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メシマズ異世界の食糧改革  作者: 空亡
第三章 魔王との誓い

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第30話  「もうそれ魔法使いじゃない」

「まあそう気を落とすな。魔法が全く使えん訳でもないのじゃ」


「そっちも傷付きましたけど……トドメは人格否定である事を忘れないで頂きたい」



 何とか起き上がるまで回復した稲豊に、ルトが慰めの言葉を掛けてくる。立ち上がれたのは彼女が「性格的な意味ではない」と言ってくれたからであるが、刻まれたダメージはまだまだ深い。産まれたての子鹿の様に震える彼に、ルトはまたも同情を込めた視線を向けその言葉の真意を話す。



「魔法の基礎の話になるのじゃが。シモン……お前は“生門”と“死門”について知っておるか?」


「せいもん? しもん?」



 稲豊は記憶を辿るが、それに該当するものはヒットしない。

 最近どこかで聞いた気もするが、それがどこであったのかまでは思い出せない。首を捻るその姿に、ルトは無知な彼にでも理解可能なように説明を始める。



「生物の体内には二つの器があるのじゃ。基本的な魔素を満たす生門の器と、高純度な魔素を蓄える死門の器じゃ。生門は生きてるだけで消費され、また食事によって増加、並びに回復させる事が出来る。ふだん魔法を使う分には、生門の器から魔素が取り出されるのだ」


「なるほど」



 稲豊の言葉に頷いたルトはその表情の真剣味を強くし、「ここからが物凄く重要な話じゃ」と釘を刺した。



「そして…………死門。これは生門からではなく、()()()()死門の器から魔素を取り出した場合、術者に最後の輝きを与える器じゃ。ふだんよりも高威力の魔法を使うことが出来る訳じゃが、当然その分の反動も大きくなる」


「反動…………ですか?」


「うむ。死門は一度でも開けば、もう二度と閉じることが出来ぬ。魔素が全身から吹き出し続け、やがて術者を確実に死に至らしめる禁断の果実。偶然、貴様と同じ呼び名で親近感も湧くかもしれんが、死門だけには絶対に手を出してはならぬぞ?」



『少しの使用でも死ぬ』


 ゴクリと息を飲んだ稲豊は、その言葉を何度か頭で反芻し、魔法のリスクを改めて認識する。それと同時に非人街での出来事が脳裏をよぎった。



「前に魔素が尽きたら衰弱死するって聞きましたけど、それは生門の魔素が尽きたからって認識で良いんですか?」


「良い質問じゃの。魔素が全ての活動を止めると衰弱死する訳だが、生門の魔素が尽きても直ぐ死ぬ訳ではないのじゃ。生門に一定の魔素を、一定期間満たす事が出来なかった場合。生物は魔素を求めて無意識の内に死門に手を出してしまう。それが衰弱死の正体じゃ」



 栄養失調による衰弱死みたいなものか。

 そう思考する少年の姿に満足気な笑みを浮かべたルトは、授業を次のステップに進める。



「で、ふだん魔法を使用する際には、むろん生門を使う訳じゃが。これには個体差と種族差があるのじゃ。基本的には……魔獣、人間、魔物、魔族の順に器が大きくなっていく。生門の器が大きければ大きい程、蓄積できる魔素も当然増える訳じゃな」


「えっと、つまり強い魔法を使うには――」


「うむ。以前、貴様には空間魔法を使用出来んと言ったが、特殊な魔法は魔素を大量に消費するモノも少なくない。残念ながら小さい器では、発動条件分の魔素に満たないのだ」


「なるほど……理解しました。それじゃあ、俺にはどんな魔法が使えるんですか?」



 つまりはMPマジックポイントの最大値が5の奴に、10のMPを消費する魔法はそもそも発動すら出来ないと言う事だ。稲豊の最大MPは人であるというだけで、低めに設定されているという事実が告げられた訳だが……、なら逆に自分がどれだけの魔法が使用できるのか気になる。そんな考えでルトに質問した稲豊だったが、その問いを投げ掛けた事を後悔する事となる。



「う、うむ。問題はそこなんじゃが。――――妾の解析魔法は優秀での、その者の器を満たす魔素の限界量も知る事が出来るのだが……何と言ったらよいか……」



 そこでルトは口を閉ざし、とても言い難そうに足を組んだり、意味もなく雲を眺め出す。その顔は「来るべき時が来てしまった」と言ったような、どこか追い詰められた表情に稲豊には見えた。痺れを切らし「話して下さい!」と稲豊が言うと……観念したかのようにルトは衝撃の事実を告げる。



「実はシモン。お前の器………………魔獣以下じゃ」


「はっ?」



 一瞬何を言われたのか理解出来ない稲豊は、埴輪の様な顔でルトを見つめる。

 しかし覚悟を決めた魔法の教師は、少し乱暴な口調で結論を告げた。



「じゃから! お前は色々な魔法を会得し、性能を引き出す才はあるものの! 器が小さいので簡単な魔法すら満足に発動する事が出来ん! そう言っておるのじゃ!」



 ルトの言葉に、全身を滅多打ちにされ吹き飛ぶ稲豊の体。

 何とアンバランスな才能だろう。RPG風に例えれば――全ての魔法を習得出来るが、最大MPが“1”しかない魔法使いと言った感じだ。もはやそれは魔法使いと呼べるのだろうか? 甚だ疑問ではあるが、それが稲豊自身の才能なので『どうしようも無い』。



