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 .8月3日(後編)

 「お邪魔します」僕はそう言って和歌さんの家にあがった。居間に上がると和歌さんのお母さんとお父さんがテーブルで正座をして待っていた。「どうぞお座りになって。」和歌さんのお母さんがおっしゃったので僕はご両親と向かい合うようにして座った。夕樺梨ちゃんも僕の隣に来て座った。                                                           「そう。和歌の心臓を。」僕の話を聞いた和歌さんのお母さんはそう言った。夢の話をすると「そんなことってあるんですね。和歌の特徴そのままです。」と言った。「臓器提供に賛成したのは主人なんですよ。」和歌さんのお母さんが言った。「別に賛成した訳では無い。」和歌さんのお父さんがそう言った。どうやら、和歌さんのお父さんは寡黙な人のようだ。和歌さんのお母さんが口を開いた。「お医者様から脳死状態と聞いた時、私は頭が真っ白で何がなんだかわかりませんでした。だから、お医者様が臓器提供の話を提案した時は私は大反対でした。娘の体は温かいのに、体は生きているのに、それを死んでいると心のどこかで認めたくない自分がいたのでしょう。その時に主人はこう言いました。『和歌は死んだ。それは俺だって認めたくない。だが、このまま心停止を待つよりも誰かの体の一部になった方が和歌の死は無駄にはならないんじゃないのか。』その言葉で私は臓器提供に賛同しました。」僕は静かにこの話を聞いていた。テーブルの上の緑茶は4人とも冷めきっていた。そんな中、和歌さんのお母さんは話を切替えたように言った。「そういえば真筝君、お腹すいてない?」僕は急に話が変わりびっくりしたけど、お腹がすいている事には変わりないので「あっ、はい!」と言った。「今からそうめん茹でようと思って。良かったらぜひ。」僕は「そんな、用が済んだら帰ろうと思ってたのでとんでもない。」と言った。でも、和歌さんのお母さんに「遠慮しないで。」と言われたのでお言葉に甘えてそうすることにした。                                                                数十分後、そうめんが茹で上がった。「いただきます。」僕はそう言ってそうめんを食べた。薬味はネギとチューブのわさびとミョウガがあった。だが、ネギはミョウガの2倍くらい刻まれてあった。やっぱり、埼玉県といったらネギなのだろう。僕はネギを多めに盛ってそうめんを食べた。ネギのシャキシャキ感とそうめんは凄く合っていた。このネギは全然辛くなかった。むしろ、甘かった。そんな僕の様子を見て、和歌さんのお父さんがこう言った。「そういえば、和歌もネギ好きだったよな。」それに対して和歌さんのお母さんは「えぇ。ネギ足りないと言ってわざわざ残りの長ネギ刻むくらいね。」と言っていた。不意に僕はピンク色のそうめんを取った。すると、「あっ、それ!ゆかりにちょうだい。」と夕樺梨ちゃんが僕に言った。和歌さんのお母さんは「こらこら、お客さんに失礼でしょ!」「真筝君、ごめんなさいね。ウチのゆかりが。」と言った。でも、僕はピンク色のそうめんを夕樺梨ちゃんにあげた。「ありがとう。真筝君!」夕樺梨ちゃんはとびっきりの笑顔で言った。「真筝君、本当にありがとね。」和歌さんのお母さんも僕にお礼を言った。                                                                                            その後、和歌さんの部屋に案内された。ぬいぐるみや写真、クッションなどがあってとても女の子らしい部屋になっていたが、洋服掛けには夢で見た和歌さんのあのピンク色でチェック柄の制服が血まみれの状態で掛かっていた。「あの日からそのままなんですよ。制服も和歌が最期に着ていたものだから洗いにくくて。」和歌さんのお母さんが言った。夕樺梨ちゃんは和歌さんの机の引き出しから一冊の日記帳を手に取り僕に差し出した。おそらく例の日記帳だろう。その後、夕樺梨ちゃんは和歌さんのバッグからピンクのくまを外し、ベッドの上に置いてあったスマートフォンそしてその充電器も僕に渡してくれた。                                                        帰り際、僕は和歌さんに線香をあげた。帰ろうとした時に和歌さんのお母さんが「真筝君に何か持たせてあげないと。」と言った。僕は「いや、結構です。要件は済んだので。」と言ったが、和歌さんのお父さんが「庭のネギはどうだ。」と言ったので僕達は庭の小さな畑に行くことになった。和歌さんのお父さんがネギを掘り外側の皮をむき、土まみれだったネギが白い姿を現した。そして、水洗いをしてビニール袋に入れてくれた。合計3本。こうして僕はバッグに入れた和歌さんに頼まれた物と3本のネギを持って家に帰った。

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