槍のマタザ
俺は今、マタザの槍でめった刺しに、いや、刺されてはいない。
ミラ達が寝ている焚き火から200メートルほど離れたところで、
ボコボコに叩かれている。
重く鋭い槍撃。
もちろん致命傷にもなってはいない。
手加減はしているのだろう。
魔術戦闘衣・黒漆塗胴具足を身にまとってはいる。
打ち身にはなっているだろう、茨城弁の「アオナジミ」。
「遠慮せず斬り込んできたまえ、僕の甲冑はドラゴンの鱗と革で作られててね、天叢雲剣の斬撃と言えども傷つけるのは容易ではないよ」
槍、対、太刀
一般的に槍と戦うには3倍の剣術の力量がないと勝てないと言われている。
両手で握っている天叢雲剣の太刀で受けているのが精一杯だ。
俺は今までどうやって戦ってきた?
ドラゴンを殺した、大地を斬った、鎌鼬を出した、
それは、すべて紛れ当たりだったのか?
意識せずに剣を振るう行動。
マタザが槍を引っ込めた所で斬撃をくり出す。
やはり、その斬撃の先には大地が斬られている。
「素晴らしいね~それ、早さと重さが合わさってないと出来ないんだよ、でも無意識、何かを斬ろうとしては出してない、逆に言ってしまえば全てを斬ってしまう狂気の剣、両刃の剣だよ」
確かにそうだ、これでは斬りたいもの以外も斬ってしまう。
どうすれば良い。
槍に勝った人物で最初に浮かんでくるのは、やはり宮本武蔵。
なら、宮本武蔵を憑依召喚すれば勝てる。
いや、それでは剣術のレッスンにはならない。
宮本武蔵、二刀流。
ならば、俺も小太刀を使えば良いのか?
左手で小太刀を抜いて構えた。
俺の天叢雲剣は太刀・小太刀で1セットだ、両刀を使うべきじゃないのか?
小太刀で受け太刀で攻撃、これが定石。
マタザの槍撃はそれを許してはくれなかった。
受けるだけで精一杯だ。
「政宗くん、僕を敵と思えてないね?真剣に斬ろうとしてないね?あまいよ」
マタザのニヤケ顔が鋭い冷酷な目に変わった。
「そっだ、カケをしよう、このまま僕に一撃も食らわす事が出来なかったら、君の奴隷ミライアを一晩借りるよ、目茶苦茶にしてあげる」
「ふざけるな~」
俺の大事な家族をカケの対象になんかしたくない、ましてやミラを目茶苦茶になどとさせてたまるか!
怒りと共に憎しみの感情がわいて出てきた。
剣術のレッスンなんてどうでも良い。
こいつに一撃を!
魔法を使っていた。




