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メシマズ異世界の食糧改革  作者: 空亡
第十章 終焉の魔人

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第330話 「三度目の遭遇」


「あの……お父上、なんというか…………たくましくなられましたね」


 揺れる猪車の上でクリステラに言われ、稲豊は己の体をまじまじと見つめた。


「ああ、そうか。アモンの魔法で成長したんだっけ。高校生からいきなり成人とか、はは……笑えね~」


 なんとか心を取り戻した稲豊だったが、体までは元には戻らなかった。少年から青年へ。いまの稲豊は、誰が見ても大人の男といった容姿をしている。

 

「すまぬのシモン……。妾の力を持ってしても、ひとたび成長してしまった肉体は……元には戻せぬのだ」


「気にしないでください。背も伸びて、ちょっと嬉しい部分もあるんで。そんなことより、状況がまったく分からないんで……説明をお願いしたいです」


「ハニー。記憶はどうなん? どこまで覚えとるん?」


「エデンの天使として色々やってたのは朧気に……。でも、ここ最近の記憶は特にハッキリしない。正直、なんで皆と猪車に乗ってるのかも分からない」


 稲豊が首を捻ると、アリステラが「おいたわしや、お父さま」と瞳に涙を浮かべる。その後ろから、ソフィアが身を乗り出した。


「簡潔に説明すると、我々はお前を奪還するためにエデン領内へ進入。タルタルとミアキス、マルコやネブの陽動隊がエデン各所を襲撃。正確には襲撃のフリだが、そうしたどさくさに紛れ奪還に成功。現在、この旧人狼族の森を全力で逃亡中……というところだ」


「なるほど……。じゃあもしかして、まだまだ油断できないって感じか?」


「うん。エデン軍がシモンくんを取り戻しに来ると思うし、ボクが空から見た感じだと……アキサタナの奴も妙な動きを見せてるよ」


「ふぅ……息をつく暇もなしだな」


 大きくため息を漏らす稲豊。

 その息の掛かりそうな距離に、スッとなにかが差し出される。


「あとコレ、どうしよう?」


 ウルサが差し出したのは、アモンの装着していた仮面だった。

 禍々しい妖気が、いまだに漂っている。


「そうだなぁ、記念に持っとくか。でも、ちょっと縁起悪いなぁ」


 仮面を受け取り、指先でくるくると弄ぶ稲豊。

 使い方をひとつだけ思いついたが、それを試す度胸はいまの稲豊にはなかった。


「まあ、とにかくいまは……逃げ切ることだけを考えた方が良いってことだな」


 稲豊は猪車の後部から、通り過ぎていく後ろの道を眺める。

 暗い森の奥から、なんだか嫌な気配が近づいてくるのを感じた気がした。


「大丈夫ですわぁ、お父様。もう少しの辛抱ですからぁ」


 アリステラがうふふと微笑む。

 稲豊には最初、なにが《大丈夫》なのか、わからなかった。


 しかしその笑みの意味は、すぐに知るところとなる。


「ここでよろしいですか? アリステラお嬢様」


 猪車がゆっくり停車したかと思うと、御者台のアドバーンが声をあげた。


「なんだなんだ? まだ森の中みたいだけど……?」


「ふふふ、おまかせくださいませぇ」


 困惑する稲豊を他所に、アリステラが猪車を降りる。

 稲豊らもそのあとに続いた。


「おお! イナホ殿!! 声は聞こえておりましたので、状況は承知しておりましたが………。うぅ、やはりこの目で見たら、涙が………!」


「そ、そんな大袈裟な。めちゃくちゃ迷惑をかけたので、むしろ怒ってくれても良いぐらいで………」


「なにを仰るウサギさん! そのお姿を見れば分かります。この数か月、筆舌に尽くしがたい仕打ちを受けたことでしょう。助けだすのが遅れて、申し訳ございません!! くぅぅ…………」


