とくべつな『貴方』へ
みなさんは、闇のせいれいがどんなふうにうまれるかしっていますか?
月のないよるの闇から。ひとのはいらないやまおくの、ほらあなの闇から。さびれた村の、かれたいどのそこにたまった闇から。
────そして、にんげんの心のおくの、くら~いくら~い闇からだって、あるひとつぜんうまれおちるのです。
ひとの心の闇からうまれたせいれいは、ほかのしぜんからうまれた闇のせいれいよりも、ざんこくでこわいそんざいです。よろこんでにんげんをおとしいれ、こころもからだも傷つけるのをたのしみます。
だからにんげんは闇のせいれいをこわがって、あくまのようにおもっています。(うみだしたのはにんげんなのに……)ほんとうにこわいのは、ほんのいちぶの闇のせいれいだけなんですけどね……。
おや、せかいのどこかで、また闇のせいれいがたんじょうしたようです。
このこはどんなせいれいなのか、すこしのあいだみまもってみようとおもいます。
この闇のせいれいはあるひとりのおとこの子の、心の闇からうまれました。
そのおとこの子は、あかるいえがおとやさしいせいかくで、陽だまりのようだといわれていました。そんな子でも、心の闇はあるのです。
おとこの子の闇は、“さびしい”というきもちでした。だからおとこの子からうまれた闇のせいれいは、やさしくてさびしがりやなおんなの子になりました。
(なんでかはわかりませんが、闇のせいれいはおんなのひとしかいないのです)
おとこの子のまわりはまぶしい光がおおすぎて、ちっちゃな闇のせいれいがうまれたことにだれもきづきません。おとこの子も、じぶんがうみだした闇にきづいていませんでした。
闇のせいれいのおんなの子もおなじです。じぶんがどこからきたかなんてしりません。きづいたときには、ひとりぼっちでした。
ふつうはこんなによわくうまれたら、ながくは生きられないのですが、うんがいいのかわるいのか、闇のせいれいがうまれたのは、せいれいのちからがつよいたいりくでした。なんとかきえずに、生きのこることができたのです。
さいしょからすれちがってしまったふたりでしたが、ずっとおなじきもちをかかえていたからでしょうか?
おとこの子と闇のせいれいはふたたびであいました。ボロボロになった闇のせいれいがたおれているところを、おとこの子がみつけてひろってくれたのです。
闇のせいれいは、おとこの子がじぶんのうみのおやともしらずに、おとこの子を好きになりました。
おとこの子にはほかにたいせつなものがいっぱいあって、じぶんをひろったのはどうじょうだとしっていても、恋をしたのです。
かなわないとわかっていながら、闇のせいれいはとどかないメッセージをおくります。こえなきこえで、おとこの子に愛をささやくのです………………。
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0.とくべつな『貴方』へ
わたしをみつけてくれて、ありがとう。
うまれたばかりのわたしは、“できそこない”の闇のせいれいでした。
けだかくて美しく、つよくてざんこくなのがほんとうの闇のせいれいなのに、わたしはぜんぜんちがうすがたかたちをしていました。
みすぼらしくて、よわくてさびしがりなわたしは、よるの闇のようにこうきななかまから嫌われて、はじかれてしまいました。
わたしは、木やいしのかげにかくれて、つよいひかりにけされないようびくびくおびえるだけの、ちっぽけなそんざいです。
ひとりはさびしくて、ほかのようせいのように人とおともだちになりたくて、ゆうきをだしてかげからでてみたけど……ボサボサのカラスのはねみたいなかみの毛や、ぽっかりあながあいたような、うつろなひとみがぶきみでこわいと、ようせいもひともわたしを嫌いました。
ちいさな子からぶつけられたいしはとてもいたかったです……。
ねこやいぬのようなどうぶつですら、わたしにはちかよってくれません。
だれからもおまえなんかいらないといわれているようで、かなしかった……。
そんなときに、『貴方』にであいました。
さびしくてさびしくて、たえきれずにかげからとびだしたせいで、きえるすんぜんだったわたしを、やさしい『貴方』が見つけて、ひろってくれたんです。
『ぼくのポケットにおいで。もう、だいじょうぶだよ』
やさしくされたのは、うまれてはじめてでした。
こわれものをあつかうように、そっとわたしをつつんでくれた手は、陽だまりにいるようにあたたかいのに、ここちよいかげでわたしをまもってくれます。
まず、『貴方』の手が大好きになりました。
『貴方』はわたしにたくさんのプレゼントをくれましたね。
かわいいなまえ、おいしいおかし、おまじないのお花、そして『貴方』のえがお。
どれも、わたしがず~っとほしかったもので、うれしくてなみだがでたんです。
『貴方』がなまえをつけてくれたからかな?
