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メシマズ異世界の食糧改革  作者: 空亡
第三章 魔王との誓い

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第37話  「通い妻みたいだな・・・・・・俺」


 荷物を全部降ろした後。

 それぞれの猪車を、近くの木に紐で結び始める稲豊とレフト。

 その最中、レフトは困惑の表情で稲豊に幾つもの疑問を投げ掛けた。



「ココって……“惑乱の森”ですよね? 王都の者達は誰も近付かない魔境ですよ? ヒャクを都合できない理由がこの場所にあるんですか?」


「まぁそういう事です。説明するのに俺よりも適任がいるので、ソイツに丸投げしますけどね」



 ――そう。ここは惑乱の森。“魔物側の入り口”である。

 「ソイツ?」と怪訝な表情を浮かべるレフトだが、森の入り口でミアキスが指笛を吹き始めると、その行動の理解不能さに、更に顔は険しいものとなる。紐を結び終えた二人が森の入り口に近づいた時。不意にレフトの落ち着きが無くなった。その様子に違和感を覚えた稲豊は、「どうしたんですか?」と、心配の言葉を掛ける。



「え~とですね……。小官の持つ“エルフの魔能”は、自然界に住む精霊達の声を聞く事が出来るというモノなのですが。どうも先程から風の精霊達が騒々しい。どうやら森の入り口の方角より、何かがこちらへ向かって来ているようです。イナホ様! 着いたばかりですが、一刻も早くここを離れた方が宜しいかと!!」


「そんな魔能もあるんですか? 便利ですね」



 ――――魔能まのう

 魔物が持つ特別な能力の事で、魔素を消費するものとしないものとに分けられる。

 遺伝により先天的に身に付けている者が殆どだが、稀に何かの要因により後天的に身に付く場合もある。種族による違いが顕著に現れる。



 約二ヶ月、余った時間を有効利用した結果。簡単な本なら読めるくらいに成長していた稲豊。上の文は、彼が暇を持て余していた際、屋敷の書斎で見つけた『魔物の生態』と名付けられた子供向けの本に記されていた一文である。ナナの糸を紡ぐのは魔素を消費する魔能だが、レフトの魔能はどうなのだろう? ふと稲豊の頭に疑問が浮かび、なんとは無しにレフトに尋ねる。



「レフトの魔能は魔素を消費しないってこと?」


「しませんよ? ――――って、小官の話を聞いてました!? 危険が危ないって説明してるのに! 貴方達はそんなに落ち着いて――ああ!? 早い! もうそこまで来てます!!」



 涙目になりながら抗議するレフトだが、稲豊とミアキスの二人が動く気が無いと察するや否や、猪車の後ろに隠れてしまう。それとほぼ同時に、彼の怯える来訪者は、天空より来たりて皆の前に顕現する。そして唸った様な低い声で、稲豊に話し掛けた。



「今回はキタン豆と野菜の煮物、炒めたタル芋か。――――肉は無いのだな」


「時間が時間だから用意できなかったわ。その代わり、お茶請けを持ってきたから勘弁してくんさい」


「三つの小さな…………串に刺さった卵か?」



 空から舞い降りた翼竜と、自然に会話を交わす稲豊。


 その姿を隠れて見ていたレフトは、いつも良く動く口をあんぐりと開けたままで硬直する。その視線をミアキスの方へ動かすと、彼女も別段動じてはいない。恐る恐る体を竜の前に晒すレフトに、ネブは鋭い眼光を向けて「何者だ?」と言い放つ。二つの紅玉に射抜かれた華奢な青年は、軽い悲鳴を上げて後退る。威嚇する竜の腹部をぽんぽんと二度叩いた稲豊は、青年が味方である事を説明した。



「魔王国大臣補佐官のレフト・ローレイさん。ちょっと胡散臭い所あるけど敵じゃねぇよ」


「胡散臭い!? 止めて下さいよ!! イナホ様の言葉に小官の命が掛かってるんですよ!」


「だってネブが来た途端一人で逃げたじゃないッスか。昨日の夜は『自分よりもイナホ様の方が必要!』とかなんとか言っていたのに」

 

