壊された日常
―北朝鮮平壌―
ここは不思議な国。世にも珍しい世襲制君主の存在する社会主義国家だ。偉大なる同志とやらがが統治する、妙な国だ。
太った将軍が側近に命じる。彼はこの場では最年少だが、党、軍、国家を掌握する北朝鮮の長であった。
「ぬかりなく進めてくれ」
「はい『偉大なる首領様』の『無慈悲な作戦』に、日帝はなす術もないでしょう」
北朝鮮による『イージス艦こんごう強奪事件』は『護衛艦こんごうの無力化を目的とする戦艦大和のレールガン攻撃を主軸とする作戦』によって数年前に阻止された。
それから数年後、北朝鮮は新たな計画を進めていた……。
「……必ずや戦艦大和の機密を入手します!!」
北の目的は、戦艦大和の機密を入手することだった。
そのためにある人物を標的に選んだ。
机上の書類には、日本人の名が記されていた。
『防衛省事務官 西条美香』
―日本国東京都―
穏やかな陽が彼らを照らす。
噂をされるとくしゃみが出るとはよく言ったものだ。
「くしゅん!」
可愛いくしゃみをしたのは件のターゲット、西条美香であった。
彼女には、高校時代から付き合っている海上自衛官の彼氏がいる。
可愛らしい外見に似合わず、防衛省の官僚であるのは、彼氏の影響である。彼氏について行きたくて、防衛省に入ったのだ。
その彼氏が美香を気遣う。
「……風邪か?季節の変わり目だからな」
「あはは……そうかな」
彼氏は美香の頭を優しく撫で、二人は笑みを溢す。
彼氏の名は戸村洋介。
国連日本海軍戦艦の艦長を父に持つ3等海尉……まあ分かりやすく言えば少尉である。高校生時代、イージス艦こんごう奪還作戦……通称『ヤマト作戦』を観戦した。
彼ら2人は、防衛省からの帰宅の途中であった。
海上自衛隊に新設される艦隊、第5護衛隊群についての研修に出席していたのだ。
第5護衛隊群は、空母あかぎを中心とした空母機動部隊だ。海軍の旗艦たる戦艦大和との連携が期待されている。
また、海軍への編入も想定されている。
洋介は航空機搭載型護衛艦あかぎの通信士、美香は第5護衛隊群担当の事務官である。
……公私混同も甚だしい人事だが、洋介の父親が政府に口出ししたと言われている。海軍最新鋭艦艦長の発言力は絶大のようだ。
陽が沈みかけ、少し寒くなってきた。
「『お花を摘みに』行ってくるね」
そう言うと美香は、洋介の元を離れた。
「あまり遠くに行くなよ~?」
「分かったぁ~」
数十分後。
「いくら何でも遅すぎる……!!」
洋介は苛立っていた。
スマートフォンの韓国製無料通話アプリにも応答がない。
別の端末から着信があった。けたたましい着信音だ。
同時に、防災無線も響き渡る。
【 ゲリラ・特殊部隊攻撃情報:ゲリラ攻撃情報。ゲリラ攻撃情報。当地域にゲリラ攻撃の可能性があります。屋内に避難し、テレビ・ラジオをつけてください。 対象地域:東京都 千代田区 】
「ッ……!!」
それは全国瞬時警報システム、J-ALERTだった。
彼は専用端末をいじる。
これは軍関係者に貸与されているものだ。スマートフォンに似た形状だが、中身は全くの別物である。特に通信機能が拡充されている。
洋介は自衛官だが、戦艦大和との共同任務に備えて特別に支給されているのだ。
洋上の父と繋がる。
「あ、もしもし。親父……?実は…………」
洋介は状況を説明する。
忽然と美香が消えたこと、千代田区にJ-ALERTが鳴り響いたことを。
父の返事は、予想通りであった。
その返事に、洋介は青ざめる。
「は……?拉致被害の可能性が高い……!?数時間前に北朝鮮工作員が入国した情報がある……!!?」
洋介たちは戦乱に巻き込まれていく……。
美香の運命やいかに……。