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9th page それを、人は〝運命〞と呼びまして

 

 彼の見開かれた紫の瞳に、私が映り込んでいた。


「……今、何て言ったのかな? 〝未来を視てほしい〞って聞こえたんだけど? もしかして、僕の聞き間違えか、何かかな?」


 予想以上に動揺が滲む声を出したアーヴィンに、私は首を横に振ってもう一度依頼する。


「いいえ。聞き間違いではないわ、アーヴィン=クラレンス。あなたに、私の未来を視てほしいの」


 私が立ち上がって彼に近寄ろうとすると、彼の上げた手にそれを止められた。


「ねえ、やっぱり、君はわかっていないよね? どうして僕がこの学園にいるのか。面白半分で言っているのなら、今に痛い目に遭うよ」


 低く威嚇するような声と口調。

 けれど私も、ここで引くわけにはいかなかった。私はもう一度首を横に振る。


「……勝手なことをいっているのは重々承知よ。でも私には時間がないの」

「……?」


 僅かにひそめられるアーヴィンの眉に、私は最後の望みをかけて告げる。


「……信じてもらえないかもしれないけれど、実は私、近々死ぬらしいの。だから、もしあなたに――」

「ちょっと待って」


 アーヴィンがすかさず手を挙げ、私に問うた。


「何で()()()()()を、精霊魔術を使えない君がわかるの?」

「……あなたと同じように精霊魔術を使える二人が、同じことを――私が近々〝死亡する〞と言っていたのを聞いてしまったの」


 それが誰なのかは伏せて、アーヴィンへと答える。


「だから、あなたにも私の未来を視てもらって、もし本当に死ぬ未来が視えるのなら、残された時間で私がすべきことをしようと思って……」


 私の発言に、アーヴィンは信じられないとでも言いたげな表情を見せた。けれど、このまま引き下がるわけにはいかない。


 そして私は、この一週間考えていた代案をアーヴィンへと提示する。


「未来を視たくないと言うのなら、せめてひとつだけ教えてちょうだい。


 これまであなたが視た未来の中で、視た時点とは違う未来になったことや、未来を変えられたという話を聞いたことはあるかしら? 些細なことでも、何でもいいの。もし、未来を変える方法があれば、教えて」


 私の言葉をどう受け取ったのか、アーヴィンはしばらく黙ったままこちらを見つめていた。

 アーヴィンを説得する材料が、もう少し必要だった。


「そんなこと知って、一体どうするの?」

「私は知りたいだけ。私の未来が決まっているものなのか、抗えるものなのか」

「……はあ」


 アーヴィンは溜め息を吐いて、そのアメジストの瞳をこちらへ向けた。


「……僕が知りうる限り、《予見の加護》を持つ者の視た未来が変わったと言う話はないよ。細微が同じかどうかまではわからないけれど、〝人の死〞が《予見》されたなら、十中八九そうなるだろうね」

「……そう」


 もし、あの二人の話していたことがすべて偽りだとわかっていれば、こんなに悩むことはなかった。


 けれど私はアーヴィンのいう《予見の加護》を持っている訳でも、ましてや精霊魔術すら使うことが出来ない。


 だから、アビゲイルや殿下が言っていた()()()()が本当のことなのかどうか、知る術がない。


 それでも、出会ってからずっと距離を置いていたアビゲイルはともかく、ギディオン殿下は冗談であんなことを言う御方ではないと、私は知っていた。


 それはこの学園で過ごした五年の歳月の中で、敬愛するに足るほど、十分に。


(……二人は私を助けると言っていた。だったら、私がただ何もしない訳にはいかないわ)


