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メシマズ異世界の食糧改革  作者: 空亡
第三章 魔王との誓い

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それぞれの一日

【ミアキスの世話好きな一日】



「起床する」



 深夜寄りの早朝、太陽が顔を覗かせる前からミアキスの一日は始まる。

 顔を洗い歯を磨き、動きやすい格好に着替えた彼女は、ベッドの脇に置いていた片手剣を手にし、まだ暗い表へと赴く。

 

「ん~!」


 軽く準備運動をこなし、体が解れてきたところでミアキスは森の中へと颯爽と駆け出す。糸の位置を把握しているミアキスが、ナナセキュリティに引っ掛かる事はない。見回りを兼ねたランニングを十キロほどした後は、適当な木を使って懸垂をする。


「……498、499、500!」


 腹筋や兎跳び、果ては瞑想にまで及ぶトレーニングの後。

 日の出と共に彼女は屋敷へと帰る。



「生き返るな」


 屋敷へ戻って最初にするのは入浴。全身の汗を洗い落とす感覚は何とも言えない。ミアキスが唯一落ち着く事の出来る時間である。


「くっ……! 耳に入った!」


 犬耳は髪を洗う際にかなり邪魔になる。

 泡や水が入るのは良くあることだ。



「少年。今日は何をすれば良い?」


「じゃあ、タル芋を蒸して、すりこぎで潰して貰って良いですか?」


「承知した」


 今日は食事の手伝いをする日。

 二ヶ月も助手をしていれば大体の事を理解してくる。ミアキスは手際良く調理助手をこなしていった。



「ミアキス様! ありがとうございました!」


「構わんさ」


 午後はナナに頼まれ、屋敷の屋根を修理をするミアキス。

 手先の器用な彼女には、日曜大工など朝飯前だ。


 その後に花の世話を終えれば、あとは午前のリピートである。

 唯一違う点を挙げるとするならば、就寝前に彼女がメイド少女の部屋を訪れた事だろう。


「ナナ。耳を出せ」


「あっ! 今日はナナの日ですね! どうぞ!」


 ナナは耳掃除のしやすい体勢を取り、ミアキスはマイ耳かきで掃除を開始する。

 日によってはマッサージだったりもするこの行為。これがミアキスの日課であり、趣味でもある。


 世話好き人狼の一日の最後は、やはり誰かの世話で終わりを告げるのだ。



:::::::::::::::::::::::::::



【ナナの勤勉な一日】



「ふわぁ~! 朝ですか~!」


 部屋の上空に自作したハンモックの上で、屋敷で二番目に早起きの少女は目を覚ます。


 ピョンと床に飛び降りた彼女はパジャマを脱ぎ捨てると、七着あるメイド服の中から今日の気分の服に着替える。年頃な彼女の精一杯のお洒落であるが、あまり気付いて貰えないのが少し悲しい。


「ねこねこにゃんにゃん~、あいらぶスパイダ~」


 歌を唄いながら浴場の掃除に精を出すナナ。

 もはやその動きは慣れたもので、あっという間に浴槽内もピカピカにし、中を冷水で満たす。


「パチッとな!」


 浴場隅のツマミを捻ると、浴槽下の火の魔石が熱を発して冷水をお湯へと変えてくれる。


「うん! 良い感じ!」


 湯の温度を確認した後は次の仕事だ。

 調理場から余った食材を拝借し、それを屋敷の裏手へと持っていく。


「マル~。ごはんですよ~!」


 大きな皿の上に食材を移すと、寝ていたマルーはゆっくりと瞳を開ける。

 睨みつけるようにナナと食材を見た後で、彼は静かに巨体を起こして食材に食らいつく。それを見届けた後で少女が向かったのは、再び浴場。


 更衣室で皆の汚れた衣類を集めた彼女は、屋敷横へと向かう。

 そこがこの屋敷で一番日の当たる場所であり、洗濯のベストポイントだからである。


「あっ! イナホ様!」


「お~す。先に頂いてるぞ~」


「お風呂じゃないんですから!」


 今日は洗濯の先客がいる。

 大盥で自身の服を洗う稲豊の隣に、ナナは別の盥を用意した。


「置いといたらナナが洗いますのに……」


「良いの。俺が洗うの。幼女にパンツ洗わせてるとか変な噂が立ったら嫌だから」


「アハハ。そんなウワサ誰が流すんですか~!」


 それが稲豊の照れ隠しである事をナナは知っている。

 少女一人に仕事を任せる事を悪いと感じているのか? 稲豊は場面場面でこうしてナナの手伝いを買って出てくれる。彼は認めないが、バレバレな行動なので誰であろうと筒抜けだ。


「…………可愛い」


「ん~? 何か言ったか?」


「な~んでもないです!」


「そっか。じゃあアドバーンさんの服も貸せ、こっちの石鹸が勿体無いからな」



 楽しい洗濯の時間が終わると、朝食の時間だ。

 今日はミアキスが助手なので、稲豊を手伝えない事に若干の歯痒さを感じながら少女は待つ。



「今日のごはんも美味しかったなぁ~」


 朝食後は屋敷の掃除。

 広い屋敷なので、これには流石のナナも骨が折れる。一日の仕事の大部分であると言っても過言ではない。粘着性の糸で上の方の埃を絡め取り、床は糸で作った箒で掃く。外壁さえも蜘蛛の脚でくっつきながら掃除する。


