第1回 【キャラクター紹介~屋敷編~】
インタビュー形式でのキャラクター紹介。
普通のが良い! という人の為に箇条書き編も用意しましたのでそちらへどうぞ。
どちらでも密か(?)に新事実を入れたりなんかしています。
「さあ、やってまいりました! 第一回チキチキ! キャラクター紹介のお時間です!」
「パフパフパフ!」
ある晴れた日の昼下がり。
屋敷の庭で何やら騒ぎ出す稲豊とナナの姿がそこにはあった。
キャラクター紹介の名を借り、屋敷の面々ともっと親睦を深めよう! と、稲豊がついさっき思い付いた企画である。と言ってもそんな大袈裟なものではなく、簡単なプロフィールを聞いて回るという簡単なイベントだ。
「他にもそれぞれの仕事なんかも聞いていく」
「それが、いんたぶー? というやつですね!」
「そうだ! 俺の事なんてどうでも良いからパスするとして……」
「キャラ紹介でいきなり自分を省くんですか!?」
「よしっ、まずはアドバーンさんからだ。さっき花壇の花を眺めているのを見た。行くぞ! 助手壱号!」
「お供します!」
花壇に向かうインタビュアー達。
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「趣味や特技? ――そうですなぁ」
花壇で花を鑑賞中のアドバーンに声を掛ける。優雅な姿勢を崩さないまま、老執事は空を見上げた。
「イナホ殿。こちらへ」
「はい?」
アドバーンに手招きされるがままに近づく稲豊。
すると突如足元が崩れ、少しの浮遊感の後で地面に激突する。
「あべし!?」
「イナホ様!!」
何が起きたか分からずに目を回す稲豊を、穴の上から心配するナナ。
その隣から顔を覗かせたアドバーンは手を伸ばし、二メートルはある落とし穴から少年を引き上げる。
「素晴らしい落ちっぷり! 97点を差し上げましょうイナホ殿」
「はぁ…………どうも」
穴の中には草のクッションが敷かれ、落ちても全く痛みはない。
しかし、落ちるまで全くその存在に気づかなかった手際は見事と言わざるを得ない。葉っぱを頭に乗せジト目をする稲豊に、アドバーンは喜色満面で語りかける。
「特技は穴掘り、趣味は落ちる者を鑑賞する事ですな。それが密かなマイブームでして――」
「そんな迷惑な趣味止めて下さい!」
鼻を高くし髭の先端を弄るアドバーンに、二人同時にツッコミを入れる少年と少女。
しかし老執事が楽しそうに穴を埋めている姿を見れば、止める気など更々無いことが伺える。まあ怪我には配慮しているので良しとして、稲豊は次の質問に移った。
「では執事長としての仕事なんかを教えて下さい」
「――――えっ!?」
その質問をした瞬間。穴を埋めていた手を止め、老執事の顔色が悪くなる。
まるで聞いてはいけない事を聞いてしまったかのような反応だ。「えっ、あ……」とシドロモドロになる執事長を見て、稲豊は「まさか」と前置きした後に、確信をついた質問をする。
「仕事…………何もしてない…………とか?」
「ぐああ! 持病の労咳が!!」
悶え苦しむフリをするアドバーンにナナが駆け寄り「大丈夫ですか?」と声を掛ける。そんな二人の姿をどこか遠くに眺めながら、稲豊は持っていたメモのアドバーンの欄に『職業:自宅警備員』と書き込んだ。
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花壇の近くということで、ついでに厩舎にいるマルーに会いに来たインタビュアー達。巨大な猪の頭を撫でながら、その生い立ちをナナに尋ねる稲豊。
「マルーはいつから屋敷にいるんだ?」
「三年前にご主人様が、赤ちゃんのマル―をお父上からプレゼントされたそうですよ」
