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メシマズ異世界の食糧改革  作者: 空亡
第八章 勇戦の魔人

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第292話 「竜と剣撃」


『タルトちゃんダメ!! ウ、ウチの後ろに早く!!』


 ファシールの記憶の中で、女が叫ぶ。


 場所はクロウリー家の廊下。

 時間はアモンの救援に駆けつける少し前。

 人間の少女を背中に隠し、両腕を広げて少女を庇う赤い服の女がいた。


『不思議なこともあるものだね。魔物が人間を守るのかい? それも……人間の僕から?』


 赤い服の女――――マリアンヌはハッと驚いたような表情を浮かべたが、次の瞬間には再び警戒の顔でファシールを睨みつけた。


『やったら約束してや! この子には手ぇ出さへんって!!』


『君に言われずとも、危害を加えるつもりなどないよ』


『な、なら……』


 ファシールの言葉を信じたマリアンヌは、目だけを動かし、横目で怯えるタルトの方を見た。


『ここはウチが食い止める、やからタルトちゃんはどっかに隠れといて!! ナナちゃんと一緒に、後で必ず迎えに行くから!!』


 マリアンヌの決死の頼みをタルトも理解し、小さくながらも頷きを見せる。

 そして少女は恐る恐ると振り返り、ふたりから離れるように廊下の奥へと駆けていく。


 しかし、そのときだった――――――


『……え?』


 マリアンヌが顔のすぐ側を何かが通ったと感じた瞬間、()()は少女の背中を目指しまっすぐに伸びていった。そしてマリアンヌの見ている前で、タルトは仰け反るように跳ねたあと、廊下の中央に音もなく倒れ込んだ。


 よく見れば、その小さな背中から歪な突起が生えているのが分かる。

 

『…………え………………え?』


 我が目を疑う光景に、マリアンヌはそれが何かの間違いではないのかと、何度も瞬きをした。しかしいくら瞬きをしたところで、目の前の光景は動かぬ事実としてそこにあった。


 タルトの背には凝った意匠の柄が生え、その先にあるであろう刃先は、少女の背中に深く深く食い込んでいた。



『…………どうして……? ど…………どうしてッ!!!!!!!!』



 絶望と憤怒の入り混じったマリアンヌの絶叫が、そのまま現在のアモンの質問へと置き変わる。



:::::::::::::::::::::::



「貴方ほどの者ならば、少女が人間であることぐらい理解していたはず。なのに……なぜ少女にナイフを……?」


 ファシールの表情から感情を読むことはできない。

 だからその口から出る言葉をアモンは待った。


 やがてファシールは諦めたように息を吐くと、どこか厳かに口を開く。


「“試し”だよ」


「………………(ため)し?」


 アモンの問いに、ファシールが簡潔に頷く。


「僕の同情を引くために少女を庇った可能性があったからね。果たして彼女が本当に少女のことを想っていたのか……珍しい状況だったので試してみたくなったんだ」


「それだけの為に……少女に短剣(ナイフ)を投げたと?」


「いいや」


 ファシールは頭を振る。

 そしてゆっくりと右手を持ち上げ、聖剣の切っ先をアモンの方へと向けた。



「僕が真に試したかったのは――――――君だよアモン」



 薄氷のような笑みを浮かべながら、ファシールは続ける。


「次は僕の質問に答えてもらおう。君はどうして、()()()()()()んだい? その場に魔王の姫がいたにも関わらず、君は倒そうともせず……少女に治癒魔法を施したね?」