「恐怖の前ではそんな話は無意味なのです!」



 二人のやり取りを静かに眺めていたネブは、レフトに敵意が無い事を知ると、持ち上げていた首を下げてその警戒を解く。ミアキスはそんな事には我関せず。持参してきた料理を、森に隠していたネブ専用の巨大皿に盛り付けていく。未だ納得の行かないレフトは、大量の料理を平らげていく翼竜を横目に、稲豊に説明を要求する。



「イナホ様! 一体全体この野良飛竜と、どういった経緯で知り合ったのですか? 普通に生きてて出会う魔物ではありませんが……」


「ネブとはこの森で知り合ったんですよ。ヒャクを守ってたネブに襲われたんですけど、契約結んでからはこうして週二回食べ物持って来てます。やっぱり野良竜ってあんまりいないんすか?」


「複雑な事になってますねぇ。勿論少ないです。個体数の少なさも然ることながら、大体の竜は生き残る為に魔族へと転身しました。他の竜は人に狩られたり…………中にはそう。食べられた竜もいます。飛竜の肉は伝説の食材とも呼ばれる程、美味との事なので」



 飛竜が美味いという情報を聞いた稲豊は、自然とネブに視線を這わせる。その嫌な視線に気付いた飛竜は、眉を顰めながら食事のペースを上げた。もちろん稲豊に『ネブを食べよう』なんて考えは微塵もない。この二ヶ月間幾度も森に足を運び、お喋りな竜とは何度も他愛無い会話に興じた。甘い考えかも知れないが、稲豊にはもう、ネブを敵視する事は出来そうもなかった。


 稲豊とレフトの話が区切りを迎えたと同時に、ネブの食事も終わりを迎えた。

 それを確認した稲豊は、いつもの顔触れとは違う理由について、竜に説明を始めると共に説明を求める。



「んで。レフトの目的がヒャクの量産なんだけど、その件に関してネブの方から説明を頼むよ。その方が信憑性高いから」


「了承した」


「やはり“ソイツ”というのは彼なのですね……」



 ――――翼竜はレフトに語る。


 今から一月程前……つまりは稲豊達の惑乱の森騒動から約一月後にその事件は起きた。またも大挙したエデンの工作隊により、今度は紫水晶が奪われてしまったのだ。ヒャクの樹だけ守っていたネブにとっては寝耳に水で、為す術も無くその殆どが奪取されてしまった。人間達が去った後……。森の中は危険だという稲豊の意見により、残った小さな紫水晶は非人街へと移された。今現在惑乱の森内の紫水晶は、ネブの寝所である森奥の聖域にしか存在しない。紫水晶が無ければヒャクの量産は不可能なのだ。


 それを聞いたレフトはガックリと肩を落とす。

 稲豊も竜も、嘘をついてるようには全く見えないからだ。しばらく落ち込んでいたレフトだったが、やがて意を決したように立ち上がる。そして、ため息を吐きつつも力強い意志の籠もった声で「よしっ!」と、皆に聞こえる声で気合を自らに注入する。



「では……もう一つの方に賭ける事とします!」



 何処か覚悟を決めた瞳で、稲豊に物凄い勢いで詰め寄るレフト。その鼻息は荒く、頬も少し上気している。戸惑う稲豊の両手を掴み、レフトはマシンガンの如く言葉を連射する。



「任務を潰された我が絶望! イナホ様が目の前にいる我が僥倖! こうなってしまっては最早これまで。“最後の希望”に託すよりありません。そう! 奇跡を起こす料理人。シモン・イナホ様!! 貴方様には是非是非小官にも奇跡をもたらして頂きたい! 貴方様のお力添えがあるなれば! 必ずや奇跡は起こせるでしょう! さあさあイナホ様!! さあさあさ――――アブッ!?」



