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海山

空と海2


昨日来たばかりだが、早速家業をはじめようと思う


ウチの家業と言っても大した事をしているわけではない


ただの田舎の何でも屋というだけだし、リンゴ園でもある


リンゴの方はまだ両親に任せているが、流石に家業までは手が回らないようで、強がってはいるが大変そうなので、そちらを請け負う事にした


投函された手紙を読む

差出人は…見知った名前だった

幼馴染だった四条桐木だ

曰く、

『うちの畑を大きなイノシシが荒らすので、どうにかして追い払うか狩ってほしい』

との事だ


頼む相手を間違えている気もするが、

イノシシ程度なら大丈夫だろう


猟銃と弾丸、それにイザという時の為に釘を5本持っていく事にした


「それじゃー四条さんの家にイノシシ狩りに行ってきます!猟銃借りるよ!」


家の居間のこたつにメモを残し、扉を閉めた



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おじゃましまーす、イノシシ狩りに来ましたー」

ノックをして、扉を開けて言った


「はーい」

聞き慣れた男の声がする


声の主は廊下から玄関の影を捉えて

「どうもありがとうございま…おお!お前!!帰って来たのか!!!千葉はどうだったんだ?!能力は何だったんだ?!」

驚いたり喜んだりしながらまくし立てた


「久しぶりだな!!帰って来てやったぞ!千葉はビルがあったぜ、本物が…

能力はまぁ…見てのお楽しみ、という事で」


僕も聞き取れた範囲で答えた


旧知の仲、竹馬の友とも言える彼との再会は僕の機嫌を良くするには十分だった



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


機嫌の良い18歳の親友2人、陽は昇りつつある時間

と来ればキャッチボール、定石である


「お前上手くなったなー!野球部入ってたんだっけ?」

桐木はボールを放りつつ、僕に問うた


「結局3年の春に辞めたけどねー お前は相変わらず未経験者とは思えない上手さだな」

嘘偽りの無い事を力強いフォームで投げ返す、ただしフォーク


「お世辞は…おっとぉ!!良く落ちるじゃん!お前こそ指先は相変わらず器用で何よりだわ」

彼も負けじと、同じく力強いフォームで投げ返して来る、ただし豪球


キャッチボールは取り留めの無い会話を添えて続いていく


そして2時間は経とうかという頃、桐木が昼飯を作ってくれると言うので、大人しくご馳走になる事にした


「作り置きの物だが…天ぷらの衣は浸してあるからあとは揚げるだけだ

シャワーでも浴びて来いよ」


との事だったが、着替えは無いので遠慮して水をホースで浴びただけにとどめた


(これは拘りだが、一度シャワーに入る為に脱いだ服をもう一度着るのは絶対に嫌だ)


桐木の能力は「発火」

人の「やる気」を引き出したり、あるいは燃えるものに火をつけたりできる

ただし動物には物理的な意味での火を直接起こす事は出来ない


服も水浴びついでにすすいで、桐木の家の囲炉裏の火で乾かしている


「はーあったけーなーー…」

不意に言葉がこぼれる


「なら脱いで乾かせばもっとあったかいぞー!」

「絶対嫌だ、脱いだら着ない」


間髪入れずに返す


「あとどれくらいで揚がるんだ?」

僕が聞くと

「もう揚がるぜー 油を切ってるんだよ」

と彼は答えた


そして言葉に違わず、数分後には僕らはそれぞれの小皿に盛られた天ぷらを食べていた


「さて、イノシシの件だが…どうなんだ?」

僕は問うた、そして続けて

「お前の発火能力、動物には使えなくても追い払う為の木の棒への発火くらいお手の物だろう?」


「それがな…」

苦い顔をして彼は言う

「今回のイノシシは高さが1m半はあってな、全長はわからんが…2m半程と見た

ウチの全員で追い払いにかかったんだが…発火した木の枝なんて御構い無しに突進して来やがってな…うちのオヤジなんて足を骨折しちまってよ…なんとか逃げられたけど、畑はひどいもんだ…」


「ん?そうなのか?オヤジさんの怪我は酷いのか??」


「わからん 今日検査に行ってるんだ

ほら、今までこの家でオレとしか話してないだろ?

