1st page ある日、義妹ができまして
ついに話題の転生モノに手を出してしまいました。
こちらの作品はギャグ過多、シリアス少なめとなっております。
突発的に浮かんできたものなので、
更新は他の作品の投稿が落ち着いた時になるかと。
「エイヴリル。今日からお前の義理の妹になる、アビゲイルだ」
それは私――エイヴリル=スプリングが七歳になる年の春のこと。
侯爵である父に連れられて侯爵邸にやってきたのは、私より一つ年下の少女。
(この娘が、お母様の仰っていた……)
母譲りの癖が強いくすんだ茶髪の私よりも、父の髪色に近い金髪を靡かせながら、その少女――アビゲイルはお辞儀した。
「はっ、はじめまして! アビゲイルですっ。よ、よろしくお願いしますっ!」
緊張しているのか、アビゲイルの頬は赤い。
「今日から二人とも姉妹になるんだ。仲良くするんだぞ」
「はいっ!」
「……はい」
その返事に元気よく応えたのは、勿論、彼女の方。
「……ほっんっとにもうっ、信じられないっ!」
侍女のニーナが自室の扉を閉めたのとほぼ同時に、私は募る癇癪をベッドの枕へ拳と共に振り下ろした。
うん。羽毛の枕だから、殴っても全然怒りが軽減されない。
ニーナが相づちを打つ。
「お嬢様はよく我慢されていたと思いますよ」
「なぁにが『今日から二人とも姉妹になるんだ』よ! 半分だけど、もとから血縁でしょうが! 姉妹でしょうが!」
勝手に外で女と子供を作っておいて。そしていきなりなんの説明もなしに〝義妹〞ですって?
(七歳でも察することだって出来るわよ!)
とは言え、父の愛人とその娘の存在は母から教えてもらっていた。
自分が死んだら、きっと彼女たちはこの家に迎えられるから、と。
そして母の予想通り、アビゲイルは侯爵の養女となった。
しかし。しかしだ。
母が亡くなってからまだ喪も明けていない。
それなのに、その母が住んでいたこの侯爵邸に妾の娘を住まわせるなんて。
(……そういえば、結婚はしていなかったんだっけ)
枕を壁に投げつけようとして、急に頭が冷静に回転する。
この国は貴族男性の重婚を認めていた。
勿論、経済的余裕があってから認められることではあるけれど。
とはいえ、我がスプリング侯爵家に経済的余裕がなかった訳ではない。
父の愛した女性が市井の人だったからだ。
他の貴族では市井生まれの正妻や側室はいる。
けれど、同じ貴族ならまだしも、市井の人間が我がスプリング侯爵家の名を名乗るのを認めていなかった人物が一人いた。
それが私の母。
私の両親は政略結婚で、母は王家の遠縁にあたるエルカーレ公爵家の生まれだった。
生家より格下の家に嫁いできたのに、妊娠中に夫の侯爵が他の女と浮き名を流していたのを知った母は、相手の女性について徹底的に調べさせた。
そして相手が市井の生まれであると知った母は、父に〝貴族が相手なら側室を認める〞と言っておきながら、生家の権力を借りて貴族界に圧力をかけ、父の側室のための養子縁組をことごとく妨害した。
もはや執念である。
この事で夫婦間の熱は一気に冷め、父は執務室に用がある以外で邸に帰ることはなくなっていた。
先に相手の女性――アビゲイルの母親が病に倒れ、この世を去った。それが昨年の春頃のこと。
そしてそれを知った母は、まるで待っていたかのように亡くなった。それが昨年の秋頃のこと。
だから、もう父を邪魔する人間もいない。
「……だからって、私がいるって言うのに」
まだ齢七つだからと侮っているのか、我が父よ。
私はあの母の娘だぞ。
「……アビゲイル」
養女ということで我が家に入ったアビゲイルは、きっと父に溺愛される。
ただでさえ、長年苦労を掛けても離さなかった女性の娘だ。
亡き彼女の分まで愛することだろう。
(あんな表情、私だって向けられたことないのに……)
思い出されるのは、先ほどの広間での父の表情。娘を慈しむ父の眼差し。
否。記憶にはないけれど、私にもそんな表情を過去に向けてくれたことを祈ろう。
今回と次回はシリアル、いえ、ややシリアス気味です。
そりゃあ、父親の女関係が持ち込まれたら仕方ないとも思います。