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メシマズ異世界の食糧改革  作者: 空亡
第四章 魔王の仲間

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第78話  「レクリエーション」

 晴天の非人街。

 その中央の広場では、今まさに稲豊発案のレクリエーションが開かれようとしていた。非人街に住む子供達の殆どが集まった事により、広場はちょっとした賑やかさとなっている。勿論、その中にはタルトやスフレの姿もあった。



「んじゃあ、最終確認な? このカードを持っていない子がいたら言ってくれ! 無いと遊べないからな~」



 三十人はいる子供達の前に立った稲豊は、縦横十五センチ程の正方形の厚紙を皆に見えるように高く掲げる。子供達は無邪気に「ある~!」「持ってる~!」など口々に声を上げるが、念の為にとミアキスやナナが目でも確認を取った。


 そしてミアキスとナナの両方が手を上げるのを見届けてから、稲豊は次のステップへと進む。



「それじゃあ遊び方を説明するな? このカードには見ての通り、色々な絵が描いてある」



 稲豊の言葉を聞いた子供達は、手に持った厚紙のイラストに視線を向ける。

 そこに描かれているのは、デフォルメされた猪や鳥。スプーンやボール、果ては三日月なんてものもある。縦横合わせて二十五種類もあるイラストに、子供達は目を輝かせながら開始の時を待った。



「実はこの絵達の周りには少し切れ込みを入れていて、押すと簡単に折れ込むようになってるんだ。試しに真ん中の“星”の絵をを押してみてくれ。この星だけは全員共通だからな」



 子供達は言われた通り中央の星のマークに指を当て、グッと力を込める。

 するとペリペリと音を立てて、星の部分は扇のような形で空洞となった。中には上手くいかない子もいたが、それは隣の子のフォローにより解決を迎える。そして皆が自分へと顔を向けたのを確認してから、稲豊は説明を最終段階へと移行した。



「後は簡単。俺が箱の中から紙を引くから、それに描いてある絵をさっきの星と同じように押し込むんだ。そんでタテ・ヨコ・ナナメのどっかに五つ穴が揃ったら、手を上げて教えてくれ。それと、隣に分からなくて困ってる子がいたら助けるように。そんじゃあ、開始するぞ~!」



 ゲーム開始の合図に、ハッスルした子供達は黄色い声を上げる。

 あまりの声量に、耳の痛みを感じる稲豊。その側にはクジ箱を持つミアキスが控え、ナナは白い袋の前で待機した。


 微笑ましい騒々しさに包まれる中、稲豊が不意にミアキスの方へと向き直る。



「ミアキスさん。やっぱクジ箱は俺が持つんで、ミアキスさんは子供達のチェックをお願いします。あとカードが一枚余ってるんで、参加もお願いします」


「何? わ、我が遊びに参加するのか?」


「流れてくる刺し身にタンポポ乗せるよりも簡単な遊びなので。はいどうぞ」


「何を言っているのか分からんが……。わ、分かった。昨日の借りもある。参加しようじゃないか!」


 ミアキスは本来こういった児戯には参加しない。騎士としての体裁があるからだ。しかし、その真面目な性格上、恩を感じている人間の頼みを断ることが出来ない。体裁と性格の狭間で揺れ動きながら、彼女は半ばヤケになりながらも稲豊の頼みを引き受けた。


 カードを手に恥ずかしそうにするミアキスを見て、稲豊は心の中でガッツポーズを取る。実は今回彼がビンゴ大会を計画したのは、その半分が彼女の為であった。落ち込んでるミアキスの為に何か出来ないか? そう考えた稲豊が、ナナと一緒に一晩掛けて道具を製作したのだ。


 稲豊は思った以上にスムーズに計画が進んだ事に、隠しきれない笑みを浮かべる。

 

 だがそんな折。少年の元にスッとナナが身を寄せ、小声で彼に語りかけてきた。



「イナホ様。大丈夫ですかね? ミアキス様、嫌がってるようにも見えます」



 眉をハの字にしたナナはそう零し、稲豊のコートの端をキュッと摘む。

 少女はミアキスの質実剛健しつじつごうけんな性格を知ってるが故に、今回の作戦を心配に思ってしまう。だがそんな彼女の不安も、面を上げるまでの間である。少女が顔を上げると、そこには自信に溢れた稲豊の顔があったからだ。



