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メシマズ異世界の食糧改革  作者: 空亡
第三章 魔王との誓い

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第32話  「昨日の敵は今日の護衛」

 

「ここはいつ来てもすげぇ人集(ひとだか)り、いや魔物集りだなぁ」


「ああ、壮観だな」


 賑わいを見せる王都の市場にやってきた稲豊と護衛のミアキス。

 訪れた目的は、その市場の中でも端の方に追いやられた、こじんまりとした屋台にある。


 驚くべきことに、その店先に立っているのは人間の男だった。

――――――そう、非人街のパイロ。その人である。


「よおパイロ! もうかりまっか?」


「…………ぼちぼち、ってところかな」


 稲豊が声をかけると、パイロが不機嫌そうな顔で言った。

 閑古鳥が鳴いている様子を見れば、その態度にも納得がいく。やはり人間のやる商売は、ここモンペルガでは簡単なものではないのだ。


 それをまざまざと見せつけられた稲豊は、苦笑しつつ屋台に近寄った。

 するとパイロが、返すような形で皮肉を口にする。

 

「子沢山の父親かお前は」


「……これは仕方がないんだ」


 パイロがそんな感想を持ったのも至極当然。

 なぜなら稲豊とミアキスは十数人の子供たちに囲まれ、賑やかな一団になってしまっている。まるで小学校の引率教師だ。膨れる子供達を納得させる為に親達の許可を得て、間者活動の一環として市場見学に連れてきたのである。


「で……これがいつものヒャクの実と、ヒャク団子な」


「おお! 悪いな!」


 これがパイロの屋台の主な売り物。ヒャクの果実と、それを使った簡単な料理である。非人街で栽培に成功したヒャクをこの市場で販売しているのだが、強気な値段も相まって、長寿の果実はいまだ全体の一割ほどしか売れていない。


 アドバーンのはからいで屋台の許可を出してもらった手前、パイロの表情は渋くなるばかりだった。


「では、遠慮なく」


 ミアキスがヒャクの果実の入った大袋を、軽々と方に担いだ。


 一週間に一度、非人街で収穫したヒャクを仕入れるのが、料理長・稲豊としての仕事のひとつでもある。稲豊は代金を支払うと申し出たのだが、オサとパイロは頑として受け取らなかった。仕方無いのでイナホプロデュースの試作料理を店に提供し、その利益を稲豊は受け取らない。奇妙な押し付け合いをする関係に終着した。


「さ~~て…………と」


 稲豊の視界の中心には両手を腰に当てるパイロ。そこからつつと視線をずらすと、彼の背後の屋台の影に、仏頂面で立つ魔物の姿が映り込む。「声を掛けてやろう」と子供たちをパイロとミアキスに託し、からかい半分で稲豊はひとり近づいていく。


「……なんだよ」


 仏頂面の魔物は太く毛深い腕を組み、心の底から不快そうに言い放つ。

 その理由は近付いたのが稲豊だったからなのだが、それを知らんぷりして稲豊は飄々(ひょうひょう)と話しかけた。


「護衛の仕事お疲れ! ターブちゃんご機嫌いかが?」


「…………チッ! うるせえ」


 そう、非人街でちょっかいを出していたあのオークである。

 それがいまや、パイロの店の用心棒に落ち着いている。市場に屋台を出そうという話が出たとき、「パイロひとり、魔物だらけの場所で店を開くのは危険だ!」ということになり、護衛の募集を出した。名乗りを挙げたのが、まさかのターブだったのである。


 最初は非人街の住人も警戒していたのだが、真面目に任務を全うしている姿を見て、そんなわだかまりも次第に消滅した。


「あんなに人間嫌いだった子が…………立派になって!!」


「てめえはいつから俺様の親になったんだ……」


 ヨヨヨと泣き真似する稲豊に、殴る仕草で詰め寄るターブ。

 命のやり取りを繰り広げた、ふたりの相性はあまり良くない。しかしそんな暴れん坊なターブでも、頭の上がらない人物がいる。


「ターブちゃん」


「うっ!?」


 どこからともなく聞こえた声に、名前を呼ばれた本人はびくりと跳ねる。彼の天敵でもある声の主は、背後からゆっくりと近づき、更なる戒めの言葉を発した。


「イナホを叩いちゃ――――ダメ」


「…………チッ! 冗談だよ」


 舌打ちのあと、すねて建物の影に隠れたターブを横切り、声の主は稲豊と会話できる距離まで近づく。稲豊は右腕を伸ばしてその小さな頭を撫で、称賛の声を送った。


「ようタルト! その服、似合ってるじゃないか!」


「ん…………ありがと」


 稲豊が非人街で初めて出会い、助けられた少女。

 あの事件以来、口数も増え、稲豊との会話も成立するようになっていた。


 いまは以前までの見窄(みすぼ)らしい姿とは似ても似つかぬ、上質なメイド用の衣服に身を包んでいる。あの頃とは違い、現在は上級魔族の屋敷で使用人をやっている……というのは、稲豊が眼の前にいるターブから聞いた話である。ターブの話によると『パイロの店を手伝っている際にスカウトされた』ということだった。


