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メシマズ異世界の食糧改革  作者: 空亡
第十章 終焉の魔人

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第331話 「反則結構!」


「皆様……下がってください。あの者の相手は、このわたくしめが務めましょう」


 剣を鞘から引き抜きながら、アドバーンが皆に言った。


「何を申すかアドバーン! 彼奴は所詮ひとり。妾たち全員で戦えば……」


「そうやそうや! ウチらかて、やればできるんや!」


 アドバーンに続き、王女姉妹たちが臨戦態勢をとる。

 一触即発の状況。


 しかし稲豊は、落ち着いた声で皆に言った。


「みんな、少し離れててくれないか?」


「父上!?」


 稲豊の言葉に、皆が驚きの表情を浮かべる。


「あいつと俺の因縁に……ここで決着をつけたい。だからみんなは、手を出さないでくれないか?」


「で、でもシモンくん……相手はアレでもエデンの天使なんだよ!? いまの魔法だって、もし直撃してたらどうなってたか! かないっこないよ!!」


「大丈夫、俺にひとつ考えがあるんだ。いまだから、いや……いましかできないから。だから……信じて欲しい」


 稲豊の覚悟を決めた顔を見てしまったら、皆はもう何も言い返すことができなかった。


「アドバーンさん、みんなとマルーを頼みます」


「ええ、イナホ殿も…………お気をつけて」


 稲豊とアドバーンがそんな会話をしていると、アキサタナが痺れを切らしたように地団駄を踏んだ。


「さっさとしろ!! これは決闘だ!!!! ボクとお前の……そう!! レトリアを賭けた聖戦なのだ!!!! ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」


「わかってるよ。もう、これで終わりにしよう」


 王女姉妹とアドバーンが、マルーの猪車と一緒に離れていく。

 そして被害が及びそうもない場所で止まり、不安でいっぱいの眼差しでこの戦いの行く末を見守る。


「貴様は三つの大罪を犯した!! ひとつはレトリアに近づいたこと! ふたつはボクの婚約をぶち壊したこと!! みっつめは……そうまでして手に入れたレトリアの愛を裏切ったことだ!!!!」


「誰も愛したことのないお前が愛を語るのか? お前が好きなのは、最初から自分だけだろう。魔物を手籠めにする変態ヤローが」


「だ、だまれ!! 人間は元々、愚かで醜いものなのだ!! 道を外れるからこそ、ボクは人間!! 人間のボクには、愛を(むさぼ)る権利があるのだ!!!!」


 アキサタナが右手を掲げ、魔素を漲らせる。

 血走った瞳には、もはや稲豊の姿しか映ってはいなかった。


「お前が……お前如きがボクを語るな!! 知っているぞ? お前はもうアモンじゃない。初めて会ったときの、非力なガキだ!!!!」


「そういや、初めて会ったのもこの森だったっけ。悪いけど、俺はもうあのときの俺じゃない。素直に尻尾巻いて逃げるなら、追うような真似はしないぜ?」


「バババ……バカにするなぁ!! この……この……このぉ!! くおぅの……泥棒猫がぁぁぁあ!!!!!!!!!!」


 ついに堪忍袋の緒の切れたアキサタナは、渾身の爆破魔法を稲豊へ向けて解き放った。それは牛の体ほどもある、巨大な紅球。小さな太陽を彷彿とさせるそれは、風のような速度で稲豊へと迫った。


「………………いいんだな?」


 直撃すれば、ひとたまりもないだろう。

 しかし稲豊は神妙な面持ちで、避ける気配すら見せなかった。

 

「お父さま!?」


「シモンくん!! 避けて!!」


 王女たちの懇願も虚しく、紅球は稲豊に直撃し、凄まじい爆発が猛威を振るった。土は吹き飛び、木々は薙ぎ倒され、炎風が周囲のすべてを焼き尽くす。


「ハニーーーー!!!!???」


「父上!!!!!!」


 濛々(もうもう)と立ち上る白煙に邪魔をされ、稲豊の無事は誰からも確認できない。絶望の表情を浮かべるマリアンヌたちとは対照的に、アキサタナは眼前の惨状を前にして、ひとりさも愉快そうに高笑いした。


「ハ、ハハ…………ハハハハハハハハハハハ!! ハーーーッハッハッハ!!!! バカが!! ボクを舐めているからそういう目に合うんだ!! 思い知ったか! これがボクの……実力なんだぁ!!!!」


 勝ち誇った笑みを浮かべ、笑い続けるアキサタナ。

 マリアンヌはその光景を見て、力なくその場に崩れ落ちた。


 ほかの王女姉妹も、最悪の事態を想像し顔色を青くする。


「まだじゃ」


 だがしかし、ルートミリアだけは違っていた。


「見ろ」


 白煙を指差しながら言うルートミリア。

 王女姉妹たちは導かれるように、その指の示す先を見つめた。


「ハハハハ!! 勝った! 奴に勝った!! ハハハハハハハハハハハハ…………………………………………………………は?」


 アキサタナの勝ち誇った顔が、一瞬にして硬直する。

 白煙のなかに、人影を見つけたからだ。


 人影は白煙のなかで、ゆらゆらと揺らめいている。

 

「バ、バカな……!? あの直撃を受けて……立っていられるはずが……!?」


 乾いた声を吐くアキサタナの前で、人影が前進する。

 そして白煙から生まれたひとりの男が、産声をあげた。



「………………………ま~~~~~ったく、こんなにも早く出番が訪れるとは。コレも日頃の行いというヤツでしょうか? まあしかし、呼ばれて飛び出てジャジャジャーン!! 良い子のみんな? 元気かな~~~?」



 男の出現に、アキサタナだけでなく、マリアンヌたちも目を剥いた。

 その男が、ここにいるはずがない。


「お……おい…………それは…………反則だろう…………?」


 頬を引き攣らせながら呟くアキサタナ。

 歪な仮面を付けた男はその前に立ち、大仰に手を広げて言った。



「審判! 選手交代!! ここから先は、小官がお相手を務めさせていただきます。これは反則結構!! 決定事項!!!! 貴公風に言うならば、小官と遭遇した不運(こううん)を嘆いてください」



 絶望しよろめくアキサタナの前で、仮面の男――――――アモンは笑いながら黒き魔素を(ほとばし)らせるのだった。




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