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メシマズ異世界の食糧改革  作者: 空亡
第十章 終焉の魔人

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第314話 「二つ目の異能」


「お嬢さまぁぁぁッ!!!!!!!!!!」


 アドバーンの悲鳴にも似た叫びが、採掘場内で反響する。

 その視線の先には、鮮血を吐きながら崩れるルートミリアの姿があった。


「…………ぐぅッ!!」


 崩れ落ちるルートミリアを支えたアドバーンは、悲痛な面持ちで腕の中の主を小さく揺さぶる。


「お嬢様!! お嬢様ッ!!!!」


 苦悶の表情を浮かべるルートミリア。

 アドバーンは絶句し、ただ呆然とその姿を眺めていた。


 しかし、次の瞬間――――――



「う……ぐ…………げほ…………ごほ…………!!」



 ルートミリアが薄く瞳を開き、大きく咳き込む。

 口から少なくない量の血が飛び散ったが、それでもアドバーンは安堵した。


「だ、大丈夫じゃ…………問題…………ない…………!」


 よろよろと立ち上がるルートミリア。

 その姿を見て、アモンは大きく首を捻る。


「おかしいですねぇ? 小官は確かに心の臓を貫いたはず。とすれば…………」


 アモンは「ああ」と大仰に両手を広げた。


「なるほど! 小官の真似をしましたね? 我が魔法を受ける直前、自身に修復魔法(レリ・アスト)を施した!」


「…………ギリギリのタイミングじゃったがな」


「無茶をしますねぇ~。心臓の穴は塞がったようですが、治癒魔法(ルル・エール)が追いつかず他の臓器が傷ついている。しかも己の体とはいえ、脳への負荷も相当なはず。そのままお亡くなりになった方が、よほど楽に死ねたでしょうに」


 そこまでを口にしたとき、アモンの視界の端で何かが動いた。瞬時にその方向へ顔を向けると、鬼神の如き表情で迫るアドバーンの姿が見えた。


光線魔法(アルル・ラース)


「無駄ッ!!」


 アモンが放った神速の光線を、剣で受け流すアドバーン。

 負けじと光線をいくつも放つが、そのすべてが剣によっていなされる。


「いやいや、マジですか」


 そんなことを言っている間に、すでにアドバーンはアモンの懐深くまで侵入していた。


「ぬおおおッ!!」


 地面すれすれから昇る、気迫の切り上げ。

 魔法を放とうとしたアモンの右腕は、胴体を離れくるくると宙を舞った。


「おおっと、さすがは元近衛隊長。ですが……無意味でございます」


 アモンはすかさず距離を取り、瞬時に右腕を再生させる。

 そして(からか)うように、再生した手をひらひらと振った。


「………………んん?」


 だがそのとき、アモンの動きが止まる。

 動かそうとしても、筋肉は痙攣したように震えるばかりで、言うことを聞かない。


「これは…………毒……?」


「ドラゴンすら動けなくする痺れ毒。我が能力によるものです」


 アドバーンは【魔神の鬚髯】により、多種多様な毒を生み出すことができる。口髭に潜らせた剣は、触れるだけでも危険な猛毒が塗られていた。


「残念れすが、小官の魔能をなめらいでいたらきたい」


 しかし、アモンにとって毒は恐るるに足りない。

 舌を限界まで伸ばしたアモンは、ぎこちない仕草で自身の腕を舐める。


 すると数秒もかからないうちに、体内の麻痺毒は消滅した。


「小官の舌はあらゆる毒を解毒する。謂わば貴方の魔能の天敵というやつですね」


「理解はしておりましたが、こうも簡単に我が毒が消されるとは……。些か、ショックでございますね」


 魔法ではアモンが上を行き、剣技では勝るとも決着がつかない。

 八方塞がりのような状況で、アモンが勝ち誇った笑みを浮かべる。


「ほらほら、もうおしまいなのですか? 早くしなければ、異変に気づいた者が兵士を呼んでしまいますよ~?」


「時間がないことは、百も承知じゃ」


 ルートミリアはひとつ長い息を吐き出し、キッと覚悟の決めた顔をあげた。

 その瞳に宿る何かしらの決意を察し、アモンは笑うのを止める。


「お嬢様……! まさか……あれを……!?」


「使わずに済むのなら、それが一番じゃった。だが……我らの力が及ばぬ以上、仕方がない」


「し、しかし…………」


 納得のいっていないアドバーンを他所に、ルートミリアはアモンの方へ向き直る。その体には徐々にではあるが、魔素が集まりつつあった。


「…………何を始めるつもりなんです?」


「なに、お前の申す通り時間がないのでな。妾の“とっておき”を使うまでのこと。シモンの前で使うのは、これが初めてじゃったな」


「ハッタリ……でも無さそうですねぇ……」


 その自信に満ちた瞳を見れば、ルートミリアの言葉が真実であると分かる。何よりどんどんと大きくなっていく魔素が、それを証明していた。


「お前と同じだシモン。我が父より授かりし魔能……【魔神の生門】。だが妾は、お前と同様にもうひとつ能力を持っておる。魔女より与えられた…………異能がな」


「………………魔女」


 アモンの知る魔女は、ひとりしかいない。

 贖罪の魔女と呼ばれた、リリト・クロウリー。


 絵本の中では、彼女はいくつもの不思議な食材を産み出していた。魔能が子へと受け継がれるのなら、神籬もまた……受け継がれる可能性を秘めている。



「もうひとつの……我が忌まわしき異能。名を……【(かみ)(のど)】。その能力は――――――“召喚”。我が呼び掛けにより、異界の存在を召喚する!!!!」



 膨大な魔素がルートミリアを中心に膨れ上がる。

 このままでは、何かとんでもないことが起きるのは明白だった。 


「それはさすがに……見過ごせませんねぇ!!」


 巨大な炎球を作り、ルートミリアへ目掛けて放り投げるアモン。

 しかし――――――


「ふんぬっ!!」


 アドバーンが一太刀のもとに、炎球を両断する。

 ふたつに割れた火の玉は左右へ飛んでいき、破裂した。


「横槍はこのアドバーンの命に懸けて、阻止させていただきます」



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