生贄
俺は砂利の入ってくるビジネスシューズで約4時間ほど砂利と戦いながら歩いた。
こんなに歩いたのは、311の帰宅以来だ。
足は蒸れて気持ちが悪い。
今なら、日本一有名な父親ひろし係長より足が臭い自信がある。
砂利には常に誰かが歩いているようで、道ができてはいたので迷っている感覚はない。
しかし、日が沈みかけ始めているのには不安を感じていた。
いくつかの丘を越えて、ようやく遠くに見え始めた景色には煙りが立ち上っている。
そうなると足は急に軽くなるものだった。
近づくにつれてそれは木造の建物であるのがわかった。
火事か、って思ってさらに近づいていくと、そこにはティラノサウルスに翼を付けたような恐竜と呼ベば良いのかわからない体長3メートルぐらいの生き物が火を吐いて建物を焼いていた。
「生贄としての私がちゃんといるんですから村に火を吐かないで下さい。約束が違います」
若い女の声が聞こえた。
あっ、この世界の言葉わかるんだって少し安心してしまったが、『生贄』と言う物騒な言葉に背筋に冷や汗が流れる。
『我は機嫌が悪い、我の巣が雪崩でやられた、あそこは氷河で崩れるはずかないのだ、貴様らがなにかしでかしたのであろう』
雪崩、まさかさっきのとは関係ないよな。
「あなたの機嫌なんて関係ありません、さあ、私をさっさと食べてお帰りください」
『気丈な娘よ、悪くないな、ふはははは、手足一本ずつ生きたまま食べてくれよう、その気丈な振舞いつまで耐え続けるかな』
聞こえてくる会話を近くの木に隠れながら聞き耳を立てて聞いた。
こっちの世界はやっぱドラゴンって話すのか、って恐竜の進化系か?って、あの声の主助けないと食べられちゃうのか。
こういう世界に転生したときって最初の敵ってスライムやゴブリンとかじゃないのか?
いや、ゴブリンは意外に強いらしいからもう少し後のイベントか?
と、考えながらも体は助けなければと動いていた。
木の陰から静かに出る俺に誰も気が付いていない。
スローライフを送りたいならここでの選択肢は、逃げるだろうが。
シュッッッッパッーーーーーーー
俺は無我夢中で翼の生えたティラノサウルスの背中に抜刀術を放った。
間違っていなければ俺は抜刀術で遠当て、カマイタチの類を繰り出せる。
これが俺のチートスキル。
先ほどの雪崩は俺が試し抜きをした時のカマイタチの威力なはず。
シュパーーーー
翼の生えたティラノサウルスの背中から血なのか緑いろの液が噴出する。
『ヌガーーー、なんだなにが起きた』
振り向く翼の生えたティラノサウルスは俺を見つけた。
『貴様か!後ろからこそこそと斬りかかりやがって卑怯者が~』
いやいやいや、こんな怪物に正々堂々名乗りを上げて斬りかかるほうがおかしいからとは思ったが、翼の生えたティラノサウルスの眼光の鋭さに言葉が上手く出せない。
「逃げてください旅のお方、どうか構わず逃げて下さい、邪龍ドラゴラムとは村の契約なんです、旅のお方には関係ないこと」
姿は見えないけど絶対に若いと感じる女の子の声を聞いてしまうと後ろから斬りかかるより逃げるほうが卑怯なのではないかと感じた。
助けなきゃ。