 私は、あの二人と、二人が言っていた言葉を信じる。それがこの一週間、アーヴィンの許へ通いながら私が導きだした答えだった。


 その時。


 私の目の前に、左手が差し出された。

 それは先ほどまで白手袋がはめられていた、アーヴィンの手だった。


「……〝過去は変えられないけど、未来は変えられる〞、か……」

「え……?」


 微かに聞こえた言葉は、アーヴィンが自分自身に言い聞かせていたようにも聞こえる。

 首を傾げながら疑問符を投げる私に、再度その白い手が伸ばされた。


「視たら、もう毎日来ないでよ」


 私とは目を合わさずに向けられる言葉。


「ええ! わかったわっ」


 私はその手に、自分の手を乗せた。


 二歳年下の少年の手は想像していたよりも大きく、手が触れた瞬間、彼の掌に少し力が込められたのがわかった。


 アーヴィンは一度深く息を整え、目を閉じる。


「〝――――〞」

「……っ!?」


 彼が私にはわからない言葉を呟くと、どこからともなく風が吹いた。


 私は驚いて手を離しそうになったけれど、アーヴィンに思いの外強く握られていたようで、その手が離れることはなかった。


 私はただただ、アーヴィンと繋がる自分の右手に意識を集中させる。


 そしてその間に僅かに開かれたアーヴィンの二つの瞳は、目の前にいた私を映しているにも関わらず、最後まで視線が合うことはなかった。

 まるでこの世界ではない違う世界を映しているようにも感じる。


「……確かに、視えたよ」


 やがて深い沈黙の後にもたらされたアーヴィンのその言葉は、私に希望と絶望を同時に与えた。


 私は繋いでいた手を離し、元に戻ったアーヴィンの顔色を伺う。元々彼は色白の方だと思ったけれど、今はそれ以上に血の気が引いているように感じる。


「何を、視たの?」

「……」


 顔面蒼白なアーヴィンに内容を訊ねるのは刹那、躊躇われた。けれど私は何のためにここへ、そして彼に会いに来たのか。それを思いだし、目的を果たすため、私はあえて口にする。


 アーヴィンは少しの沈黙の後に言葉を紡いだ。


「ねえ、君は、創世神話を知っている?」

「神話? え、ええ……」


 脈絡が掴めない会話に、私は首を傾げながら答える。

 それに頷くアーヴィンは、私にその概略を告げるように促した。


 私は彼の真意を掴めぬまま、お母様に教えてもらった御伽噺にも似た創世の神話を、頭に思い浮かべながら口に出す。


 ◇


 遥か昔――神代の時代。この世界は三人の神々によって創られた。


 世界造りが終わると、三人の神々はそれぞれ、この世界に住まう生命として精霊族、人間族、魔族を生み出した。


 命を吹き込まれた三つの種族は、はじめは仲良く暮らしていた。けれど、それぞれを創造した神を唯一と崇めるが故に、次第に種族間には確執が生まれ、争いへと発展してしまう。


 そしてそれを悲しんだ神々は、この世界から姿を消した。


 敬う神々の喪失を悔やんだ精霊と人間の二つの種族は仲直りをし、互いに力を合わせようと誓いあった。けれど、魔族だけはそれをよしとせず、二つの種族と一つの種族は争うことになった。


 ついに魔族はほとんどが滅ぼされ、唯一力が膨大だった魔王は精霊と人間の力でようやく封印された。


 ◇


「――で、合っているかしら?」


 私が言い終わると、アーヴィンは静かに頷いて、続きを告げた。


「神話の中で、人間が精霊と〝互いに傷付け合わずに協力し合う〞と誓いを立てたと言われているのが、この〈誓いの都(ユシェンディア)〉だと言われているけど、それと同時に、人間か精霊への感謝を忘れないようにと始めたのが、この学園でいうところの精霊感謝祭にあたる」


 思いがけず神話学の話をし始めたアーヴィンに、私は手を上げて質問する。


「……それで、どうして今、神話の話を? あなたが視た私の未来と関係があることなのかしら?」


 全く話が掴めない。

 噛み砕くように、アーヴィンが再度言葉を紡いだ。


「感謝祭ではなるべく一人にならない方がいい」

「どういう意味? 感謝祭で、何か……」


 私が訊ね終える前に、アーヴィンに背を向けられてしまった。

 その背からは、声だけが返って来る。


「僕に言えるのはそれだけだよ。さっきも言ったけど、《予見の加護》を持つ者が視る未来は、ほぼ確実に起こるんだ。だからこそ、加護を持つ者は視た未来を安易に言葉には出さない決まりになってる」


