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メシマズ異世界の食糧改革  作者: 空亡
第九章 暗躍の魔人

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第298話 「既成事実」


 レトリアの婚約を知ってから、半刻後。

 アモンの姿は、アルバ邸宅の巨大な門の前にあった。その後ろには、三叉の矛(トライデント)の三人が、一様に不安気な表情を浮かべて立っている。


「それでは……面会は適わぬと?」


 アモンが訊ねると、門の向こう側に立つ中年女性が、礼儀正しく頭を下げた。


「申し訳ございません。『例え誰であろうと、婚約の日まで合わせてはならぬ』。主よりそう仰せつかっております」


 頭を下げながらそう口にするのは、メイド長のカナンだった。

 

「同じ天使である、小官の頼みでもですか?」


「はい。()()()()()()()()……でございます」


 カナンがきっぱりと告げると、ティオスが今度は不服そうに眉を(ひそ)める。


「どうしてもダメなのか? ちょっと会うだけで良いんだ!」


「はい。どう足掻いても、ダメなものはダメでございます」


 まったく取り付く島もない。

 アモンがエルブの方へ顔を向けると、エルブも頭を振って説得が不可能なことを示した。


「仕方がありませんね。マダム、お忙しいところを申し訳ございませんでした」


 そう言いながらアモンはカナンの腕を取り、その手の甲に口を付ける。そして困惑の表情を浮かべるカナンに背を向け、四人はアルバ邸を離れた。



:::::::::::::::::::::::



「我々でも面会できないとなると、いよいよもって不可解でござるな」


「そうですわね。何やら、不穏なモノを感じますわ」


 シグオンとエルブが、同時に表情を暗くする。

 

「納得がいっていないようですねぇ」


「あ、当たり前だろアモン様! こんないきなり婚約だとか言われて、しかも当人に会わせても貰えねぇなんて……納得できるワケねぇぜ!!」


「ああ、いえ……そうではありません」


 アモンが首を振ると、ティオスが狐に摘まれたような顔をした。


「先ほどのメイド殿、どうやら彼女自身も……この婚約には疑問を感じているようです」


「わかりますの? アモン様」


「ええ。理由まではわかりませんが」


「しかしそれが真ならば、お世辞にも円満な婚約ではなさそうでござるな」


 やはりいくら考えても、納得のいく答えは見つかりそうになかった。だが事情を知っているであろうレトリアには、会うことさえ適わない。


「気は進みませんが、仕方ありませんね。()()()()()の方から、事情を伺うことにしましょう」


 アモンが嘆息しつつ言うと、どこからか神経を逆撫でするような高笑いが響いてくる。その声を耳にするだけで、アモンのため息はさらに深みを帯びていった。


「この声って……まさか……?」


「いつも狙ったかのようなタイミングで現れますね。ですが丁度いい、()()()()()である彼に話を聞いてみることにしましょう」


 四人は振り返り、高笑いが聞こえる方に体ごと向きを変えた。

 すると正面のレンガ道の遠く、声の主の姿が少しずつ明らかになってくる。


 その全身が四人の前に現れた頃には、皆の視界は朱色で覆われていた。


「辛気臭い仮面(マスク)を見かけたと思ったら、やはり貴様だったか」


 顔を合わせるなりそう毒を吐いたのは、両脇にふたりの従者を従えたアキサタナだった。三叉の矛(トライデント)の三人は、即座に敬礼の仕草を取る。


 しかしアキサタナの視界には、そもそもひとりの人間しか入っていなかった。


「くっくっく! こんな所で立ち呆けている理由、分かっているぞ。門前払いを喰らったんだろ? 彼女の家まで行っておきながら、負け犬のようにすごすごと引き返してきたんだろう?」


 アキサタナは心の底から楽しそうな笑みを浮かべ、囁くようにアモンに訊ねる。そしてアモンが答えないでいると、さらに醜悪に口元を歪めた。


「お前にはそれがお似合いだ。道端で指を咥えながら、明後日の婚約の儀の光景でも想像しているが良い! 貴様に招待状が送られることはないだろうからな。くはっはっは!!!!」


 エデン中に響きそうな高笑いをしたあとで、アキサタナは「おい、行くぞ」と従者たちに声をかける。そして一瞥をくれることもなく、アモンの横を通り過ぎていった。


「――――――武闘会のとき」


 ふたりの間が数歩分ほど離れたところで、唐突にアモンが口を開く。


「貴方は確か、こう言いましたね。『確かにボクは試合に負けた。…………しかし、勝負に勝ったのはボクだということを……覚えておくがいい』…………と」


 言葉を聞いたアキサタナの足が止まる。


「あのときには既に、裏でこの婚約の話が進んでいた。だから貴方はあんなことを口走った。違いますか?」


「…………ふん、だったらどうしたと言うんだ?」


「武闘会のときのレトリアは、婚約の話を知っているようには見えなかった。ならば、この婚約は誰の手により、どのようにして結ばれたのでしょうか? エンカウント卿……本当にレトリアは、この婚約を了承しているのですか?」


 アモンの質問に、アキサタナからの返事はない。

 誰も声を出してはいけないような重い空気が、しばらくの間この場を支配する。


 やがて――――――


「大切なのは既成事実を作ることだ。そうすれば、いずれ彼女はボクの方へ振り向くに決まっている。時間なら……そう、無限にあるからな」


 自分に言い聞かせるように言いながら、アキサタナは振り返る。

 そして憤怒の瞳をアモンへとぶつけた。



「もう一度だけ言ってやる。貴様は指でも咥えて、そこで見ていろ。勝ったのは――――――ボクだ」



 低くドスの利いた声で告げると、アキサタナは今度こそ去っていった。

 

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