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メシマズ異世界の食糧改革  作者: 空亡
第十章 終焉の魔人

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第322話 「家族団欒」


『待つのじゃ~~!』


 屋敷の庭で、子供の猪を追い回す少女のルートミリア。

 その姿を微笑ましそうに見つめるのは、リリト・クロウリーと魔王サタン。


 アドバーンはサタンから用事を頼まれ、この場にはいなかった。


「…………なんで俺、ルト様の過去になんて」


 他に行く宛もない稲豊は、首をひねりながら呟いていた。

 この世界に来て、幾度となく自身の記憶を辿ったが、いまいち記憶がハッキリしない。


 ルートミリアとアモンが対峙していたような気もするが、それが現実なのか夢なのかも、稲豊には分からなかった。


「でも………他に行く場所なんて………」


 ここにいてどうにかなるとも思えなかったが、かといって行くあても思いつかない。結局、稲豊はクロウリー邸に留まることを選んだ。


主様(ぬしさま)に会えたことが、よほど嬉しかったようじゃな。ルトがあれほど喜ぶ姿は、久しぶりに見る』


『そうか~? こんな偶にしかやって来ない父親よりも、プレゼントのドレスの方が嬉しかったんだろうぜきっと』


『そんなに卑屈にならずとも、ルトは心の底から喜んでおるとも。あれは聡い子じゃ、主様の立場というものをちゃ~んと理解しておる。まあ、ドレスが嬉しかったのは、確かじゃろうけどの』


 拗ねるように俯くサタンのとなりで、リリトがくすくすと笑う。

 久しぶりの家族の団欒。稲豊も、なんだか穏やかな気持ちになる自分を感じていた。


『…………ルトの調子はどうだ? その、なんか変わったこととか』


『残念じゃが、変化はない。相も変わらず、魔素の消費が止まらぬ。幸か不幸か……本人にその自覚はないようじゃがな』


『魔法を使うことなく、こうしてただ平和に生きれば…………少しは長生きできるかもしれねぇが』


『あの子の魔法の才能と、体に流れる魔王の血がそれを許しはせんじゃろうの。ルトは主様によく似ておる』


『…………素直に喜べねぇなあ』


 庭の手入れの行き届いた芝生の上に、ごろんと横になるサタン。

 リリトはその横に、上品に腰を下ろした。


 するとそのタイミングで、ガラガラという稲豊にも耳馴染みのある音が聞こえてくる。


 稲豊が音の方へ顔を向けると、屋敷の前に一台の猪車が停車するのが見えた。


『おっと! もうひとつのさ……さ~……サ?』


『“サプライズ”かの?』


『そうそれ! 喜ぶぜきっと!!』


 ピョンと飛び起きたサタンは、待ちきれないといった様子で猪車の方を見ている。その姿を見て、リリトも微笑みながら腰を上げた。


 少しして、複数の足音が庭へ近づいてくる。


『お連れいたしました』


 先頭を歩いてきたアドバーンが、恭しく頭を下げた。


『それでは、私めはまだ雑務がありますので』


『おう! 案内ごくろーさん』


 サタンがギザギザの歯を覗かせながら労いの言葉をかけると、アドバーンは再び一礼して後ろへと下がった。するとアドバーンと入れ替わるように、ひとりの女性がサタンの目の前へ歩み出る。


 ウェーブの掛かった薄茶色の髪と、真紅のドレス。そしてスイカがふたつ並んだような、大きな胸が特徴的な女性だ。


『ダーリンおまたせ! ウチ寂しかったぁ!』


 女性は緋色の瞳でサタンをまっすぐに見つめ、その胸の中へと飛び込んだ。


『お、おう……【エステラ】。悪いな、会うのが少しばかり遅くなっちまった』


『ええよええよ。ダーリンが忙しいのは、ちゃんとわかっとるから。ウチ、理解のある妻やねん』


 エステラと呼ばれた妙齢の女性は、次にリリトの方を見た。


『おひさ、リリやん。いつ見ても綺麗な黒髪やねぇ。ルトちゃん元気?』


『う、うむ……変わりない。しかしエステラ……その口調は……』


『あ、やっぱりわかる? 前にリリやんに教えてもらった喋り方、ウチめっちゃ練習したんよ! なんか喉に合うというか、気に入ってもうてん。ど? 上手い?』


『………驚くほどに、しっくりくるのぅ』


 エステラは「やった!」とガッツポーズをする。

 そしておもむろに振り返ると、手招きをしながら口を開けた。


『こっちこっち! みんなお揃いやで!』


 喜色満面で声をあげるエステラ。

 すると数秒後、エステラの眩しい笑顔とは対照的な、険しい顔をする男が皆の前に現れる。


『ダーリンたちは会うの初めてやんね? キルフォ・アレスグア・ルヴィアース。ウチのお兄ちゃん! 見ての通り愛想のないおっちゃんやけど、なかようしたってや!』


『ふん……別に私は、キミらと親睦を深める気はないのだがね』


 キルフォはサタンから視線を逸らし、つまらなさそうに悪態をつく。そのあまりな様子から、サタンがエステラに耳打ちをした。


『おいおい、オレ様……えらい嫌われてないか?』


『お兄ちゃんはウチのこと溺愛しとったからね。ダーリンとの婚姻も最後まで反対しとったし。しかも自分は偏屈なせいで独り身やから、複雑な気持ちなんちゃう?』


『なるほど、女日照りってやつか。そりゃ~悪いことをしたなぁ』


 サタンがうんうんと頷くと、キルフォは怒りの瞳をサタンの方へと向けた。


『私のことはどうでもいい! 君たちが関心あるのは、こっちだろう!』


『うわ⁉ なにすんだてめぇッ⁉』


 怒り心頭のキルフォは、自身の長いローブを乱暴につまみ上げる。サタンは中年男のあられもない下半身が現れると思い、(しか)め面で視線を逸らした。


 しかし、キルフォのローブの下から現れたのは――――――



『って…………なんだ()()()、そんなところに隠れてたのか』



 安堵の息を漏らすサタンの前には、赤いドレスを着た愛娘。

 マリアンヌの姿があった。



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