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メシマズ異世界の食糧改革  作者: 空亡
第八章 勇戦の魔人

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第291話 「エキシビジョンマッチ」


【 勇者様からのエキシビションマッチの提案です! わ、私としてはもちろん歓迎でございますが……。しかしこんなことは武闘大会の長い歴史上、前例がありません!! ほ、本当によろしいんでしょうか……? 】


 トリシーが困惑の声をあげ、恐る恐ると王が居るであろう天幕の方を見る。すると視線に気付いたモンパイがいったん天幕の中に入り、十秒ほどしてから再び皆の前に姿を現した。


 モンパイは皆の前で、一度だけ大きく頷いた。

 それはすなわち、王の許可が下りたことを意味している。


「君も問題はなさそうかな?」


 ファシールが楽しそうにアモンに訊ねる。

 

「別に拒絶する理由もありませんが、いったい何のために戦うのですか? この戦いに、それほど意味があるとは思えませんが……」


「言ってみれば、僕なりの歓迎といったところかな。僕は君の力に興味があるし、それに一度も“本気”を出していないまま大会を終えるのは、君も不完全燃焼だろう?」


「…………なるほど、そういうことなら」


 アモンとファシールのやり取りに、観客たちはざわざわと騒ぎ始める。

 トリシーが「静粛にお願いします!」と声をかけ、ようやく彼らの声が小さくなっていった。


【 コホン! え~……予想もしていなかったビッグマッチです!! 剣魔の部の覇者であるアモン選手に対するは、エデン最強の我らが英雄――――大勇者ファシール様!! 武闘大会エキシビジョンマッチ! 試合開始でございます!!!! 】


 合図の鐘の音が鳴るのと同時に、ファシールは腰に下げている鞘から、聖剣トワイライトを抜き取った。陽光を浴びて白銀に輝く刀身は、活躍の場ができたことに歓喜しているようにも見える。


「真剣…………ですか」


「申し訳ないが、僕はこの剣でないと力が発揮できないんだ。急所を狙うような真似はしないから、許してほしい」


「構いませんよ。小官だって、貴方に怪我では済まない傷を負わせてしまうやもしれませんので」


「はは、それは恐ろしいな」


 言葉とは裏腹に、遠慮なく歩み寄るファシール。

 レトリアとの試合のときのように、ファシールは手が届きそうなほどの距離で足を止める。


 だがしかし、感じる圧力はレトリアの比ではない。


「…………それでは、全力でいかせてもらいますね?」


「気にせずどうぞ。君の前に立つのは、“最強”なのだから」


 にこりと微笑むファシール。

 その、およそ一秒後のことだった。


 ヒュンと風を斬る音が鳴るのと同時に、アモンの右腕が宙を舞った。

 飛んだ右腕の人差し指は白色に輝き、いまにも光線を放つ寸前といった様子だ。


『速いな』


 そう思考するアモンのすぐ側には、回避動作中のファシールがいる。


 光魔法の光線で先手を打とうとしたアモンだったが、ファシールの剣の方が少しだけ早かった。それはまるで、事前に攻撃が来ることを分かっていたような迅速さだ。


「まだまだ」


 しかしアモンも、回避されることは予想の範疇。

 即座に足裏に魔素を集め、詠唱も無しに石床を踏む。

 次の瞬間には、石床から大量の氷柱が飛び出しファシールを襲った。


「おっと」


 だがそれも、超反応でのバックステップ。

 かすり傷ひとつ負わせるに至らない。


「さすがは大勇者……素晴らしい反応ですね」


「はは、ありがとう。だが、これからが本番さ。そうだろう?」


「無論ですとも」


 アモンは右腕を瞬く間に復元し、今度は両の腕に魔素を集める。

 

