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メシマズ異世界の食糧改革~神の舌を持つ俺は、魔王の姫に拾われる~  作者: 空亡
第三章 魔王との誓い

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第40話  「仲の良い 友達できた 稲豊かな」

 


 より強くなる震動に右へ左へ揺さぶられ、またも嫌な感覚が、稲豊の内側で泥水の如く湧いてくる。「このままじゃダメだ」先程の再現だけは避けようと、稲豊はオークの御者へと言葉を掛ける。少しでも気が紛れたら良いと、そう思ったのだ。



「なぁ? 何で俺の護衛を買って出たんだ? お前にそこまで好かれる要素はなかったと思うんだが?」



 手綱を握ったその背中に言葉を投げ掛けたに関わらず、ターブは目立った反応を見せない。大き目の石を踏む度にガタンと揺れる悪路である、そんな余裕はないのかも知れない。と、稲豊が諦め掛けたその時。聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声が、軋む歯車の音に掻き消される事無く、稲豊の耳へと微かに届いた。



「オメェが助けたガキが俺様を助けた。それだけだ」



 微かであるにも関わらず、はっきりと理解できたその言葉に、「そうか」と稲豊は短く呟く。気を紛らわせるまでには至らなかったが、そのやり取りに満足した稲豊が、それ以上ターブと会話をする事はなかった。


 谷に浸入して三十分が経過したが、景色は全く変わらない。同様な岩肌と悪路が延々と続き、それらしき植物が見つかる気配はまるでない。早く見つかって欲しいという稲豊の願いも虚しく、猪車は慈悲無く進み続ける。



 その間、稲豊の気休めは様々な様相を見せた。



「ああ~放浪の迷子~」



 歌を口ずさんでみたり――――。



「ポゥ!!」



 踊りを踊ってみたり――――。



「吐き気来て 覇気が遠のく オロロロロ」



 五、七、五の句を詠んでみたり。



 その度にターブから奇異の視線を向けられた稲豊であったが、全く意に介さずに、次は記憶巡りの旅に出る……。それはこの世界に来る前の自分から始まり、この異世界で起きた様々な経験イベントを経由し、今朝の主の姿に辿り着く。



『その代わりシモンの身だけは守れ。もしそれが守られなかったら、次は貴様の腹でなく胸に穴を開ける。肝に銘じろ』



 その言葉が蜘蛛の糸の様に、稲豊の記憶回路に絡みついて離れない。

 主として自らの従僕じゅうぼくの身を案じた…………。ただそれだけには、どうしても思う事が出来なかったのだ。稲豊はその言葉に、ある種の強い意志を感じられた。そこに込められた感情までは読み取る事が出来なかったが、それが負の感情から来たモノでない事だけは確かであった。



「フッ……罪作りな男だぜ!」



 にやけ顔で都合の良い想像をする稲豊であったが、本気でルトが自分に好意を寄せている……、何て大それた事は考えていない。今のこの状況を乗り切る為に、普段の彼より現実逃避が加速しているだけに過ぎないのである。現実逃避という名の暴走列車は、妄想燃料を次々と焚べられ、留まる事無くその速度を上げて行く――――。



:::::::::::::::::::::::::::



 歩みを止めた、稲豊の乗車する赤旗の猪車。

 顔色の悪い少年が気掛かりだったレフトは、その内部を覗き込み、悲鳴に近い声を上げた。それもそのはず、その少年は自身の鞄に接吻を何度も交わしつつ、意味不明な言葉を延々と呟いていたのだから……。どう贔屓目に見ても正常な人間の状態ではない。


 

「――イナホ様! だ、大丈夫ですか!?」



 レフトに揺さぶられた刺激により、数十秒の時間を要し覚醒を開始する稲豊の脳。

 眼前に控える先刻までの稲豊にも勝るとも劣らない顔色の青年を見て、少年は頭を掻きながらも、ようやく現状を認識する。



「あれ? 猪車止まってます?」


「え、ええ。猪を休ませる為に小休止中ですが……健在ですか? イナホ様?」


「はい。列車は無事終着駅に到着しました」


「ええ~……!? 何を仰っているのか理解出来ないんですけど!?」



 妄想の効果は絶大で、アレだけの悪路にも関わらず、酔いという名の悪魔を退けるだけの力を発揮した。狼狽するレフトを余所に、稲豊は荷台から飛び降り、現状の把握に務める。先ずは周囲を見渡し、現在いる場所をその目で確認する。



「……なんすかコレ?」



 稲豊が怪訝な顔でそう漏らしたのは、調査隊正面の岩壁に聳え開く、幾つもの裂目群さけめぐんを目の当たりにしたからである。恐る恐る裂目の道の一つを覗くと、遠くの突き当りで道が二つに分かれている事が伺い知れる。他の裂目も幾つか確認するが、どれも同様に道が分かれていた。


 呆ける稲豊の横に並んだレフトは、真剣な表情でアリスの谷……。

 その由来を語る。


 