 それはつまり、例え人の生死についてわかっていたとしても、口出しも手出しも出来ないということと同義だった。


 その言葉を聞いて、私は気付いてしまう。自分の愚かさに。自分の身勝手さに。


「ごめんなさい」


 私はアーヴィンへ謝罪の言葉を告げた。


 私は、深く考えていなかった。自分のことばかりで、目の前の少年が抱える苦痛のことなんて、微塵も考えていなかったのだ。


「どうして君が謝るのさ? 僕は、何もしてあげられないのに」


 私は首を横に振る。


「いいえ。さっきの言葉だけで十分よ。ありがとう、アーヴィン=クラレンス」


 知識は力だ。たくさんの文献を読んで理解を深め、知っていることで誰かを守れることが出来る。

 けれどそれは時として、無知よりも恐ろしい残酷な刃となって、自身や周囲へ向かうこともあり得てしまうのだ。


「なんで、君はそんなに冷静なの? 普通、自分が――そういう立場になったら、もっとこう……ショックを受けるというか、落ち込むものなんじゃないの」


 振り向いたアーヴィンの顔は、とても辛そうだった。

 もしかして、私のことを慮ってくれているのだろうか。


 私は、自分の中にある感情に名前を探すように、思っていることを素直に口に出した。


「……どうして、かしらね。自分でも不思議なのだけれど、私が〝死ぬ〞って聞いたとき、それが自分の意志でもたらされるものじゃないと思ったの」


 耳の奥で、アビゲイルの言葉が甦る。


『狂気に陥り死亡』。


 何が起こり、何が私を追い詰めて狂気に落とさせるのか、想像もつかなかった。

 だからこそ、二人のあの会話が単なる私の夢だったのではないかと考えたこともある。


 けれど学園に戻ってからというもの、何度か二人が《秘密の庭園(シークレットガーデン)》で会っているのを、私は知っていた。


 何のために、隠れて会う必要があるのか。

 それは当事者ではないのだから、いくら考えても仕方のないことなのだけれど。


 けれどもし、それが私に関わることなら、ただ訪れる未来に絶望して何もしないという選択肢は、私にはなかった。


 もし、〝私の未来〞が人の意志よりも強い〝何か〞によって、あらかじめそうなると決められているとしても。


 きっと、まだ出来ることはある。


 ――例えそれが、〝運命〞と呼ばれるものだとしても。


【アビゲイルのスタエンメモ】(ファンブック一部引用、一部抜粋)


◇ノア(魔王)(年齢??)


「……これで、出逢うのは六度目だな」


 前述の五人の攻略対象のルートをすべて解放すると彼のルートが解放される。いわゆる隠し攻略対象。この世界にとって《滅ぼさねばならぬ存在》であり、長年巫女により封印されていた魔王。


 けれど攻略対象となった彼は、今回は主人公と同じ精霊魔術のクラスに所属しており、精霊魔術を行使することが出来る。


◆攻略とネタバレ

 他の五人の攻略対象者の全ルート及び全イベントスチルを解放した後、入学初日に学園内での行動で【庭園へ行く】を選択し、かつ【(誰かの視線を感じる…)】を選択すると《封印の祠》前で出逢うことが可能。


 実は彼はこのゲームをプレイするプレーヤーと同じように、前の攻略対象五人分のトゥルーエンディングの記憶を引き継いでいる存在だった。そしてノアルートのトゥルーエンディングを迎えるためには、魔王である彼の存在を否定することが条件であるため、プレーヤーは強制的に【あなたは存在しない】を選択せざるを得ず、その後のメイン画面やのストーリークリア後のボーナスルートであるハーレムエンディングにも、ノアが登場することは二度とない。


 「君が僕を忘れても、僕は君を忘れない」という台詞は、トゥルーエンディングでの別れの際に、ノアから主人公プレーヤーへと告げられる台詞。

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