「仕事辛くないか?」


 まだ幼い少女が社会の荒波に揉まれることを危惧し、稲豊は慈愛を込めた視線を向ける。その意図に気づいた聡明な少女は首を振り、「大丈夫」と一言だけ稲豊に告げた。そんなふたりの存在に気づいた非人街の小さな仲間たちが、喜色満面で駆けて来る。


「タルトちゃん!? お仕事中なの!」


「うん…………買い物中」


「スゲー!? かっくイイ!!」


 非人街で一番の出世頭は、子供たちの間では英雄ヒーローの様な扱いである。

 あっという間に取り囲まれ、タルトの姿は見えなくなった。


 子供ひとりで買い物……しかも人間。


 「危険だ!」と不安に戸惑う者もいるかも知れないが、この王都ではその式は成り立たない。上等な使用人の装いをしている者は、その殆どが上級魔族の元で使役しているからだ。この場所で上級魔族の持ち物に手を出すということは、万死に値する。下手な魔物よりも、よほど位は上なのだ。


「私たち間者ごっこ中なの!」


「…………間者ごっこ?」


「まずね、重要な時だけ話す暗号があってね? 逆さ言葉を――――」


 早速スフレが英雄タルトを仲間に入れようと遊びの内容を話している。

 無邪気なその姿に癒されている稲豊のとなりに、人影がひとつ並んだ。パイロだった。ふたりでしばらく子供たちを眺めていたが、パイロは何かを思い出したように口を開く。


「そういえばイナホ、お前を探してる奴がいたぞ」


「ん~? またタッパー泥棒でも出たのか?」


 稲豊が言っているのは、パイロがタッパーを預けた謎の少女のことだ。


 非人街に現れ、『稲豊に返す』と言ってその透明の容器をパイロから預かった赤髪の少女。少女が同じ容器を持っていたことから、自信作弐号の拾い主には違いないのだが、いまだ稲豊の下にその少女は現れていない。


「いや、そういうんじゃない。兵士っぽい格好の奴が、『ヒャクを見つけた奴に会いたい』ってココに来たんだよ」


「マジで? もしかして採っちゃダメなやつだった的な?」


 稲豊の脳内に、(はりつけ)にされた自身の姿が浮かぶ。

『知らなかったで通せるだろうか?』『最悪の場合はルートミリアの名を出そう』。そんな姑息な考えを巡らす稲豊を見て、パイロは呆れたように(かぶり)を振った。


「そんな風には見えなかったな。頼みたいことがあるとかなんとか……。まぁ、少し調べりゃ分かることだ。その内お前に接触してくるかもな」


「ふ~ん? 良く分かんないから……そのときになったら考えるか」


 一刻を争う案件でも無さそうなので、記憶の空いてる部分に放り込んでおく。それとは違い、一刻を争う自身の職務を思い出した稲豊は、手を叩いて子供たちを注目させた。


「それでは部下の諸君! 市場の調査任務も無事成功を果たした! これより本部に帰還する!」


「は~い!」


「タルトちゃんまたね~!」


 市場までの遠足で満足した子供たちは、素直に稲豊の言葉に従う。

 しかし猪車に積み込む荷物がある稲豊は、非人街の子供たちをミアキスに任せ、自身は手伝いを申し出たパイロと共に猪車舎を目指すことにした。



「やっぱり――――重ぇぇぇ!」



 ヒャクの実が数十入った袋は、大きくて重い。

 稲豊は無理やり肩に担いだが、目的地までの道のりを考えるだけで、足取りも重くなる。パイロも誰かを助ける余裕はなさそうだった。


 そんなふたりの様子を見ていたタルトが、傍観していたターブに声をかける。


「ターブちゃん…………手伝ってあげて?」


「なんで俺様が人間なんかを」


「…………お願い」


「チッ! 手伝えば良いんだろ手伝えば‼️」


 稲豊が顔を赤くしながら運ぶヒャクの大袋を、ターブは軽々と肩に担ぎ上げる。次にパイロの分も同様に肩に乗せるが、ターブの表情はいつもと変わらない。稲豊は感心しつつヒャク団子を袋から取り出すと、それをタルトに差し出した。


「優しいタルトには団子を贈呈しよう! 子供にも食べやすく配慮した試作品だぞ」


「…………わ~い」


「いや頑張ってるのは俺様なんだが!? 報酬の行方がおかしいだろ!!」


 団子を貰い喜ぶタルトのとなりで、ターブが鼻を鳴らす。「冗談だって」と、報酬を支払う契約を結んだのち、稲豊らはタルトに別れを告げ広場をあとにする。


 猪舎に預けていたマルーを、管理人に銅貨三枚を手渡しし道路に移動させてもらう。ナナ用に作られた両開きのドアから、ヒャクの入った大袋をふたつ入れた。


「ふっ、俺を助けるとは大した奴だ。感謝のヒャクの実を受け取るがよい」


「ナニモンなんだよだテメーは」


 ターブに報酬としてヒャクの果実を渡したところで、ちょうど子供を送り届けたミアキスと合流する。パイロとターブに簡単な別れを告げ、稲豊とミアキスは屋敷への帰途についた。


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[気になる点] 普通に考えて差別されている人間が屋台なんて絶対無理でしょ、最初の設定どうなってるの?
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