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孤児と錬金魔術師  作者: 珠優良
第一章 出会いと再会
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第1話 運命の導き

 ドキドキの初投稿です。楽しんでもらえれば幸いです。

 これから、頑張って書いていきますので、応援よろしくお願いいたします。

 肌を撫でる風が冷たく感じ始める季節、城門から延びる街道を、周辺の村の荷馬車が冬支度のために行き来するのを横目に、一見すると神父のような雰囲気の男が馬車も使わず、供もつけずに手ぶらで歩いていたため、人目を引いていた。

 

 しかし、その男はまるで気にする風でもなく、一度、足を止め、空を見上げて「もう、そんな時季なのか」と呟いて視線を進行方向に戻すと、ゆっくりと商業都市の城門へと向かって歩きはじめた。


 程なくして着いた街の東の外門は固く閉じられ、その両脇には小さな通用門が設けられていた。

 小さいとはいっても荷車を二台並べても余裕があるくらいなので、それなりの大きさはあり、外門の左側の通用門は、通行証の木札を持っている商人や周辺の村人たちが利用し、右側は通行証を持たない旅人が利用することになっていた。


 この規模の街ではどこも似たような造りなので、神父風の男は迷わず、右側の通用門の前に並んでいる人たちの、最後尾に向かって行った。


 通用門内には街に入る者を審査するための部屋が、大小二部屋ずつあり、通用門を挟んで街の内側と外側に四人の門兵が立っていた。

 そして、外側に立っている門兵の二人が、並んで待っている者たちをグループの人数に応じて、大小それぞれの部屋へ順番に入室を促していた。


 神父風の男が列の先頭になって待っていると、部屋の一つから冒険者風の四人が審査を終えて出てきた。そして、それに合わせるように、門兵の一人が声を掛けてきた。



「お前に同行する者はあるか」


「いや、俺一人だ……」


「次のお前は、どうだ」


「後ろの二人も連れだぜ」


「それでは、お前たち3人が左手前の部屋に……」


 門兵が、そう指示をしていると、更に審査を終えた親子連れの二人が部屋から出てきた。それを見ていた別の門兵が神父風の男の声をかけてきた。


「先頭のお前は、今空いた部屋に入れ」


 門兵にそう言われて神父風の男は右奥の部屋へ向かった。


 中に入ると文官が机の向こう側で腰掛けていた。その両脇に衛兵が二人立っていて、その机の上には水晶のペンダントと紙の束が用意されていた。


 神父風の男が机の前まで向かうと文官が身分証の提示を求めてきたので、男は右手の人差し指に嵌められた冒険者リングを見せると、机の上に手を置くように文官が指示してきたので、それに従うと文官は水晶のペンダントを指輪に軽く触れさせる。


 するとペンダントは淡く光り出し、そのままペンダントを紙の方へと移して触れさせると、紙は魔力を帯びているのか、光は吸い込まれるように消えていき文字が浮かび上がってきた。


「ふむ、名前はアルベルト=マグナス。Bランクの冒険者で罰則等の経歴は……、ありませんね。それではこの街での目的を教えていただけますか」


「路銀が乏しくなってきたので旅の途中で手に入れた素材の売却と、同じ理由で冒険者ギルドに寄って短期の依頼があれば受けようかと思っている」


「素材の売却ですかそれにしては……、手荷物の一つも持っていないようですが」


 検査官は、そう言って(いぶか)しむように見てきた。


「ここに来る途中で悪戯好きの猿どもに襲われて、何匹か狩って追い払おうとしていたんだが、油断した隙に持っていかれてしまったんだ」


「ああ、カラスザルにやられてしまいましたか。それは災難でしたね」


 日常的によくあることなのだろう文官は抑揚のない声でそう答えると、それから、いくつかの質問をしてきて通行の許可を伝えてきた。


「それでは、マグナスさん。冒険者リングの内容にも問題ないようですし、商業都市ブルックへ入ることを許可いたしましょう。通行料として大銅貨2枚を収めてください」


 アルベルトは懐の金の入った巾着から大銅貨2枚を出して、机の上に置いて部屋を出た。


◇◆◇


 アルベルトは東門を抜け道具屋を探しつつ先程のことを思い返していた。


 手荷物も持ってないのに、素材を売却っていうのは(まず)かったかな。マジックボックスの腕輪のことを知られる訳にはいかないし、カラスザルには悪いがこの辺りが生息域で助かった。


