2.五十嵐真筝
僕は高校1年生。通信制の高校に通っている。というか、インターネットで授業をして課題を送っている。高校によっては、週1,2回通う所もあるようだが、僕はeスクールといって全インターネット制。なぜって。僕は5歳から心臓の病気を患っており、ずっと都内の病院に入院している。小・中学校は都内の学校に席は置いてあるものの、ほとんど院内学級で過ごしてきた。だから僕は外の世界を知らない。唯一知っているのは病院の窓から見える景色。小児科が4階にあるため、ここからの眺めは壮大だ。病室からは大きなビルや走っている車が見えるし、廊下側からは色々な木が沢山あって、夏は風が吹けばさやさやと涼しげな音を立て、秋は色鮮やかな葉っぱが僕達に暖かさをくれる。あと、外の世界を教えてくれるのはテレビ。最近、テレビを見て思った事は「満天の星空を見てみたい」ってこと。東京の空はあんまり星が見えない。病室003号室は僕一人。前は015号室で4人部屋だったのだけど、病気がだんだん重くなり中学2年生の時に今の病室になった(病室の番号は死を連想させる4という数字は使わない)。先週、となりの005号室の和樹君が肝臓がんで亡くなった。僕と同い年。彼とは015号室や院内学級で一緒だった。同じ部屋の時はマンガを借りたり、楽しくて面白い話を沢山したり、薬の副作用でむくんでいたが僕より明るい男の子だった。そんな彼も病気が重くなり1人部屋になった。どうやらほぼ全身にがんが転移していたらしい。僕は彼の葬式に出た。今は歩くだけでも心臓に負担がかかるので車椅子で出席した。彼を最後まで見送った。僕は病院に戻った後、自分の病室で和樹君と一緒に撮った写真を見ていた。去年のクリスマスの時の写真だ。僕はトナカイのカチューシャをしていて彼はサンタの帽子を被っている。照れくさそうな僕と笑顔の彼。でもそんな彼はもうここにはいない。この後、和樹君の病室だった所に寄った。ベットには布団も枕もシーツも無い。死んでしまった彼と車椅子の僕。僕だって移植手術をしなければ生きられない。だからといってドナーがそう簡単に現れるはずがない。つまり僕はもうすぐで死ぬ。僕は死ぬ人を何人も見てきたけど自分自身が死ぬという実感がわかない。僕は毎晩寝るのが怖い。次の日の朝目覚めていない自分を想像してしまうからだ。死んだらどうなってしまうのかわからない恐怖で眠れない。そしていつの間にか眠って朝になり生きている事にほっとする。だから僕はこんな体にもかかわらず「死ぬなんて嘘だったりして」と思ってしまう。生きることってなんだろう、死ぬことってなんだろう。僕にはそれがわからなかった。 _そう、あの日が来るまでは_ 7月20日、その日はよく晴れていた。ふんわりとした雲が浮かび、廊下側の木は涼しげな音を立て陽の光でエメラルドのように輝いていた。蝉の声が響く。そんな日に母が急いで僕の病室に来た。そして母は思ってもいなかった言葉を発した。「真筝、あなたのドナーが見つかったって。」 その日から僕の運命が大きく変わった。