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6th page それは、以前どこかで覚えがありまして

いつもご覧いただき、誠にありがとうございます。


次回の投稿よりタグの「??も転生者」の内容を解放します。まあ、今回でバレていると思いますが。

 

 それからは、精霊感謝祭の準備に追われて、あっという間に月日は過ぎていった。


 気付けば、精霊感謝祭まであと二週間と迫った週末日。


 私が午後に業者から校庭の保管庫に届けられた魔道具の数を確認していると、後ろからその声が聞こえた。


「こんなところにいたんだね、エイヴリル」


 振り向いた私は、声の主に頷く。


「ええ、クライド。この魔道具の大きさを確認をしておきたくて」


 私の目の前には、ひと一人が入るくらいの筒状の砲台が、全部で十二基揃っていた。


 この魔道具は感謝祭で用いるイベント専用のもので、火の精霊や風の精霊などの精霊術が施された特別なものだった。

 受注数は予定数と合っていたのだけれど、先に確認した他の生徒会メンバーから魔道具が想定より大きかったという話を聞いて、私も確認しにきたのだ。


(うん。これくらいの誤差なら、当初想定していた間隔の配置でも問題はないわね)


 〝使用には適切な距離を保つこと〞という注意書があるように、使用する際にはすでに砲台へ組み込まれている精霊術式が干渉し合わないように、配置には注意が必要があった。


 保管庫の鍵を閉める私に、クライドは溜め息を吐きながら諭してくる。


「あんまり頑張りすぎると、身体に毒だよ」


 生徒会室に戻りながら、私はそれに笑って返事をした。


「そんなことないわよ。それに生徒会の仕事をすることで、誰かの役に立てるなら良いことでしょう?」


「……俺が、心配する」


 本当に、この従弟は時々過保護なところがある。


「クライド?」


 隣を歩いていたはずのクライドが立ち止まったので、私もつられて立ち止まった。


「なあ、エイヴリル。実は、俺――」

「お話し中、失礼します!」


 不意に、クライドの後ろから元気の良い声が聞こえてきた。


「あら、貴方は……」

「自分は、高等部一年、ライナス=クリスフォード・エフィンジャーと申します!」


 その名字には聞き覚えがあった。


「ええ。以前に生徒会室にクラス委員代表として質問にきたことがあるわよね。何がご用?」


 エフィンジャーと言えば、王室騎士団(ロイヤル・ナイツ)の団長と同じ姓でもある。

 確か記憶違いでなければ、現王室騎士団(ロイヤル・ナイツ)団長のゼスター=エフィンジャーは彼の父親に当たるはずだ。


「ご承知おきくださり、誠に光栄であります! はい。本日は、貴女の妹君について、お話ししたいことがあります」


 ――一体、彼女絡みでなにがあると言うのだろう。


「……少々込み入ったお話になるので、場所を移してもよろしいでしょうか?」




「――私が、義妹いもうとを虐げている?」


 場所を移して空き教室に入ると、ライナスは驚くことを口にした。


 私が、義妹のアビゲイルを虐げているのではないか、と言うのだ。


「自分は先日、アビゲイル嬢から相談を受けました。

 〝義姉あねと仲良くしたいけれど、自分は避けられているからそれは少し無理そうだ〞……彼女はそう言っていました。


 お二人の関係は存じております。ですが、ここは、互いに歩み寄ってはいかがでしょうか?」


 私は以前、父から同じような言葉を投げられたのを思い出した。


「……別に、私は義妹(あの娘)を虐げているつもりはないわ」


 ただ、距離を置いているだけだ。

 また、傷付けてしまうかもしれないのだから。


「それでも、彼女が貴女の取る態度に対してそう思っているのなら、貴女は誤解を解くべきであります」


