風林火山
「疾きこと風のごとく、
徐かなること林のごとく、
攻めること火のごとく、
動かざること山のごとし、
風林火山!」
俺が今、思う魔法に近い想像出来うるフレーズを口走る。
邪王心眼でもない、邪王炎殺拳でもない、孫子の、いや、違う武田信玄の風林火山だった。
『な!な!なんだ貴様!甲冑の具現化?神の使いの獅子の甲冑だと!貴様は最高位魔法、憑依召喚魔法を使えると言うのか、ふざけるな、そんな高位者がここにいるなど聞いていないぞ!』
羽付きティラノサウルスが何やら不思議な事を言い出すが、そんなことはどうでも良い。
俺は、今、信じられないほど気持ちが安らかだ。
吐かれる火に、業火に焼かれようとも熱くもない、心静かに見える。
心頭滅却すれば火もまた涼しの境地なのだろうか、心の声が聞こえる。
今、何をすべきかを心の奥?脳に直截簡明に声が聞こえた。何を言うべきかも。
「我が盾無しの鎧に貴様の吐く炎など涼風も同然、今、斬りたるはその首ただひと~つ、疾風迅雷風烈滅掌」
体が勝手に動くと、軽やかに跳び跳ねる。
正眼の構えで持っていた太刀は納刀し、抜刀術の構えに入ったかと思うと、俺の前には羽付きのティラノサウルスではなく、薄いピンク色それはまるで桜の花びらのような可憐な色ののロン毛で、白い衣に身を包んだ美少女が、小学校の校庭にある校長が内容のない長い話をするためのお立ち台のような物に一人立っていた。
その可憐な美しさに我に帰った。
羽付きティラノサウルスはどこに行ったのか?
それは俺の後で首と胴体が離れて地面に突っ伏していた。
口は、なにかを言いたげにパクパク動き、胴体はピクピクと痙攣しながらのたうち回っている。
これは俺が斬ったのか?と言う疑問も湧いて出たが、現状からそうでしかないと把握出きる。
桜色の髪の美少女は両手の掌を合わせ神を拝んでいるかのように俺を見ていた。