 と、思考しながら左手首に嵌めてある六属性を表すような6つの魔石が埋め込まれた、アルベルトが錬成したオリジナルのマジックアイテムの腕輪に軽く触れ、視界に入った道具屋の看板に向かって、少し速度を上げて歩き出した。


「いらっしゃい! ん? 見ない顔だね、新顔の神父さんかい?」


 道具屋の扉を開けると、カウンターの向こう側から恰幅のいい女店主が声をかけてきた。


「いや、冒険者だよ。素材を売りたいんだが買い取りはしてるか?」


「ああ、やってるよ。でも大口の買い取りはできないから商業ギルドの方に行ってくれるかい」


「え?」


「ん? あんた手ぶらだし、荷物は外の馬車か何かに積んでいるんだろ?」


「いや、馬車なんて持っていない。旅の途中で手に入れた手持ちの素材を売りたいだけなんだが……」


 そう言って、アルベルトは女店主から見えないようにコートの懐に左手を入れ、手首に嵌めてあるオリジナルのマジックアイテム『マジックボックスの腕輪』に魔力を込めて発動させると、いくつかの素材を取り出しカウンターの上に置いた。


「ホーンベアの牙と爪かい、この辺りじゃあまり出回っていないものだね。うーん、そうさねぇ。牙1つに付き中銀貨2枚、爪が1つに小銀貨3枚でどうだい?」


「えっ!?」


 予想外の高い買取り額にアルベルトが戸惑っていると、女店主は困ったような顔で「不服かい?」と聞いてきたので、アルベルトは「十分だ」と言って牙2つと爪8つ分の代金、中銀貨5枚と小銀貨6枚を受け取って店を出た。


 思いがけない収入にアルベルトは冒険者ギルドに向かわず、明日からの予定を考えて、ぶらぶらと宛てもなく歩いていた。


「思ったより高く売れたし補給と情報収集だけして、次の目的地を決めて向かってもいいかもな………。しかし、路銀は余裕がある方が良いか」


 アルベルトはそう決めると道具屋の女店主に教えてもらった、冒険者ギルドのある場所に向かって歩きだした。


 西の空が赤みを帯びはじめたころ、アルベルトが冒険者ギルドの扉を開けるとそこかしこのテーブルから、一仕事を終えた冒険者たちが自らの冒険譚や依頼主への愚痴やらを肴に酒を酌み交わしていて、混沌とした賑わいになっていた。


 アルベルトは冒険者ギルドの大小関係なく何処も似たようなものだなと感じながら、受付のカウンターへ向かうと見た目が17,8の若い受付嬢が笑顔で声をかけてきた。


「こんにちは。神父……様、かな? 仕事の依頼ですか」


「一応、冒険者だ。路銀を稼ぐのに適当な依頼がないか見に来たんだ」


 そう言いながら、アルベルトは右手の冒険者リングを受付嬢に見せると受付嬢は一瞬目を見開いたあと、何がツボに入ったのか相好を崩し左手を口元に当てながらケラケラと笑いだした。


「えぇぇ! 見えませんって、神父様の方が似合ってますよぉ」


「いや、俺に神父の真似事なんてできないよ。それより短期の簡単な依頼はないか?」


 くすくすと笑いながら受付嬢は胸元に下げてある、手のひらサイズの黒いプレートを冒険者リングに触れさせて登録情報の確認をしてきた。


「Bランク冒険者で、アルベルト=マグナスさんですね。少々お待ちください」


 受付嬢はこちらに背を向けると、いくつもの酒瓶と一緒に置いてあった依頼書の束を後ろの棚から手に取るとパラパラと捲り始めた。そして、3枚の依頼書を抜き出してカウンターの上に並べた。