「大丈夫だ。あれは照れてるだけで嫌がってる訳じゃない。俺が想像するに、ミアキスさんはこういう行事が嫌いではないと見た!」


「その自信はどこから来るんですか?」


「何となくだ!」



 根拠のない稲豊の自信にナナは苦笑するが、何故だか彼女は少年の言葉を否定する気にはなれなかった。「信じてます」少女は彼にそう耳打ちし、また大きな袋の前に戻って事の成り行きを見守る事に徹する。


『期待を裏切る訳にはいかない』


 稲豊はナナだけでなく、子供達の期待をも全身に感じながら、気合を込めてクジ箱へと右手を入れた。



「さあ記念すべき最初のイラストはなんじゃろな~? っと!」



 そして高々と持ち上げられる稲豊の右手。

 彼はその手に持つ紙を一見し、後ろの子供にも聞こえるような大きな声で言った。



「足が六つに茶色い毛並み。大きな二本の牙を持つ、足の速い生き物な~んだ?」


「えー?」



 突然の謎々に、子供達だけでなくナナまで目を丸くする。

 それもそのはず。このクイズは稲豊が直前になって思い付いた、云わば即興のものだったからだ。



「ただ発表していくだけじゃ芸が無いからな。なぞなぞ形式でやっていきます。答えが分かったら、手を上げて俺に教えてくれ!」



 稲豊の言葉を聞いた子供達は、無邪気にも「わかった!」「おれおれ!」と我先にと挙手をする。



「それじゃあ、ラグー! 答えはなんだ?」



 そして稲豊は、その中でも特に元気そうな男の子を手始めに指名した。



「イノシシ!」


「正解! 皆。手持ちのカードに猪の絵があったら、さっきと同じように折り込んでくれ」



 クイズが終わったら、子供達は自らの手元に視線を落とし、真剣な瞳で猪のイラストを探している。皆のその様子を見れば、稲豊はこの行事への手応えを感じずにはいられなかった。


 そして、そんな彼の期待通り。

 クイズビンゴ大会は更なる白熱を見せた。



「空に浮かんだモクモクは?」


「くも!」


「綺麗な羽を羽撃はばたかせる、花が大好きな生き物は?」


「ちょうちょ!!」


「サッカーに使う道具は?」


「ボール!!」


「です――が! 外に出掛ける時に足に履く物は何でしょう?」


「うわぁ~! ずっこい!!」



 大会は順調な歩みを見せ、子供達の中からも「あと一つ!」等の声が飛び出すようになっていた。もうそろそろ、揃った者が出て来てもおかしくない頃合いである。



「昼に昇るのは太陽。では、夜に昇るのは? じゃあ次はアル!」


「ツキ!! うおぉ! そろった!!」



 稲豊の指名した男の子が、まさかのビンゴ第一号だ。

 少年アルは目を爛々とさせながら、穴の揃ったカードを皆に見えるように天高く掲げた。



「おお! おめでとさん! やるじゃないかアル!」


「へへっ! とうぜんだぜ!」



 胸を張る男の子に、周りの子達から自然と拍手が贈られる。

 それにより、アルは益々自慢気になっていった。しかしそんな少年の伸びた鼻は、稲豊の次の一言で折られる事となる。



「じゃあ、次の問題は――――」


「ええっ!? ちょっとまった! それでおわりなのか?」


「ん? 終わりだけど?」



 ただ褒められただけだった事に不満を覚えたアルだが、終わりだと言われてしまえば仕方が無い。彼はしかめっ面で掲げた右手を下ろした。そして稲豊は、皆が静まったのを確認してからまた箱の中へと手を進入させる。