ルトの父親という事は、魔王ということになる。
魔王からの贈り物と考えただけで、目の前の猪がどこか高位の存在に見えてしまい。稲豊は気安く触れている事実に少し萎縮してしまう。
「当時ものすごく喜んでいましたよご主人様。あんなに喜ぶご主人様は見たことがなかったです」
「あのルト様がそんなに?」
「内緒ですよ? そのとき屋敷の屋根に登ったりして奥様に怒られていたぐらいです」
笑みを浮かべ語るナナだが、もう一人のインタビュアーには少し複雑な気持ちが渦巻く。
奥様、つまりはルトの母親。
だがこの屋敷にその存在がいない事は稲豊も良く知っている。それ以上をナナから聞いてはいけない気がして、彼は話題を逸らした。
「って事はマルーはルト様の大切な親友って訳か。怪我でもさせたらエライ事だな」
「痛み百倍でこぴんの刑ですね」
「いや、それ死ぬだろ」
五倍でも相当な痛みなのに……百倍ともなるときっとショック死する。
走る悪寒が疲れるのを待ってから、二人は次の場所に向かった。
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次に二人が来たのはやたら幻想的な部屋。ミアキスの私室だ。
迎え入れられた稲豊とナナは並ぶ二つの椅子に、それぞれ腰を下ろす。正面の椅子に腰掛けるのは、いつもの鎧に身を包んだミアキスだ。
「それでは、ミアキスさんに質問します」
「うむ。何でも聞くと良い」
記録係はナナに任せ、稲豊はインタビューに集中する。
「では趣味と特技をお願いします」
「趣味は他人の世話。特技はマッサージや耳掃除等だな」
「そそ、そうですか…………あぁ~」
インタビューに答えながらも、いつの間にか稲豊の肩を揉んでいるミアキス。その趣味も特技も筋金入りのようである。
「それだけではあれなんで、他にも質問しますね? 好きなものや嫌いなものなんかを教えて下さい」
「ナ……ナナもきょ、興味ありま、あぁ~~」
次にその魔性の手の餌食に掛かったのはナナである。肩や頭のマッサージを受けながらヘブン状態となっている。ミアキス本人はそんな事歯牙にも掛けず、さも当たり前の様に質問に答えた。
「好きなものは……と言うより好きな事は人助け。嫌いなものはお化けだ」
「ああ。惑乱の森でも言ってましたね」
ふにゃふにゃになってしまったナナの代わりにメモを取るもう一人のインタビュアー。
「この屋敷にはどういった経緯で?」
「魔王様にスカウトされてだ。四年前に姫の警護を依頼され、それ以来ここにいる」
またも出て来るのは魔王の名前。
屋敷のメンバーはその殆どが魔王により集められた事が明るみとなった。しかしそんなものかも知れない、と稲豊は深く考えずに最後の質問をミアキスに投げかける。
「ありがとうございました。それでは最後に、屋敷での仕事を教えて頂いてもよろしいですか?」
「屋敷の警護だが……セキュリティナナがあるので殆ど意味は無いな。このような森深くに押し入る犯罪者もいない故、基本的に鍛錬しかやっていない」
凄く真面目に答えてくれたミアキスだが、その表情は少し曇っている。
騎士として何か活躍する場を欲っしていた彼女だったが、ここでは殆どする事が無い。いざという時の為に鍛錬するぐらいしか暇を潰せないのである。
メモのミアキスの欄にまたも『職業:自宅警備員』と記入する稲豊。
まだ蕩けているナナを引っ張って、最後の人物の元へと向かう。
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「妾が最後という訳か」
「好きなものや嫌いなもの、あと特技や趣味なんかも出来ればお願いします」
昼なのに食堂でヒャクの果汁を呷るルトに声を掛けた稲豊達。
