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マーガレット、十二歳の夏  作者: 若松ユウ
前章「執事それぞれ」
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02「ナンシーの憂鬱Ⅱ」

③「お兄さまとお嬢さま」


――食後に身体を動かしたくなる気持ちは、理解できなくありません。しかし、この悪ふざけを、悪戯として片付けるわけにはいきません。

「マーガレットお嬢さま。隠れたつもりでしょうが、私には足が見えております。どうぞ、こちらへ」

 ナンシーが凄みのある冷淡な口調で言うと、部屋の隅でカーテンに包まったマーガレットは、裏声を使って言う。

「私は、カーテンの妖精よ」

「後先考えず、直感で行動しないでくださいと、いつも口が酸っぱくなるほど申し上げているのですが、お分かりにならないようですね。この際ですから、妖精さまに手伝っていただきましょう」

 ナンシーは、レールからカーテンフックを手早く器用に外すと、マーガレットもろとも、カーテンを抱き上げ、運んでいく。

――まったく。不要な仕事を増やさないでいただきたいものですね。

  *

――夕方。お嬢さまは、ギルバートさまとの会食も済みました。甘い物はお好きですから、脳にはデザートの栄養が行き届いているのでしょう。その使い道を、いささか間違えているようですけれども。

「私、知ってるわ。お兄さまみたいなかたを、シスコンって言うんでしょう?」

 マーガレットが得意気にしたり顔で言うと、ナンシーは呆れながら言う。

「さようでございます。――それにしましても、九九は五の段までしか覚えられないというのに、そういう知識は豊富なのですね」

 ナンシーが感心するフリをすると、マーガレットは、口を尖らせながら不平を言う。

「大きなお世話よ。減らず口を叩いてると、スプラッタにするわよ」

 マーガレットの見当違いの怒りに対し、ナンシーは冷静に訂正して処する。

「正しくはスクラップです、が、あながち間違いではありませんね」

――変なところで核心を突いてくるから、油断なりません。小馬鹿にし過ぎないようにしましょう。


④「お兄さまの執事」


――ギルバートさまには、本来はメイドである私とは違う、れっきとした執事が仕えている。その名を、フェルナンデスという。私と同じように、使用者の霊力と水で動く生命人形(リビングドール)であり、黙っていれば、ギルバートさまと並ぶ二枚目である。そして、ギルバートさまに似て、口を開くと三枚目である。

「マーガレットお嬢さま。眠れないのでしたら、夜通し起きていてはいかがでしょう。ただし、どれほど眠くなろうとも、日が昇ってから沈むまでは寝てはなりません」

 ナンシーが淡々と言うと、ベッドの上でウサギのぬいぐるみを抱きかかえたマーガレットが、低く唸りながら言う。

「うぅ。そういうことを言ってるんじゃないの!」

「では、どういうことでございましょう?」

 ナンシーが首をかしげながら訊くと、マーガレットは執事から視線を逸らし、シーツの上に指で三角や丸を描きながら言う。

「あのね。フェルナンデスに、面白い話があると言われたの。それで、最後まで聞いたんだけど。そしたら」

 マーガレットがそこまで言ったところで、ナンシーは後を続け、ベッドサイドに腰を下ろしながら言う。

「怖い話だったのですね。朝からシーツとカバーを全取り替えするのは嫌ですから、お引き受けしましょう」

「渋々なのね。こんな可愛い乙女と添い寝できるっていうのに」

 口では文句を言いながらも、マーガレットは、いそいそと枕を二つ並べ、その片方に頭を乗せて横になる。

――明日の朝まで、大人しく寝られるのでしょうか。今朝は、枕の上に足が乗ってましたけど。

  *

――再び、朝。これで、丸一日が経過した訳です。

「どうして、朝まで一緒に寝てくれなかったのよ」

 ネグリジェ姿でぼさぼさの髪をしたマーガレットが、ぬいぐるみをナンシーに投げながら、頭からポコポコと湯気でも出しそうな勢いで怒りをあらわにすると、ナンシーは片手で長い耳をキャッチしながら、平然と言う。

「破損の危険性が高いと判断いたしましたので、速やかに撤退いたしました。それより、お嬢さま。早く、ドレスに着替えなさいまし」

「いやよ。あんな窮屈で動きにくい服、絶対着ないんだから」

――フリダシに戻る、でございます。また今日も、昨日と変わらぬ一日がスタートいたしました。

※ギルバート:十七歳。両親亡き後のマーシャル家を司る若き主人。眉目秀麗・頭脳明晰・スポーツ万能だが、重度のシスコン。ギナジウムのエンブレムが刺繍されたブレザーを着用していることが多い。

※フェルナンデス:黙っていれば二枚目だが、口を開くと三枚目。使用者の霊力と水で動く生命人形(リビングドール)。燕尾服と白手袋、眼鏡を常用。

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