いまオヤジの検査の付き添いでオフクロも出張ってるんだ」


「それにオレは運動神経は良いが、発火してると言っても木の枝でイノシシと戦うのは…いくらなんでも厳しいだろう?」


言われてみれば最もである

かと言って猟銃も彼の発火能力と相性は良くない


曰く「ゲスい煙の匂いがする」との事で、能力は精神状態に左右されてしまうから弱体化してしまう



「2m半か…まぁ狩れなくはないな」

「おお!頼むよ!!米俵3つまでなら手を打とう!!」


彼は気前良くそんな事を言った

「いや、1つでいいが…どうにかしてイノシシの動きを止めらないか?」


「動きを?」


「ああ…猟銃にしてもオレの能力にしても、物理的な防御には向かないからな」


「まぁわかった、その代わり俵1つならやってやるさ」


「よし!商談成立だな!」

僕は言った

そして、続けて、

「それじゃあ、作戦会議と行こうか」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夕暮れ、カラスの鳴く頃、イノシシはこの時間に決まって現れると言う


僕は畑に隣接した小屋の方向がちょうど風下となるようなので、その小屋の屋根に伏せている


持っているものは、玄翁、釘(鉄)、猟銃、弾丸だ


…ヤツが来た!

伝えようとしたら、桐木からも目線がこちらへ飛ばされる


桐木は今、気づかないフリをして、カカシを担ぎながら畑で水を撒いている


イノシシは前回3人を追い払った事で慢心しているのか、桐木のいる畑へと近づいて行く

これによって自分が死ぬとも知らずに…


桐木とイノシシの距離が10m程度になった時


桐木は突然振り返り、イノシシへとカカシを投擲しようとする態勢に入った


イノシシも急いで加速して桐木を倒そうとしたが、既に遅い


燃え盛るカカシはイノシシへと一直線に進み、眉間へと強くぶつかった


イノシシはカカシを頭に喰らい、一瞬怯む


その隙に桐木はイノシシから距離を取っていた



そしてその隙を逃すほど、僕ものろまではなかった


猟銃には弾丸を詰めた後、銃口から釘を3本、弾丸に接する位置まで詰めてある


引き金を引くと同時に僕の能力を使い、釘がイノシシに刺さったのを確認してからもう一度能力を使用した



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


イノシシは顔の部分が全て吹き飛び、首の骨がむき出しとなっている


「これで今日はイノシシ鍋だぜー!!」

桐木は呑気なものである


僕は…僕の能力について、今更本気で恐怖を感じていた


僕の能力…それは、「1時間以上携帯した(体表から約20cm以内の距離にあった)金属を、好きな時に爆発させられる」というものだ


分類では

物理面にかなり偏っている分、その物理面では無類の強さを誇るとされる爆破系の下位とされている

評価D++という微妙な評価を頂いた


ちなみに能力評価はA〜Eの五段階評価で行われ、+1つで(限定条件下で1つ上位レベル)という評価である


桐木のものは精神的にも物理的にも優秀で、Bランクとされている


僕の能力は、金属であり、携帯したものならば何であれ爆破できる、というもので、それを応用して以下の事を起こした


弾丸の火薬が爆発→ほぼ同時に弾丸の金属部分を爆破→釘を超高速で射出→命中した瞬間に釘を爆破


イノシシに命中した釘は1本だが、爆破によって頭が消し飛んだのだ


イノシシの惨い死体が、怖い

この能力が、怖い

イノシシに出来るならどんな人間なんて簡単に殺せると考えた自分が、怖い


桐木には気付かれないように、しかし確かに僕は口まで戻ってきた天ぷらだったモノを飲み込んだ

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