我らが屋敷の主は、威厳のある態度でインタビューに答える。
「好きなものは父上。嫌いなのは勇者共」
「勇者一行の事ですか? 楽園に住んでるとかいう」
前に一度、ナナから勇者の話は聞いたことがある。
楽園に住む彼らは、各地の魔物を狩るその代表といった存在らしく。ルト曰く、「勇者を好きな魔物などいない」とのことである。ふん、と鼻を鳴らしたルトは、自身が発した言葉にも限らわず憤慨の表情になる。しかし一度深く息を吐き出し、気を取り直して次の質問に答えた。
「趣味は惰眠を貪ること。そして特技は何を隠そう“魔法”じゃ! 五行の魔法は勿論の事、特殊魔法も多岐に渡って習得しておる!」
「おお~! さすがですご主人様!」
行儀悪く椅子に片足を掛け、片手を腰に当ててふんぞり返るルト。その周囲に花ビラを散らすナナ。前半部分は最悪だが、後半部分は素直に羨ましいと思う稲豊。
「どんな魔法が得意なんですか?」
「何でもじゃ! 妾に苦手な魔法など無い。虚無魔法、感覚魔法、重力魔法……」
物凄く得意気に自ら習得した魔法を羅列するルトだったが、稲豊が「屋敷でのお仕事は?」と口を挟んだ所で、流暢だった言葉をピタリと止める。
「屋敷の主人としてやってるお仕事をお願いします」
再度ニュアンスを変えて質問する稲豊の言葉に、眉の間に大きな皺を作り、俯き沈黙する屋敷の主人。その狭い額には少なくない汗。ジッと床を眺めながら、何か思案している。しばらくの静寂の後、ルトがなんとか絞り出したのはこの言葉。
「や、屋敷の………………結界の…………維持……とか……の」
それを聞いた稲豊に何かが乗り移る。
「あ、ありのまま今起こったことを話すぜ! 『屋敷のメンバーの内、半数以上が自宅警備員だった!』な……何を言ってるのかわからねーと思うが以下略」
「い、イナホ様? なんか怖い顔になってますよ!」
ナナの言葉で現実に帰還する稲豊。
あまりの事実に現実逃避をしてしまった事を反省する。少女メイドに「ありがとな」と声を掛け、ついでにその仕事ぶりを主人に報告させる。
「助手壱号。言って差し上げなさい」
「はい! 朝起きたら、朝風呂が欠かせない執事長の為にまず浴場の掃除をします。それが済んだらマルーに朝ゴハンを上げて。お洗濯をして。イナホ様のお手伝いをして。お屋敷の掃除して。花壇のお手入れして――」
「ぐっ! うぐっ! や……止めるのじゃ! その言葉は妾に効く!!」
ナナの仕事の一つ一つが剣となってルトを襲う。
その度に多大なるダメージを受け、顔を苦痛に歪める怠け者の主人。
「趣味は裁縫。特技は糸を指先から出せる事ですね」
律儀にも趣味や特技まで答えるメイド少女。
彼女の口が止まった後に残ったのは、満身創痍となった屋敷の主人だ。息も絶え絶えに苦しむルト。短くない時間を掛け、やがて立ち上がった彼女は、二人の前で宣言する。
「よし決めた。妾は魔法の先生になるぞ。気が向いた時に皆に指導するのが仕事じゃ。これで文句はないな?」
無理矢理に自分に役職を当てはめ、満足する屋敷の主人。
それを冷ややかな目で見つめるインタビュアー達。「なんじゃその目は!」そう憤慨するルトから視線を逸らしこのイベントの締めに入る二人。
「皆の事が良く分かった所で、このイベントを終了したいと思います。御機嫌ようさようなら」
「はい! それではまたの機会。ですね!」
「ま、待つのじゃ! これで終わりでは妾には悪印象しか残らんではないか! 妾は特殊魔法を色々使えるのじゃぞ? 凄いのだぞ! 障壁魔法に幻惑魔法、集音魔法に成長魔法。それから――――」
食堂内に延々と木霊するルトの自慢を聞きながら、第一回キャラクター紹介は賑やかな終わりを迎えた。




