表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メシマズ異世界の食糧改革  作者: 空亡
第十章 終焉の魔人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

361/364

裏話  【アキサタナ=エンカウント】 前編


 子供の頃、ボクは世辞にも裕福とは言えない家庭で育った。

 食事は家畜の餌とそう変わらなかったし、寝床はもっぱら納屋の中だった。

 

 では、なぜ貧しかったのか。


 その理由は簡単だ。

 一般家庭の主な収入源である父が、ボクにはいなかったからだ。


 母が牧場で家畜たちの世話をしながら、女手一つでボクを育てていた。重労働で、かつ薄給。普通なら、逃げ出してもおかしくないほどの激務だっただろう。


 何度か、母に父の存在を訊ねたことがある。

 しかしいつも決まってはぐらかされた。


『お父さんは立派な人だから、お仕事が忙しくて会いに来れないの。でも仕事が終われば、きっと迎えにきてくれるんだよ』


 物心がつく前のボクはその母の言葉を信じ、顔も分からぬ父がいつか牧場を訪れるのだ……と、毎夜そんな夢を抱きながら床についた。


 そんなうまい話が……と、バカにする奴もいるのかもしれない。

 だがボクが七才になった頃、夢は現実のものとなって姿を現した。


『あのひと……だれだろう?』


 ある日……いつものように母の手伝いをしていたボクは、牧場主と会話する身なりの整った老人を見かけた。老人はボクと目が合うと、まっすぐにこちらへきてこう言った。


『もしや、アキサタナ様ではございませんか?』


 その老人は教えてくれた。

 ボクの父はアート・モーロに住む貴族で、ボクたちを屋敷へ迎え入れるために、自分を使者としてここへ送ったのだと。

 

 当然、ボクと母は泣いて喜んださ。

 苦しかった生活も、すべてはこの日のためだった。

 自分たちは、遂に報われたのだ…………。


 思い返せば、実に滑稽な姿だな。

 だってそれは……ただの空喜びだったのだから。

 

『ふん……なんと見窄(みすぼ)らしい姿か……。こいつらをさっさと風呂に入れろ』


 生まれて初めて聞いた父の言葉。

 ゴミでも見たかのようなその瞳を、いまでもはっきりと覚えている。


 自分たちが歓迎されていないことだけは、幼心に理解できた。


 その夜のことだ。

 ボクが母から聞かされ、すべてを知ったのは。


 母は正妻ではなく、(めかけ)のひとりだった。


 そして父は貴族といっても、いわゆる純血ではなかった。

 商人が金とコネで得た貴族階級。つまりは“成り上がり”だったわけだ。


 しかもその商売の方も、最近は右肩下がり。

 エンカウント家は、没落貴族への道を突き進んでいた。


 ここにきてボクらを屋敷へ招いたのだって、逃げ出した使用人の代わり。

 無料で使える、召使いが欲しかっただけのことだ。


 あわよくば、なにかの役に立てば良い。

 そうだ! 教育を施し、軍にでも入れてコネを作ろうか?

 父の考えは、恐らくそんなところだったのだろう。


 屋敷にきた次の日から、教育係による厳しい鍛錬が始まった。


 (すき)を持っていたボクが、剣を持ち振るう。

 十回、百回、千回。素振りが終われば、魔法の訓練。

 日が暮れるまで、瞑想を続けた。


 そのあとは、休む間もなく座学の時間。

 難解な本を、何冊も何冊も読まされた。


 嫌で仕方がなかったが、口答えは許されない。

 少しでも反抗しようものなら、鞭で体を打たれた。治癒魔法があるからと、時には指の骨が見えるまで叩かれたこともあったな。


 だがそこまで努力を続けたのに、父の機嫌は日を追う事に悪くなっていった。


 ボクには剣も魔法も、勉学でさえ……その才能がなかったからだ。

 二つ上の腹違いの兄の方が、ボクよりもずっと才能に恵まれていた。


 そう、兄。

 父には亡き妻の産んだ子供がいた。

 ボクよりも優秀な、父の自慢の息子。


『なんだ、こんな簡単なこともできないのか?』

『お前など、軍に行っても足を引っ張るだけだな』

『役立たずが』『所詮は妾の子だな』


 優秀な兄は、いつもボクのことを見下していた。

 その度にボクは劣等感に押し潰されるのと同時に、それでもいつかこの努力が報われる日が来るのだ……と、『大きくなれば母と一緒に屋敷を、父の下を去ってやる!』と、決意を高めたものだった。


 だがボクのそんな小さな夢は、ボクが十歳のときに儚く消える。

 

 母が死んだ。


 死因ははっきりとはしなかったが、過労だろうという使用人たちの声を聞いたことがある。


『お母さんに……会っても良いですか?』


『ダメだ!! そんな暇があったら、魔法のひとつでも覚えたらどうだ!!』


 結局ボクは、母の葬式の日でさえ鍛錬を休むことは許されなかった。

 憎んだよ。父も、兄も。


 だからボクは母の墓前で、誓った。復讐の誓いを。


『エンカウント家を……いつか、いつかボクのものにする。そして逆に、あいつらのことを道具のようにこき使ってやる!! お母さんがそうされたみたいに!!』


 その日から、ボクは弱音を吐くのをやめた。

 死に物狂いで努力をしたよ。

 しかし才能というのは不平等なもので、それでも兄に追いつくことはできなかった。


 そんな世の不条理さを嘆いていた、十七才のとき。

 一年に一度、全国民の参加が義務付けされている……器測定の日。

 

 あの日のことは忘れられない。 

 ガーデン・フォール城で、ボクの器を測定した係官が叫んだ。



『こ、これは……!? 天使の器!! 神樹セフィロトに見出されし者の証!!!!』



 ボクの人生に、二度目の転機が訪れる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