「短期の依頼だとこの辺になりますね」


・魔物討伐(Bランク案件)

 村の畑を荒らす魔物の探索と退治 報酬:小銀貨4枚

 収穫期に付き大至急でお願いします。


・魔物討伐(Dランク案件)

 街道の荷馬車を荒らすカラスザルの退治 報酬:倒した頭数×大銅貨2枚

 カラスザルの駆除 報酬は尻尾と引換え


・調査(Bランク案件)

 村の近くの森に潜む集団の調査 報酬:小銀貨3枚

 最近、村の周辺を怪しげな集団が徘徊しています。収穫期を狙った盗賊集団かもしれないので調査を

 お願いします。


(森に潜む怪しげな集団か……)


 アルベルトは微かに胸のざわつきを覚えながら依頼について尋ねた。


「この魔物討伐依頼の村までは、どのくらいかかるんだ」


「そうですねぇ。歩いてだとぉ1日半ってところでしょうか」


「1日半か、それから探索して退治となると……。カラスザルを狩って路銀を稼ぐのも面倒だな……。この調査の村までは遠いのか?」


「その村なら、ここから半日ってところですね」


「そうか……。少し気にかかるし調査の依頼を受けさせてもらおう」


「わかりました。それではこちらにサインをお願いしますね」


 アルベルトは受付嬢が差し出してきた契約専用のペンを受け取り、冒険者リングに軽く触れさせるとペンが淡く光りだした。そして、そのままインク壺に付けず依頼書にサインをした後に、もう一度冒険者リングに触れさせると光が指輪に吸い込まれるように消えていった。


 依頼を受ける際に専用のペンを使うのは、冒険者リングに受けた依頼とその成否が記憶され、それが個々の冒険者の信頼の度合いを明かす証明と成り、冒険者ランクの昇格試験を受ける際に資格の有無の目安にもされるためである。


「はい、確かに受諾を確認しました。それでは依頼の方お願いしますね」


「わかった、手間をかけたな。ありがとう」


 冒険者ギルドを出ると外は夜の帳が下りていて、あたりの家の窓から明かりが漏れていた。


「普通なら一晩、宿に泊まって明日の朝にでも出発するんだがな……」


 そう呟きながらアルベルトは依頼のあった村に行くために、街に入った時とは反対方向の西門に向かって歩き出した。


 西門の前まで来ると通用門の前にいる門兵に依頼の為に一時的に街の外に出ると伝えて、通行証の発行を頼むと、有事でもない限り一般的には依頼のためでも閉門した後に街の外に出る冒険者などいないので、門兵は訝しむように「こんな時間にか?」と聞いてきた。


「ああ、なんだか嫌な感じがしてな。できるだけ急いで依頼のあった村まで行きたいんだ」


「急ぐと言うわりには、馬は使わないのか?」


「ああ、さっき依頼を受けたところでな。馬屋も、もう閉まってると思ったんだが……。まだ、開いてる馬屋があるのか?」


「一か所だけあるぞ」


「店の場所を教えてほしい。それと馬を借りに行っている間に通行証の方も頼む。俺はBランクのアルベルト=マグナスだ」


「ふむ、高ランクの冒険者の勘もバカにできないか……。分かった用意しておいてやろう」


 アルベルトは門番から教えてもらった馬屋に急ぎ、走り出した。そして、その店で一番物怖じのしない馬を借りて通用門に戻ってくると、門番が通行証を用意して待っていてくれた。

 門を抜け街の外へ出ると、一路、依頼のあった村へと駆け出した。

話の中にお金が出てきましたので、この物語の世界観を楽しんで頂くために、この世界の貨幣価値を補足説明します。


この世界には小銅貨、中銅貨、大銅貨、小銀貨、中銀貨、大銀貨、金貨の7種の貨幣があります。

その価値は、金貨1枚が大銀貨10枚、大銀貨1枚が中銀貨10枚、中銅貨1枚が小銅貨10枚、

といった具合に、其々の貨幣の間は10倍の価値になります。

そして、小銅貨1枚の価値は、大体10円くらいの価値になります。

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