「泣かないでくださいよ。もとはといえば俺の失敗っていうか、自業自得なせいなんで。俺の方こそ申し訳ありませんでした!」


 ヨヨヨと泣き崩れるアドバーンを前に、稲豊はイヤイヤと両手を振る。

 互いに悪いのは自分であると感じているだけに、ふたりの謝罪合戦はその後しばらく続いた。


 やがて目元を拭うハンカチを胸ポケットに仕舞ったアドバーンは、ようやく笑みを浮かべて稲豊の顔をまっすぐに見つめる。


「一回り………いえそれ以上にたくましくなられました。本当に、無事で帰ってきてくれて、ありがとうございます」


「俺も、またアドバーンさんに会えて嬉しいです。これからも、よろしくお願いします」


 そうして、ふたりは握手を交わす。

 ちょうどそのぐらいに、アリステラが歓喜の声をあげた。


「あった! ありましたわお父さま! さあ、こちらへ」


 アリステラに促されるまま、稲豊は道外れの草むらの側まで足を運んだ。するとそこには、地面に寝かされた木の扉がひとつ置かれていた。


 扉の正面には、見慣れたアリステラの魔法陣が描かれている。


「本当は猪車に乗せておきたかったのですけれど、魔石の干渉を恐れてここに隠したんですの。これですぐにでも、魔王国に帰れますわぁ! お父さま!」


「マジか!? さすがはアリス、抜け目ないな」


「イヤですわお父さまぁ。そんなに褒められるとアリステラ、照れてしまいます」


 頬を上気させるアリステラの後ろで、アドバーンが手際よく扉を立てる。


「ここにもすぐにエデン兵が駆けつけてくる、急ぐのじゃシモン」


「わかりました。じゃあ申し訳ないですが、俺から行かせていただきます」


 扉に入る順番で揉めていては元も子もない。

 稲豊は率先して扉の前に立ち、右手を魔法陣に添える。


「………………ふー……」 


 もう何度もやったことなので、要領なら得ている。

 呼吸を落ち着かせたのち、稲豊は扉に魔素を込めた。


 数秒後、魔法陣が明滅し、準備が整ったことを告げる。


「じゃあ、失礼して」


 ドアノブに手をかけ、扉を引く稲豊。


「うわぁ」


 扉の向こうに、魔王国の城門が見える。

 懐かしい光景に感極まりながらも、稲豊は淀みなく足を踏み出した。


『ああ、ようやく帰ることができる』


 湧き上がる思いに、稲豊は胸を熱くする。











――――――そのときだった。



「ロ~~~~~~~ゼン! フ・レ・アァァァァ!!!!!!!!!!!!」



 奇声のような詠唱と共に、紅球が稲豊らの周囲に降り注いだ。


「うわぁ!?」


「な、なんやコレ!?」


「マルー!!」


 稲豊の眼前で魔法陣の描かれた扉が砕け散り、流れ弾に当たった猪車の上半分が吹き飛ぶ。混乱する王女姉妹たちの中心で、稲豊だけは何が起こったのかを理解していた。


「この声は……まさか……!」


 稲豊は口にするなり草むらを飛び出す。

 声の主は、すぐに見つかった。


「やっぱりお前か……!」


 稲豊が睨みつける先に、ひとりの男が立っていた。

 紅衣と燃えるような赤髪が特徴的な、エデンの天使……アキサタナ=エンカウント。


 ボサボサの髪で猟奇的に笑うその姿には、かつての優美な面影などどこにも存在しない。


「見つけた……ついに見つけたぞ……我が宿敵!! お前さえいなければ……ボクは…………ボクはボクはボクはボクはボクわボクわボクわぁぁぁあぁぁ!!!!!!!!!!」


 絶叫するアキサタナ。

 その姿に、あとからやってきたルートミリアたちは戦慄する。


「ボクわ!! アキサタナ=エンカウント!!!! エデンの第五天使!!!! ボクに遭遇した不幸(こううん)を呪うがいい!!!!!!!!!!!!!!」



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