「小さな魔法では簡単に避けられるようですので、大きめのをお見舞いしましょう」


 言うや否や、両手の魔素は激しく膨張し、巨大な渦を巻いた。

 そのあまりの魔素の凄まじさに、観客たちは完全に言葉を失っている。


広域水魔法(ミュール・バスケード)」 


 アモンが呪文を唱えると、魔素が膨大な水へと変わる。

 水はやがて太陽を遮るほどの巨大な高波となり、その巨影でファシールを覆った。


「なかなか……でかいな」 


 逃げ場所を探すまでもない。

 闘技場の端から端まである高波など、どこにも退避する場所などないのだから。


 高波はファシールを飲み込まんと、凄まじい速度で迫っている。

 しかし誰から見ても絶体絶命のその状況でも、ファシールはどこか楽しそうに笑っていた。


「思い出すなぁ。“彼”との闘いを」


 ファシールは片手に持った聖剣を掲げると、それを縦一閃に振り下ろす。

 するといともたやすく高波は裂け、四方八方へと散っていった。魔法で生み出した水は地面を濡らすだけ濡らして、留まることなく蒸発する。


 これには観客たちも、大歓声の称賛を送った。


【 まさに無敵ッ!! アモン選手の超々大魔法も、聖剣で一刀両断です!! やはり幾度となく魔王サタンと渡り合ってきたその実力は、伊達ではありません!! 】


「次は僕の番だね」


 言うが早いか、ファシールは地面を蹴る。

 そして瞬きを一度する間に、その体はアモンの眼前まで迫っていた。


 斜め下からの斬り上げ。

 このままでは先ほどの高波のように、真っ二つにされるのは自明の理。

 アモンは素早くマントで壁を作り、高密度の盾にして受け止める。


「なるほど、それは斬れないな」


 さしもの聖剣も、硬いだけでなく、しなやかに力を受け流すマントを斬ることは叶わない。しかもマントは次の瞬間には大小無数の棘を生やし、無防備なファシール目掛けて弾丸のような速度で伸び始める。


「ッ……!」


 息をつく暇もなく、後ろへ飛ぶファシール。

 迫りくる棘を聖剣で払いながら、それでも紙一重で窮地を脱した。


「危ない危ない。しかしこの緊張感、久しく忘れていたよ。やっぱり強者と戦うのは楽しいね」


 朗らかに笑うファシールだが、眼帯の下には棘の掠めた切り傷がひとつ。

 一筋の血が頬を伝って落ちていった。


 いつ決着がつくのか、誰にも予想できない。

 両者の一挙手一投足から目を離せない緊張感の漂う試合に、観客席にいるエルブは気が気でなかった。


「ああ……アモン様……。どうかご無事で……!!」


「すげぇ……あの大勇者とほぼ互角だぜ!」


「しかし、どちらもまだ余力を残しているように見えるでござるな。本気を出せば一体、どれほどのものなのか……」


 焦燥感、好奇心、崇敬。

 様々な感情が入り混じった闘技場内。


 リング上のふたりは互いの胸の内を探り合うように、弧を描きながら対峙する。――――――が、不意にアモンがその足を止めた。


「んん? どうかしたのかい?」


 おもちゃを取り上げられた子供のように、いかにも不服といった様子でファシールが言った。

 

「いえ、こういう機会でもないと……聞くことができないかもと思いまして」


「こんなときに質問かい? ああでも……それで思い出した、僕も君に訊きたいことがあったんだ」


 ファシールは剣を下ろし、空いている方の手で“お先にどうぞ”とアモンに促す。


「では、お言葉に甘えて小官から……」


 そう口にしながらも、アモンは瞳を伏せ少し考えるような素振りを見せる。しかし、やがてはまっすぐにファシールの方を向き、確かな口調で話し始めた。


「小官がエデンにやってきた日……貴方と共にクロウリーの屋敷を襲撃したときのことを覚えてますか?」


「もちろん。魔王の娘と、何よりアドバンと会話した特別な日だ。しっかりと記憶しているよ」


「そうですか」


「まさかとは思うが、質問っていうのはそれだけかい?」 


 ファシールの問いを、アモンは「いえ」と否定する。

 

「あの日のことを覚えているのであれば、単刀直入に伺いましょう」


「ああ、良いよ。何かな?」


 いつものように、爽やかに笑うファシール。

 アモンはその笑顔に若干の違和感を覚えながら、それでもハッキリと質問(それ)を口にした。










「あのとき、なぜ………………人間の少女を刺したのですか?」






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