「…………あんまりだ」



 絶望に打ちひしがれ、体育座りで屋敷の隅に隠れる稲豊。

 その姿に憐れみの視線を向けながら、ルトはやれやれと首を振りつつも慰めの声を掛ける。



「気持ちは分からんが、気を落とすな。魔法が使えん訳でもない。そう言ったはずじゃぞ?」


「――って事は、魔法使えるんすか!? 俺の絶望明けたんすか! やったーー!!」


「まぁ、ろくな魔法は使えん事は変わらん」


「絶望明けてないじゃないすか!! ヤダーーー―!!!」



 駄々を捏ねる稲豊だが、その行為に意味が無い事を知っている。

 少し……、いやかなりショックであったが、深呼吸で落ち着いた後に、彼はルトの言葉に耳を傾ける。



「世の中には極少量の魔素で発動出来る魔法もそれなりにある。基本の五行の魔法は全てそうじゃ。後は治癒魔法なんかもそうじゃな。勿論、込めた魔素の量で効果は増減する。少量の魔素で発動された魔法の効果は、期待出来るほどではないが……。魔法を使う気分ぐらいは味わえるじゃろうの。――覚えてみるか?」


「まぁ、魔法を使うの夢だったんで……気分だけでも味わえるなら。お願いします!」


「よく言うた! では次回から授業料としてヒャクの果汁を所望する」


「褒美って授業一回分!?」



 こうしてルトと稲豊の間で契約が結ばれ。

 ヒャクを対価に授業を継続する事となったのだが…………。



:::::::::::::::::::::::::::



「あれから二ヶ月か」



 記憶巡りの旅を終え、現実世界に戻ってくる稲豊。

 体を起こすと共に頭をリセットし、基礎からやり直す事にする。



「まずは――ロエモ」



 稲豊が人差し指の先に神経を集中し、火をイメージして呪文を唱える。

 すると体の内側から何かが抜け落ちていく感覚と共に、マッチ棒の先ぐらいの拙い炎がゆらゆらと姿を現した。便利なモノで、指先数センチ上で燃えているにも関わらず、熱を全く感じない。魔法とは術者を保護するように出来ているのか? はたまた、術者の魔素で発動されたのでダメージを受けないのか? 稲豊には分からない。



「次はミュール」



 発動した魔法は術者の好きなタイミングで消すことも出来る。

 火魔法ロエモによって生まれた火を消した後、次は湧き出す水を想像し術を発動する。例によって魔素が抜ける感覚と共に、先程と同じ指先から今度はちょろちょろと、蛇口をほんの少しだけ開けた様な水が流れる。



「ヒューガ。サンガ。ケマロ」



 その調子で次々と稲豊が呪文を唱えると、微風が流れ・強めの静電気が走り・地面に掌サイズのコブが出現した。五行の魔法のコツは既に会得し、好きな時に使用する事が出来る訳だが……。如何せんその威力は雀の涙である。発動出来た当初は喜びを爆発させた稲豊であったが、今考えるとこれでは宴会芸の域を出ていない。


 ため息を零す稲豊だが、実は魔法の出力はこれが限界という訳ではない。


 『魔法と言うのは、先ず最初に焚べる魔素を取り出してから使用する』


 ――稲豊はルトの言葉を思い出す。

 その言葉の通り、魔素を用意してから魔法とは発動に至るのだ。故に、その初めに用意する魔素によって、発動した魔法の威力は天地の差が生まれるのである。同じ『ロエモ』という魔法でも、焚べる魔素によっては全く別の魔法にも見えるという訳だ。まあ稲豊が生門の魔素全てを使った所で、マッチ棒の先の火が松明の火に変わるだけなのだが……。



「ぶっ倒れるからやらないけどね」


 

 自身にツッコミを入れる稲豊だが、それは経験者だから言える事だった。

 ルトの魔法指導が始まったばかりの頃は、魔素の使いすぎで倒れる事は珍しくなく、その度に持ってきていた食べ物で魔素を回復させていたのだ。今はようやくある程度コントロール出来るようになり、その自信から特殊魔法にまで手を伸ばしている。



「くっ! 発動出来ない!」



 だが特殊魔法は基礎魔法とは違い、その難易度が跳ね上がる。

 もう二週間は強化魔法の練習をしているが、成功の兆しは一向に現れない。魔素だけを消費し、発動には至らない速度の強化魔法。脱力を感じ倒れる稲豊の傍にルトが歩み寄り「ここまでじゃな」と授業の終了を告げる。



「おす!」


「相変わらず体育会系な返事じゃのぅ。それでは明日も同じ時間にな」



 横になる生徒いなほを残し、教師ルトは屋敷に戻っていく。

 爽やかに髪を揺らす風の心地良さから、しばらく空を眺めていた稲豊だったが……今日やる事はまだまだある。



「うしっ! 行くか!」



 気合と共に起き上がる稲豊。

 その表情からは、充足感が溢れ出ていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 流れるような文体。 センテンスの長さ、セリフと地の文のバランス、表現の工夫、どれも丁度良い。 リズムがよく修飾も過剰にならず、とても読みやすいです。 [気になる点] 一方で変な言葉や漢字の…
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