「メイド服を着た可愛い可愛い女の子。働き者のアラクネ族は?」


「ちょ、ちょっとイナホ様!! 何ですかその問題は!!」


「はい正解~! ナナの絵を見つけた子は折り込んでね~」


「ナナは『ナナ』なんて言ってません!!」



 顔を林檎のように赤くしたナナをスルーした稲豊は、手を挙げる一人の少女に気が付いた。スフレの隣にいたタルトである。彼女は一言「そろった」と発言した。



「おお~! おめでとう! じゃあそんな運の良いタルトには、景品をプレゼントします! ちなみに一人一個までな?」



 我に返ったナナが慌てて白い袋の中から取り出したのは、黒猫のぬいぐるみ。

 昨夜稲豊が、ナナと一緒に完成させた自信作だ。拍手が飛び交う最中さなかそれはタルトの手に渡され、他の女子からは羨望の眼差しが彼女に向けられる。


 だがその時。

 そんな幸せな空間の中に、一つの疑問の声が飛び出した。



「ちょっとまった!! おかしくない!?」



 黒猫のぬいぐるみに人差し指を突きつけ稲豊に詰め寄ったのは、先程ビンゴを出した男の子である。



「どうしたんだアル?」


「いやいや! なんでタルトにはプレゼントがあるのにオレにはないんだよ!?」


「ぬいぐるみ欲しいのか? 男だから要らないかと思ってさ……」


「え? あ……いや……。うん、そういうコトなら……」



 人前でぬいぐるみが欲しいなんて口が裂けても言えないアルは、仕方なくすごすごと引き下がる。その表情には、やはり不満が滲み出ていた。



「はいはい! イナホ! 実は私もそろってたりして!!」


「おっ? スフレも揃ってたのか? じゃあスフレにも景品プレゼント~!」



 そしてスフレに渡されたのは、布製のサッカーボールだ。



「うおーーい!! おかしいだろ!! ゼッタイおかしいだろ!!」


「なんだまたアルか? 男だからサッカーボールは要らないかと思っ――――」


「いるだろ!! 男の子なんだから!! サッカーボールいるだろ!!!!」



 アルのあまりの剣幕に限界を感じた稲豊は「冗談だって」とネタバラシ。

 白猫のぬいぐるみをスフレに渡し、サッカーボールは無事に男の子の手へと渡った。



「もう少しでグレるところだったよ。イナホ兄ちゃん」


「悪かったって! そら、代わりにクジ引かせてやるから!」


「マジで! やりぃ!!」



 クジを引かせて貰えると知るや否や、アルは笑顔でクジ箱に手を入れる。

 そんな彼が引いたイラストを見た稲豊は、男の子の頭を「でかした!」とでも言わんばかりに荒々しく撫で上げる。そして神の如き速度で考え出した問題文を、皆の前で披露した。



「これは二連続でサービス問題だな。じゃあ、いくぞ? 次の問題! しっかり者でカッコ良く、いつも皆を助けてくれる、犬耳の可愛いお姉さんと言えば?」



 稲豊が問題を出した瞬間。

 今までに無い勢いで子供達の手が一斉に挙がる。もう既に景品を手に入れた、アルやスフレ達ですらそれは例外ではない。ゲームから先抜けした彼等ですら、この問題に“答えたかった”のだ。



「いや……あの……」



 何よりも困惑するのはミアキスである。

 彼女は自分が子供に好かれているなど、全く想像していなかった。表情の固い自分など、嫌われているとさえ思っていたのだ。


 しかし現実は完全な真逆。

 稲豊と共に非人街を訪れ、怪我をした子供には直ぐ治癒魔法を施し、困った事があれば助けてくれる。そんな世話好き人狼の事を、子供達が嫌いになれる筈は無かったのだ。



「皆問題の答えが分かったみたいだから、『せーの』で同時に言うぞ~! 良いか? せ~のっ!!」



 稲豊の号令により、その場の全員が口を揃えて『ミアキスさん』と声を上げる。

 すると彼女は先程のナナに負けないぐらい顔を赤くし、皆の視線から逃げるようにカードで表情を隠した。



「しょ、少年……その辺にしてくれ。我は、は……恥ずかしい……!」



 この瞬間が見れただけでも、このレクリエーションを企画した価値があった。

 そう感動した稲豊だったが、彼に吹く追い風はまだ止んでいなかったようで、事態は更なる好転を見せる。



「あっ……そ、揃っている!! 少年!! 揃っているぞ!!!!」



 カードで顔を隠した事により、ミアキスは自身がビンゴしている事実を知り、大きな声を上げた。そして数秒後に自分の出した声の大きさに気付き、彼女はその場の誰よりも小さくなってしまう。


 ナナの手から稲豊に景品が渡され、それを手にした彼は小さくなった人狼の元まで小走りで駆け寄った。



「ミアキスさん。ぬいぐるみ好きですよね? 受け取って下さい。俺の渾身の作なんですから!」


「う、うう……。わ、分かった……」



 ミアキスが可愛いもの好きである事は、彼女の部屋を訪れた事のある者には周知の事実。今回の景品がぬいぐるみである事は、決して偶然などではなかった。



「はいどうぞ!」



 稲豊の手から狼のぬいぐるみを手渡されたミアキスは、その際に彼の人差し指に巻いてある包帯に気が付いた。その傷がどうして出来たのか? そこに思い至った彼女は、愛おしそうにぬいぐるみを抱きしめ――――――









「ありがとう」



 いつも浮かべるニヒルな笑みではなく。

 少女がするような、眩しくも無邪気な表情で微笑んだ。







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