 アモンの脳裏に、あの日の光景が蘇る。

 呆然と眺める女と、いまにも死にかけている少女。


 気がついたときには、淡い光が少女を覆っていた。それが自身の発動した治癒魔法だとアモンが知ったのは、少女が息を吹き返したときだった。



「人間か、魔物か。君はどっちなのかな? アモン」



 顔は笑っているが、その瞳だけは笑っていない。

 返答によっては、どのような結果が待っていてもおかしくはないだろう。


 そう感じさせるだけの何かが、いまのファシールにはあった。


理由(わけ)は答えずとも構わないよ。語り合うよりも、ぶつかり合うことで通じるものもある。次の一撃に君の想いをのせてくれれば……それで良い」 


 ファシールは言いながら、アモンと距離を取る。

 そして十メートルほど離れた位置で、剣を鞘に収めた。


 しかしそれは闘いを放棄した訳ではなく、むしろ逆。

 居合抜きのような構えを取ったファシールからは、かつてないほどの闘気が漂っている。


「分かりました。小官も全力を……出させていただきますね」


 ファシールの想いに応えるように、アモンも全身に魔素を(たぎ)らせる。

 やがて全身を巡る魔素は両腕に集まり、左手の先からは紫、右手からは赤いオーラを立ち昇らせた。


 その凄まじさは、離れた観客席からも見て取れるほどだ。


【 い、いったい何があったというのでしょうか!? 何か会話をしたあと、突然ふたりが戦闘態勢をとりました!! しかも周囲を漂う魔素は……いままでの比ではありません!!!! 】


 興奮した声をあげるのは、何も実況のトリシーだけではない。


「やべぇ!! 次で試合を終わらせる気だぜ!!」


「これまで見てきたどの試合よりも、激しい魔素の奔流……。とんでもないのが来るでござる」


「ああ……アモン様……!」


 幾つもの感情が渦を巻く闘技場内で、文字通りすべての決着の瞬間(とき)

 期待や羨望、不安や畏れの瞳が向けられるなかで、遂に渦中のふたりが動き始める。


紫電の紅竜(ラス・グリード)


 アモンの呪文に呼応して、両手の魔素が混ざり合う。


 最初は赤く染まった恐ろしい顔、次に鋭い爪。太い胴と長い尾が現れれば、それが人を一飲みにできるほど巨大な、炎の竜であることが誰の目からも分かった。


 炎の竜は紫電を纏い、ばりばりと何かが弾けるような音を立てながら、ファシールへ向けて突進する。


「火と雷の…………竜……!?」


 驚きに目を剥く観客たち。

 しかしファシールだけは動じることなく、静かに竜を迎え撃った。


(よい)明星(みょうじょう)


 その技はハーピーと沼を斬った、ファシールの必殺の剣。

 鞘から解放された聖剣の放つ、居合抜きの絶技。魔素に剣撃を乗せた凄まじい切り上げは、石床を割りながら、紅竜に正面からぶつかった。

 

【 うわわ! 眩しい!? 】


 竜を裂かんとする剣撃と、剣撃ごとファシールを飲み込まんとする竜。

 ふたつの衝突は、激しい音と眩い光で闘技場内を包み込んだ。恐ろしい放電と熱が周囲へ飛散し、リングを囲う結界が悲鳴をあげる。


 しかしそれでも、互いの“必殺”は退こうとはしなかった。


「お、おい!? まさか…………結界がッ!?」

 

 驚きに声をあげるティオスの目の前で、強固な結界に(ひび)が入っていく。


「七十二人の魔道士で作り上げた、特別な結界……でござるのに……」


 罅はどんどん大きくなり、やがて結界のほぼすべてに落雷のような模様が広がった。そして――――――


「きゃあッ!!!!!!???」


 轟音と激しい明滅と共に、結界が破裂する。

 観客たちの中には、その凄まじい衝撃で椅子から崩れ落ちる者さえいた。


 時間にして、十数秒。

 音も光も静まったあとで、目を瞑っていた観客たちが……恐る恐ると瞳を開く。


「これは…………?」


 率先して目を開けた者が発した第一声は、困惑の色を含んでいた。


 半壊したリング上には、元凶となったふたりが先ほどと変わらず向き合っている。どちらにも怪我は見当たらず、その表情も拍子抜けしたような、緊迫感の欠片も存在してはいない。


 そのうち、ファシールがやれやれといった様子で口を開いた。


「結界が耐えられなかったようだね。残念だけど、これじゃあ…………」


 アモンも周囲を見回したあとで、こくりと頷き言った。


「…………ええ。エキシビションマッチ、ここまでのようですね」


 ファシールの提案から決定した、突然のエキシビションマッチ。

 激しかった闘いとは裏腹に、その終わりは静寂に包まれた、あっさりとしたものだった。




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