 当然一日で全てが終わるような広さではない。

 疲れたら休憩がてら花壇の手入れをしたり、稲豊の部屋へと赴いて時間を潰した後に、また再開するのだ。


「もうこんな時間ですか」


 そうこうしている内に日が暮れて来たら、また湯を張り食事に胸を踊らせるのである。



「くもくもチュラチュラ~」


 就寝前に彼女が良く行うのが、趣味の洋裁。

 皆がそれに身を包んだ姿を想像するのが、少女はとにかく楽しくてしょうがない。自らの分身を純白の蜘蛛として忍ばせるのも、彼女の楽しみの一つだ。


「指が乗って来ましたよー!! さあ! あともう一踏ん張り!」


 その日――――ナナの作業は深夜遅くまで続いた。



:::::::::::::::::::::::::::



【ルトの怠惰な一日】



「ふぅ…………む! ……もう朝か」



 昼頃起きた彼女は食事の後に稲豊に魔法の指導をし、部屋でヒャクの果汁を飲み二度寝する。起きたらまた食事を摂り、風呂に入った後に月見酒をしてから就寝するのである。――――――オワリ。



:::::::::::::::::::::::::::



【???のとある一日】



「クソッタレ! なんだあの野郎は!!」


 モンペルガの裏路地を、一匹のオークが息を切らしながら何かから逃げている。

 そのオークは稲豊が初めてターブと会った時、その背後で下卑た笑みを浮かべていたオークであるが、そんな事は彼が追われている事に何一つ関係なかった。

 

「しまった!? 行き止まりか!!」


 路地裏の袋小路に来てしまったオークは、振り返り元来た道を戻ろうとする――――が。


「いや~。いけませんなぁ……。逃げるのならば、もう少し人通りの多い所に逃げるべきです。まぁ、足りない脳だからこそ“エデン国の密偵”なんて馬鹿な真似が出来るんでしょうねえ」


 追跡者は既に背後まで迫っていたようで、小馬鹿にしたような言葉と態度で彼を壁際まで追い詰める。


「言いがかりだ! 俺が何かしたって証拠でもあんのかよ!」


「アリスの谷で不思議な植物を手に入れたと……王都の至る所で噂を広めていたそうじゃないですか?」


「ほ、本当に手に入れたんだ! 食ったからもうないが、嘘じゃない!!」


 オークは必死の弁明をするが、それに対する追跡者の答えは抜刀。

 あまりに洗練されたその動きに、二人の力の差を瞬時に理解したオークは、自身の背中を走る悪寒に苦しめられた。


「では教えて頂きましょうか? どんな植物で、どんな味がし、どのようにして手に入れ、どうしてアリスの谷など辺鄙な所に赴いたのか? 納得の行く説明が出来ますかな?」


「え……あ……ううっ」


 畳み掛ける追跡者の言葉に、オークはたじろぐ事しか出来ない。


「疑わしきは罰せよ。貴方はあまりに“疑わしき”が過ぎる。残念ですが……」


 建物の隙間から差し込んだ太陽光が、追跡者の右手に持つ細剣を残酷に光らせる。戦慄したオークは全身から来る震えと戦いながら「待ってくれ」と、かろうじて声を絞り出した。


「と、とと……取引をしよう……! “もう一人の内通者”の事を教えてやるから! み、見逃してくれ!」


「ほう? やはり単独ではありませんでしたか。……分かりました。もう一人の名前と引き換えに、貴方の命は保証しましょう。司法取引というやつですな」


「よ、よしっ! 取引は成立だな!!」


 オークは我が身可愛さに、隠すこと無くある人物の名前を追跡者の前で明かした。少なくない動揺を受ける追跡者に、彼は汗を掻きながら言い訳を始める。


「俺は言ってしまえばただの伝言役メッセンジャーなんだよ! そいつからの情報をエデン側に流していただけなんだ! わ、悪いの全部そいつなんだよ。俺は悪くねぇんだ」


「…………ふむ」


 言い訳など耳に届いていないかのように、まだショックを引き摺っている追跡者。オークはそんな姿を見て「今が好機!」と、足を一歩踏み出す。


「まぁ、そういうわけだ。取引の終わった俺はもう行くぜ。もう情報なんか売らねぇから安心しろよ」


 そんな言葉と共にオークは追跡者の脇をすり抜ける。

 そしてそこから数歩ほど先へと進んだ地点で「一つよろしいですかな?」そんな追跡者の言葉が聞こえ、怪訝な顔で振り返った――――まさにその時。


「なん――――――」


 追跡者の細剣が恐ろしい速度で弧を描き、オークの右肩から入り込んで左脇腹から抜け出した。袈裟斬りにされた屈強な体は、内容物を撒き散らしながら二つに分かれ、音を立てて石畳の上に倒れる。酷い臭気に包まれた路地裏で、一人残った男は死体に向けて無感情な言を放った。


「悪魔は取引など守りません。特に私のような、残酷な悪魔はね」


 細剣の血を振り払った後で、男はそれを優雅に左腰の鞘へと収める。

 そして困ったような表情を浮かべ――――


「にしても、あの方が内通者ですか。まったく……“彼”もショックを受けるでしょうな」


 男はビシっと背を正し、自慢の髭を弄りながらそう呟いた。






矛盾を無くすためにストックを増やしたいのと、

その他諸々の理由により、一ヶ月ほど停滞します。

しかし、エタ―は死ぬまでするつもり無いので、生温かい目で見て戴ければ幸いです。

勝手な作者で、誠に申し訳ありません。 m(_ _)m

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