「アリスの谷。昔この谷はその特異な形状から、“蟻塚ありづかの谷”と呼ばれていたのですが……。その後“ありの谷”と名前を変え、更に語呂が悪いと言う事で、現在いまの“蟻巣アリスの谷”に変わったのですよ。入り口は一つなのですが、此処から先の道は蟻の巣状に枝分かれしています。自然の造りし天然の迷路ですね」


「蟻巣の谷ッスか。って事は此処からが――――」


「――――本番と言う訳ですね。コレより先は手分けして探索する事になります。皆で取れる休憩はコレが最後になるかも知れません。イナホ様も彼らの様に、今の内に体を休めておいて下さい」



 レフトの指し示す右手の先には、狭い一本道ばかりだった谷に突如現れた広場。その中で思い思いの形で休憩を取る、調査隊の面々の姿があった。駐留する隊員達の中には、コレからの過酷な道程に備え、食事で魔素を補給する者の姿も少なくない。



「そうだ!」



 その姿を見た稲豊は、何かを思い出したような声を上げる。

 そして先程までいた猪車内に華麗な飛び込みを決め、荷台の隅に固定していた“ソレ”を取り出し、怪しげな笑みと共に独り言を呟く。



「今が絶好の時と見た」



 付いて来ていたレフトは、怪しげな笑みを浮かべる稲豊の姿に危惧の念が伴わざるを得ない。眉をへの字にする彼の隣に降り立った稲豊に、「なんですか?」と、恐る恐る疑問の声を送る。レフトが気になったのは、稲豊が愛おしそうに抱える巨大な黒箱。初めて見るその箱は麻紐で何重にも巻かれ、何かが封印されている様に見えなくもない。稲豊は地面に置いた重箱の麻紐を、鼻歌混じりに解きながら青年の疑問に答える。



「コレは“お弁当”です。早起きして作ってきました!」


「なるほど。それにしても大きな行動食ですねぇ」



 快活に答えた稲豊の様子に、安堵し納得の表情を浮かべるレフト。

 自らの携行食を用意して来たレフトと共に、稲豊は広場中央の平らな石に、二人並んで腰掛ける。大き目の石なので、重箱を置くスペースも十二分にある。稲豊が意気揚々と広げる五つに分かれた黒箱は、周囲の隊員の注意を引くには、充分過ぎるほどの存在感を放っていた。



「いただきます!」


「魔王様の与え給うた糧に感謝致します――」



 それぞれが食事開始の言葉を述べ。

 稲豊は箸で、レフトはフォークで料理に手を付ける。稲豊が食べるのは重箱の中の肉野菜炒め。レフトが口にするのはスライスしたタル芋。両者の料理グレードの差に、稲豊は堪らず自らの料理をレフトに差し出す。



「張り切って大量に作っちゃったんで処理して下さい」


「イナホ様……! ええ、喜んで!! やはりイナホ様は、小官の見込んだお方です!!」


大袈裟オーバーなのも慣れちゃいましたよ」



 歳の近い二人は何処か友達の様にも見える。

 いや、確かに二人は互いに友情を感じていたに違いない。出なければ、コレから更に苛烈さを極める調査の前で、満面の笑みを浮かべる筈など有り得ないのだから。


 そんな折、ぶつけられる視線を肌で感じ取った稲豊は、その気配の方向へ両眼を動かす。


 人間と視線がぶつかった事により、目を逸らす白ローブのコボルド達。その視線の意味を理解していた稲豊は、遠巻きに見ていた二人のコボルドの前に、重箱の一つを差し出す。狼狽するコボルド達に、稲豊は無垢な笑顔で自らの行動の意味を説明する。

 


「さっき治癒魔法で世話になったんでお礼です。皆さんで食って下さい」


「えっ?…………あ、ああ……」



 取り敢えず受け取った医療班のコボルド隊だが。

 稲豊がレフトの隣に戻った後も、なかなか重箱の料理に手を付けようとしない。「人間の作った物だぞ?」何て言葉さえ聞こえてくる。


 だが、稲豊には自身の料理が、彼らの持参する携帯食よりも旨いという自信がある。それが証拠にコボルド達は、肉野菜炒めに対して興味あり気な視線を送っていたのだから……。後は一歩踏み込ませるだけだが、その一歩が滅法遠い。ヤキモキする稲豊の様子を隣で見ていたレフトは、何を思ったのか、行き成り立ち上がると、いつもの一人演劇を披露する。



「ああ~! 流石は王女様の舌が認めた料理人、シモン・イナホ様!! 伝説の食材ヒャクを用いた肉野菜炒め!! 小官の舌を隈無く蹂躙する暴力的な迄に甘美なその味わい! 野菜はシャキシャキと新鮮な食感を歯へと伝え、肉は力を込めずとも噛み切れる程の柔らかさを顎へと伝える!! そして疲れた体にピリリと響く刺激的な調味料!! 完成された食のオーケストラに贈る言葉はただ一言――――絶品です!!」