 詰め寄るレフトの頭部に、ミアキスの片手剣の鞘が振り下ろされる。

 力を抜いてるとはいえ、怪力のミアキスの一撃。頭を押さえる緑の青年は、数十秒悶えた後に立ち上がり、困惑の表情で「なぜ?」と、コブを作り出した張本人に抗議の視線を送った。



「姫様よりレフト殿が暴走した際には、止める様に仰せつかっています」



 簡素に応えるミアキスにため息を零すレフト。

 そこに近寄った稲豊は、先程の言葉の真意を彼に尋ねる。



「さっきの力を貸して欲しいってどういう事ッスか? ものによっては聞けない話ではないと思うんですけど――――」


「誠ですか!?」



 そこまで聞いた青年は痛みも忘れて顔を明るくする。

 またも詰め寄ろうとするレフトに、稲豊は前に右手を突き出し「要点だけ話して下さい」と、釘を差す。釘を差されたにもかかわらず喜色満面の笑みを浮かべるレフトは、皆にも理解出来るように一から説明を始める。



「実はですね。今兵士達の間で、ヒャクではないある食材が話題になっているのです」


「何だソレは?」



 食材という単語が出た事で、ネブもその会話に加わる。

 レフトは少し頬を引き攣らせた後で、気を取り直し話を先に進めた。



「噂ではそれを水に混ぜ、煮立たせるだけで極上のスープが出来上がるという。そんな神の如き植物が、モンペルガの北東。此処からなら北になりますね、そこの谷に生えているそうです。なんでも険しい場所にあり、手に入れるのも苦労する植物だとか」


「マジっすか!? スープが!!」


「少年。ヤケに食いつきが良いな?」



 ミアキスがそう聞いてしまうぐらいに、今の稲豊は興奮していた。何故なら旨い出汁の出る食材は、彼にとっても喉から手が出るほど欲っしていた物だったからだ。


 今まで試してきた食材達は、漏れ無く美味しい出汁など出してはくれない。

 不味い味が湯の全体に広がるのみである。昨晩の鍋料理等に野菜や肉なんかも入れてはいるが、それは出汁を期待して投入している訳ではない。ヒャクで苦味等を取った食材達を、あくまで“稲豊が食べられるように”調理しているだけに過ぎないのだ。


 食材達が本来持つ少量の魔素。それを補給すると同時に、食感や喉越しで美味しいと感じる。それが舌の肥えた稲豊特有の魔素補給方法なのである。他の者達が旨いと感じる味でも、稲豊はそうは思わない。いつかこの世界の味に慣れて欲しいと稲豊は願うが、それが訪れる気配は一向に来ない。


 しかし、そこに稲豊でも旨いと言える出汁を生む食材が手に入れば……、それは革命に他ならない。ありとあらゆる料理に応用が利く上に、一度に多くの量を作る事も可能となる。スープで伸び悩んでいた稲豊にとっては、正に願ったり叶ったりな食材であった。

 


「一週間後に調査隊を派遣したいと思います。そこで、イナホ様には味の鑑定人として同行願いたいのですよ!! ヒャクを見つけ出したその功績。イナホ様こそ適任であります!!」



 ヒャクを見つけたのは非人街出身の人間なので、純粋な意味では発見者は違うのだが……。稲豊にとっても魅力的なレフトの要望。断る理由が無かった。稲豊は口角を上げ、真っ直ぐな瞳でレフトの思いに応える。



「こちら側からお願いしたいぐらいです! レフト!!」


「貴方様ならそう仰って下さると思いましたよ! イナホ様!!」



 稲豊とレフトの二人は手と手をガッシリと握り合う。

 熱い眼差しを向けてくるレフトに対し、稲豊は手を合わせたままで、力の籠もった声を掛けた。




「ルト様が許可をくれたらですけど!!」




 こんな時でもヘタレな稲豊であった…………。

芋もどき=タル芋

名前が判明しましたが、作者は芋もどきを押します。


現在この章を修正中。

いろいろな違和感にご注意ください。

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