わたしはよわいのに、きえずにすみました。
すこしずつだけどおおきくなれたんです。
ポケットのなかがわたしのおうちになって、『貴方』はずっとそばにいてくれた。
『貴方』がちからをくれたから、わたしはできそこないではなくなりました。
わたしはほかのだれでもない『貴方』が、『貴方』だけが大好きです。
『どうして、ぼくはだれのとくべつにもなれないの……?』
そういって『貴方』がないているのを、みまもることしかできなくて、ごめんなさい。
わたしのちからは『貴方』のおかげでふえたけど、どうしてもこえがだせなかった……。
わたしにとって、『貴方』は兄であり、父であり、愛するひとです。
『貴方』はわたしにとってのとくべつなのです。
……わたしは、きっと『貴方』にとってはちっぽけなそんざいのままなんですね。
わたしは『貴方』のとくべつになれませんか?
『月』のようにやさしく『貴方』をてらせません。
『炎』のようなあたたかさはわたしにはないものです。
……『風』のように、『貴方』をみちびくこともできないでしょう。
でも、『闇』はずっと『貴方』のそばにいます。
ふがいないわたしでは、『貴方』をえがおにすることはできませんでした。
そのなみだをとめてあげたかったのに、ちいさなわたしでは、こぼれおちるしずくをぬぐってあげるのがせいいっぱいです。
もっと、もっと、ちからをください。
なきくれる『貴方』をだきしめる、ちからづよいうでがほしいのです。
『貴方』をつつみこめる……かくせるくらいながいかみがほしいのです。
愛をもとめる『貴方』に愛しているとつたえたいのですが……。
ちからをもとめたわたしは、ほかの闇のせいれいにもまけないくらいつよくなりました。
でも、どんなにつよくなっても、このくちものども、やくたたずのままで、どうしてもこえがだせません……。
それでも心はずっと愛しているとさけんでいるんです!!
きょうも、あしたもあさっても、『貴方』のためにとどかない愛のことばをわたしはおくりつづけます。
──────わすれないで。わたしは『貴方』のそばにいます。
ずっと、ずっと…………永遠に。
闇より、愛をこめて。
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むりやりさらったのか、おとこの子がのぞんだのかはしりませんが……いつしかおとこの子は、闇のせいれいときえてしまいました。おとこの子のかぞくやおともだちはみんなさがしまわりましたが、おとこの子がみつかることはなかったのです。
闇のせいれいはひとやものをかくすのも、じぶんがかくれるのもとくいだからです。
闇のせいれいは、闇から闇にわたっていどうができるので、きっととおいとおいどこかでおとこの子とくらしているのでしょう。
…………闇のせいれいがおとこの子のとくべつになれたのかはわかりません。
闇のせいれいはおとこの子の心の闇からうまれたもの、いってしまえば、もとはおなじそんざいなのです。だからおとこの子によりそうことはできても、むすばれることはてんちがひっくりかえってもありません。
おとこの子と闇のせいれいがしあわせになったのか?
──────それも、だれにもわかりません。