 どうやら彼は、曲がったことが嫌いらしい。


 私は心に生まれた淀む気持ちを気付かれぬように、息を一つ吐いた。


「貴方は、義妹いもうとと仲がよろしいのね? ライナスさん」

「そ、それは……」


 私の言葉に、ライナスは僅かに頬を染める。

 彼が義妹に好意を寄せているのは間違いない。


 口は言い淀んではいたけれど、少なくとも、アビゲイルと彼は悩みを打ち明けるくらいには仲が良いのだろう。


 だとしても。


「我が侯爵家の問題に、貴方が口を出す必要はありません」


 私は然として告げた。


 それに、やってもいないことを認めて仮初の謝罪をするなど、侯爵家令嬢としての矜持に関わる。


 けれど、ライナスは退かなかった。


「確かに、そうですね。……貴女の気持ちも自分はわかります。

 精霊魔術を使える父や兄は私の憧れでもありますが、羨ましくもある。


 ……なぜ自分にだけ《精霊の加護》がないのか。


 ですが、自分たちにはきっと他に与えられた役目があるはずであり、それを全うすることで私たちはまた成長することができるのです」


 どうやら彼は、人の感情を逆撫でするのが無意識に得意らしい。


 真っ直ぐな瞳で告げられる言葉は、彼が自身の心に正直であることの証明だった。


 その瞳と言葉に、私の心の奥底に沈んでいた何かが、蠢いた。


「……それはとても殊勝な心掛けだど感心します。けれど――」


 その時、教室の扉が開かれ、ある人物が現れる。


「そこまでだ、ライナス」


 そこにいらっしゃったのは――


「殿下っ!?」

「ギディオン殿下」


 ギディオン殿下だった。


(……どうして、殿下がここに?)


 私たち二人が総じて思っていたであろうことには触れず、殿下は私とライナスの前に割って入る。


「ライナス。アビゲイル嬢がお前に何をどんな言葉で相談したのかは知らない。しかし私の知る限り、エイヴリル嬢はそんなことをする人間ではないよ」


 確か二人は幼馴染みの関係にあると、前に殿下が話していたのを思い出す。


「殿下?」


 殿下の表情は背中越しからは見受けられなかった。

 けれど、その口調はいつもの優しいものではなく、少し怒気が含まれているように感じられた。


「お前のその自身の正義に誠実である点は美徳だが、時にそれで他者の持つ信条を汚すものだと言うことをゆめ忘れるな」


 数秒の沈黙の後。


「……出すぎた真似をいたしました。申し訳ございません。エイヴリル嬢」

「い、いえ……」


 謝罪の言葉を残し、先にライナスが教室から退出した。後には、私と殿下が残される。


 殿下はまだその背中を向けられていて、こちらから声を掛けるのは躊躇われた。


(……もしかして、私のことを、庇ってくださったの?)


 殿下が教室にいらっしゃった理由は他に何があるだろうか。

 でも、どうしてここにいることがわかったのだろうか。


「――すまない。エイヴリル」


 私の視線に気付いたのか、ギディオン殿下は私に向き直ると、静かに頭を垂れた。


「勝手に込み入った話を立ち聞きした上に、割り込んでしまって……」


 私は途端に恐縮する。


「かっ、顔をお挙げください、殿下! 滅相もありませんわっ。殿下が謝られることなどどこにもございません!」


 顔を上げた殿下は、苦笑を溢しながら、先ほどまでいた自身の幼馴染みについて口を開いた。


「ライナスは昔からああいう性格で、決して悪い奴ではないんだ。ただ、自身の正義に誠実であるが故に、たまに周りが見えていないことがあってね」

「……よく、ご存じなのですね。彼のことを」


 私は、周りの人のことを、一体どのくらい知っているのだろう。

 ふと、それが疑問に思った。


(そう言えば、ライナスが来る前に、クライドが何か話しかけようとしていたような……)