 その言葉を聞いたコボルド達は、喉を鳴らすと同時に手元の料理に視線を落とし、辛抱たまらんと手を伸ばす。肉野菜炒めを咀嚼した彼らの第一声は、およそ稲豊の予想していたモノだった。



「う、旨い!! 何だコレは!?」


「一度食ったヒャクとは全然違う味だけど……こいつぁ旨い!!」


「毒は入ってないんだよな? だ、だったら喰わせてくれ!!」



 コボルド達の反応に満足したレフトは、元いた所に腰を下ろし、稲豊だけに見える様に親指を立てる。その仕草に胸の奥が熱くなった稲豊だが、それを皮肉な言葉に隠してしまう。



一人演劇それ。役に立つ所、初めて見ました」


「ふふ。ここならルト様の魔法も、ミアキス様の鞘も飛んで来ませんので」



 そんなやり取りがなんだか可笑しくなり、声を出して笑う稲豊とレフト。

 しかし、そこでレフトにとって予想外の事態が起きる。一人演劇が想像以上に効果を上げ、残った重箱の周りに他の隊員が集ってしまったのだ。物言わず、物欲し気な視線を送る隊員達に、動揺を隠せないレフトだったが、並ぶ稲豊は全く動じていない。それどころか、「皆さんも食べます?」なんて告げる程の余裕っぷりだ。



「じゃ、じゃあ!!」


「俺も貰うぜ!!」


「俺もだ!!」



 多種多様な腕が、次々と重箱達に伸びていく。

 そして瞬く間に、稲豊の手元以外の重箱は空箱へと変貌を遂げる。その様子に、自分のせいだと申し訳なさそうな表情を浮かべるレフト。しかし、そんな事態にも関わらず。稲豊は『計画通り』とでも言いた気な、嫌な笑みを浮かべていた。



「良いんですよレフトさん。元々調査隊の皆さんに振る舞う為に、多目に作って来たんッスから」


「そうだったのですか。小官は安心致しました!」



 食事を終えたレフトは、空となった重箱を誰に言われるでもなく回収する。

 その丁寧な姿を見ていた稲豊は、「しかし」と前置きした後に、終始感じていた違和感をレフトへ問い掛ける。



「レフトさん以外の全員、メシを手で食ってたっスね。何というか、体育会系の部隊っていうか……」


「小官のイメージとは合いませんか?」



 稲豊の聞きたかった問いに、レフトは言葉よりも先に到達する。

 そして「実は……」という言葉と共にため息を零し、数瞬の時間を置いた後にその先を語った。



「目の前の部隊は、『魔王国第三調査隊』。小官がふだん担当している隊は『第二調査隊』。訳あっていつもとは違う部隊を率いておるのですよ。本来の小官の部隊は文学系。ここまでがさつ……失礼。大らかな隊に指示を飛ばすのは初めての経験でして、いやはや」


「ああ~。道理(どうり)で……」



 タハハと情けない顔を披露するレフトに、明るい雰囲気を壊してしまって、少しの罪悪感に囚われてしまう稲豊。元の雰囲気に戻す為に思案する稲豊は、話題も元に戻す事とする。



「実は重箱の料理を皆に振る舞うのは、俺の作戦でもあるんッスよ!」



 悪戯っ子の様な笑みを浮かべ語る稲豊に、レフトは「作戦?」と、予想通りな反応で食い付いてくる。そして、何処かで見たメイド少女の様に胸を張り、得意気な表情で作戦内容を丁寧に説明する。



「こうして色んな人達にヒャクと俺の認知度を上げていけば、コレから先色々な交渉に使えるじゃないスか? 口コミってのは、結構馬鹿に出来ないモンですからね。そしてそれが周り回って恩人への貢献にも繋がる訳です。余った料理も消費出来て、宣伝も出来て、調査の成功率も上がる。正に一隻三鳥の完璧な作戦! 我ながら惚れ惚れしますね!」


「なんと!? そんな意図があったとは……。では小官その作戦にまんまと乗せられ、ヒャクの宣伝をしてしまったという訳ですね? コレは一本取られました!! イナホ様は商人の才能がありますね!」



 ワザとらしく明るく振る舞う稲豊の態度に、レフトはそれを知りつつも便乗する。



「レフトさん! さっきの演説良かったッスよ! ヒャクの宣伝隊長やってみません?」


「大臣補佐官なんかよりずっと面白そうですね! 二人でヒャク料理の屋台でも開きますか? 呼び込みなら小官に任せて下さい!」


「ハハ! 良いッスねソレ! そん時は是非!」



 もう一つの作戦も成功に導き、レフトに笑顔を取り戻した稲豊。

 友情を深め合うそんな二人の様子を、遠くから眺めていた影は、ポツリ一言。

 こんな独り言を漏らした。




「シモン・イナホ? あー思い出した――――“マリお嬢”の言ってた奴か」

マリオ嬢ではありません。

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