺が短く言い終えると同時に、彼女は俺をおぶったまま軽々と立ち上がった。やっぱり心配は要らなかったみたいだ。
彼女が立ち上がって、より密着するようになってから気づいたのだが、クリスタの体は俺がおぶさっている側なのにもかかわらずとても柔らかく感じられた。女性の体はこんなにも柔らかいものなんだと初めて知った瞬間だった。だがそれと同時に、普通逆では?とも思ったが、頼んだのは俺の方なので特に何も言えなかった。
「ご主人様、ずっと肩に手を置いたままでは疲れるでしょう。どうぞ私の首に手を回してください」
「ああ、わかった。……こうでいいか?」
「ええ、そのまま。では、出発しましょうか」
こうして、俺たちは移動を再開した。
クリスタの首に手を回したことで彼女の顔がすぐそばまで近づいていた。クリスタから伝わってくる熱は暖かい。顔に当たる彼女の髪をくすぐったく思いつつも。俺たちはそのまま、当初向かっていた場所へ向けて移動を開始した。その道中で、魔の森の、というよりもこの世界の魔物について聞いてみることにした。