アリス14歳
アリス14歳
ビルマ4歳
今、私の目の前にはビルマと、風の精霊であるシルフがいる。
ビルマは椅子にすわらせてるが、シルフには正座させている。
なんでも藤林家の者に聞くと、この正座というものは反省のポーズらしい。近隣の狐人族の族長である睦月様も言っていたから間違いない。睦月様も自分の娘の如月ちゃんに反省させるときは正座させると言っていた。
では、なぜ私がシルフに正座させてるのかと言うと、理由は一つ。
シルフが、ビルマを連れて私の入浴姿を覗いてきたからだ。
私達の集落には温泉がある。そしてそのお湯を各家に引いてきた家庭用のお風呂もある。
私が覗かれたのは家のお風呂に入ってる時だ。
最初に人の気配を感じた時に、私は直ぐにビルマだとわかった。私は恐らくビルマが私と一緒にお風呂に入りたいのだと思っていた。
なのに声をかけても、湯船に入ろうとしてこなかったのでおかしいと思い、体を布で隠さず近づいた。
そしたら、ビルマの小さい背中に隠れるように、我が家の精霊様がいた。
私は無言で思いっきり殴りつけた。もちろん精霊様をだ。
それだけで済まさず、浴槽の掃除に使うデッキブラシで、しこたま叩きのめした。
なのでシルフの頭はたんこぶだらけだ。
それでも反省の色が見えなかったので今は正座させてる。
シルフは苦悶の表情を浮かべている。
『い、いいじゃないか!!別に減るもんじゃないしさ!!それにアリスの体はすごくキレイだったよ!!』
シルフが喚き散らしてうるさいので棒で一発叩いておいた。
次にビルマを見る。怯えているのか、それとも今のシルフへの一撃が容赦無く行われて自分もやられるのでは無いかと思っているようだ。
「ビルマ…私の裸を見てどう思った?」
「な、なんも思ってないよ!」
「本当に?」
「だっていつも一緒に風呂入ってるもん!!」
ビルマは首を大きく動かしながら私に言った。必死の表情を見ているとつい、苛めたくなる。
「今なら許してあげるよ?」
「…ねーちゃんの体はいつもキレイだなって思った…」
ビルマの答えに私は大いに満足した。
「よし、ビルマ?お母さんを呼んできて。私は別に怒ってないから」
ビルマは私の頼みに背筋をまっすぐ伸ばして、回れ右で母のもとに一目散に駆けていった
シルフは怯えの表情をさらに強くした。
『まっ、まってよアリス!!君と僕との仲じゃないか!!た、頼むからレイアにだけは内緒にしてくれよ!!じゃないと僕は…』
「どうなるのかな?」
私は母さんに言いつけたらどうなるのかを知っていながら、意地悪くシルフに聞く
『………一週間、実体化しての食事を禁止されちゃう』
「おかーさん?、シルフがまたイタズラしたよ!!ま、た、イタズラしたよ!!覗きだよ!!」
私はあえてイタズラのところを強調して母を呼んだ。
シルフは一瞬。絶望の表情を浮かべた後、がっくりと頭を床に下げてしまった。
『…なんだよ…いったい…僕が何をしたって言うんだよ…僕はただ、美しいものを見たかっただけなのに…』
「どの口が言ってんの?」
私が呆れて、ため息まじりにシルフを見ると、シルフが徐々に薄くなってきた。
どうやら母がシルフを手元に召喚したようだ。
『ア、アリス!!僕は本当に悪気は無かったんだ!頼む、信じてくれ!!』
シルフの決死の命乞いを。アリスは自身の鉄拳をもって返事とした。
シルフが殴られた衝撃で床に倒れる直前、消え去った。
調理場から声が聞こえてきた。
〈や、やぁレイア!どうしたんだい?僕をいきなり呼びだしてさ!〉
〈あっ、ちょっ、そのフライパン下ろして!!ほ、ほら危ないだろ?ビルマもいるしさ?〉
〈あぁ!?待って、ビルマ!!僕を置いてかないで!!〉
〈ふ、ふふふ、き、君がいけないんだよ?君みたいな美しい人から生まれた子も美しいに決まっている!!〉
〈だ、だから!美しいものを見たいという美的な好奇心が……まって!なんでお湯を沸かすのさ!?〉
〈ご、ごめん!!本当にごめん!!もう二度としないと風の精霊での名にかけて誓うよ!!〉
〔……あんたの二度としないはもう、百回は聞いてんのよ!!〕
〈タ、タバスコは飲み物じゃな……ギャーーーー!!〉
そんな会話がかすかに聞こえた。
部屋の入り口を見ると、ビルマが顔を半分だけ見せてこちらを伺っている。
私が手招きすると近づいて抱きついてきた。
「おー、よしよし、怖かったねーごめんよー、ビルマに怒ってたわけじゃないよ?」
ビルマは私の胸に顔を埋めている。私は優しく頭を撫でてあげる。
私の体は最近大きくなってきた。女性らしい体つきになってきている。多分、母より大きいと思う。
そんな体をビルマに見られたのは、嬉し恥ずかし、複雑な気分だ。
でもビルマは一言キレイだと言ってくれた。
その一言が聞けたのは結構嬉しい。
(その件に関してだけはシルフを褒めてあげてもいいかな?)
私は少しだけそう思ったが、調理場から聞こえてくるシルフの言い訳と悲鳴がその気持ちを無くさせた。
私はビルマを抱き抱えたまま、二度目の入浴をしに風呂場へ行った。
今日は恥ずかしかったけど、楽しい1日だった。
…夕食には唇を真っ赤に腫らしたシルフがいたが私は特に気にしなかった。