 ライナスの声に注意が行ってクライドの顔をよく見なかった。けれどあの時、確かに私に何かを伝えたいことがあったのは確かだ。

 あとで訊いてみよう。


 そして私は、もう一つ大切なことを思い出した。


「ギディオン殿下。お礼が遅くなり申し訳ございません! 先ほどは庇っていただき、ありがとうございます」


 殿下はいつもの微笑みを浮かべ、「いいや」と口にした。


「別に、お礼を言われることはなにもしていないよ。さっきライナスに言った言葉の通り、君が義妹のアビゲイル嬢に対して、虐げるよりも避けているだけなのだと、知っていることをただ話しただけだからね」


 私は疑問に思ったことを告げる。


「……どうして、殿下がそれをご存じなのですか?」


 私がアビゲイルに対して苦手意識を持っているのを知っているのは、従弟のクライドと親友のレジーナくらいだ。

 あとは、私たちの姉妹の複雑な家庭事情に触れないように、あまり深入りしてこない生徒がほとんどだった。


「それは――」


 珍しく、殿下の言葉は歯切れが悪かった。

 一瞬、目も泳いでいた気がする。


「……普段の君を見ていたら、そう思うのは当然だと思うよ」


「さあ、生徒会室に行こう」と殿下が先に教室を出られた。

 扉を越えた瞬間に、殿下の制服の裾から紙切れが宙を舞う。


「殿下? 今、何か落とされましたよ」


 殿下に続いて歩いていた私は、床に落ちたそれを拾い上げた。


「あ、ああ。ありがとう……」


 文字が書いてある方が表になっていたから、そのまま視界にその文字が飛び込んできた。


「――これは……」


 その内容に使われていた文字は、最近、どこかで見たことがある文字に、とてもよく似ていた。


 角ばったような文字に、丸まった文字。


(――まさか……)


 私は恐る恐る殿下の顔色を窺う。


 以前その文字を知ったあと、レジーナやクライドにその文字について聞いてみたけれど、二人とも心当たりはないと言っていた。


「……どうぞ」

「ありがとう」


 《精霊の加護》を持つ者が知っている、という訳ではなかったこの文字は、一体何を意味しているのだろうか。


「……あのう、殿下? つかぬこことを伺いますが……」


 殿下は紙を眺めながら「うん?」と首を傾げ、私に言葉の続きを促した。


 私は意を決して、殿下に訊ねる。


「――もしやその文字は、ニホン語……なのでは……?」


 刹那、その場の時間が止まった気がした。


 そして殿下の反応。


 大きく見開かれる瞳。


 息を飲む口許。


 ゆっくりと動き出した時間の中で、ギディオン殿下が静かに言葉を紡いだ。


「――君は、この文字を読めるのか……?」


【アビゲイルのスタエンメモ】(ファンブック一部引用、一部抜粋)


 ◇ライナス=クリスフォード・エフィンジャー(16歳)


「俺の夢は、国一番の騎士になることだ!」


 主人公のクラスメイト。王室騎士団(ロイヤル・ナイツ)団長を父に持ち、剣の腕前は折り紙付き。

 明朗快活で、曲がったことは是としない好青年な性格。しかし自身の性格が愚直であるが故に、他人の心の内面の感情を汲み取るのが少々苦手。


 父と兄が自分にはない《精霊の加護》を持っていることから劣等感を抱いていたが、主人公が遅れて精霊の加護を得たことから、自分にも得られる可能性があるのではないかと期待する、純粋な心の持ち主。


 反面、奉仕の精神が強いため、頼まれていない人助けまでやろうとする。

 いずれは叙勲され、騎士になることを胸に日々研鑽に励む。


 ◆攻略とネタバレ

 入学初日に学園内での行動で【教えてもらった教室へ行く】を選択し、かつ【(友達出来るかな…?)】を選択すると《教室》で出逢うことが可能。


 自己紹介の際、彼に【凄い筋肉だね】か【凄く鍛えているんだね】かで初期好感度が決定。以降はランダムで遭遇し、会話の中で出現する選択肢により好感度が変動。


 精霊感謝祭の用意で共に城下町を訪れ、そこでよかれと思って人助けをする彼に対して【見守る勇気も必要だ】を選択することで、ライナスのトゥルーエンディングが解放される。

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