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メシマズ異世界の食糧改革  作者: 空亡
第六章 魔王の死

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第252話 「城外でやりましょう」


 燃え盛る貴族街を、魔王城の高台から眺める男がいた。


「…………なんということだ」


 男の名はシフ・ドトルセン。

 魔王軍の大臣で、城の守りをルートミリアから申し付けられている。


「現在、魔王城への攻撃はありません。ですが念の為に警備兵を増員し、全力で守りを固めております。虫一匹、侵入させませんので、ご安心ください」


 シフの背後で、警備隊長が報告する。


「城内の警備は万全。しかしながら、この見晴台は完全に安全な場所とは言えません。シフ様、急ぎ場内への避難をお願いします」


「いいえ、私はここで構いません。敵の狙いは貴族たちです」


 警備隊長が進言するが、大臣のシフは首を振って拒否をした。

 それどころか――――――


「城の警護は必要ありません。最低限の兵だけを残し、あとは被害者の救助へ向かってください」


「し、しかしそれではシフ様が……!?」


「構いません。この城はいまやもぬけの殻。重役は私しか滞在しておりません。そしてその私よりも大切なのは、魔王国民らの命。彼らの命を優先してください」


 警備隊長は少しのあいだ狼狽する仕草を見せていたが、やがて敬礼をしてからシフに背を向けた。


「……承知しました!」


 命令を伝えるため、警備隊長が去っていく。

 見晴台に残されたシフは、何度目かの大きなため息をはいた。


 そして少しの沈黙のあとに、独り言のように呟く。



「これでふたりきり……。そろそろ、姿を見せてはいかがですか?」



 シフがそう虚空へ訊ねると、見晴台の一角の大気がグニャリと歪んだ。

 歪みは大きくなったかと思うとすぐに縮み、いつの間にかひとつの人影に変わっていた。


「ふん、ただのボンクラという訳でも無さそうだ」


 不敵な笑みを浮かべながら現れたのは、厚手の鎧に身を包んだ麗人。

 魔物ならば誰もが恐れる、エデンの大天使のひとり。


 大将軍、アルバ=ベルトビューゼ。そのひとだった。


竜人族(ドラゴニュート)は鼻が利きますので。……あなた、ここに来るまでに誰かを殺めましたね? 血の臭いが、あなたの剣から(いや)ってほど漂っておりますよ。いったい……どれだけの者を殺めれば、あなたは満足するというのですか……?」


「知れたこと、貴様ら魔物すべての命だ! 魔物はそれ自体が許されぬ存在。罪深き生き物なのだ。そんな貴様らを根絶やしにするまで、我が体が止まることはない」


「…………なるほど。ならば私も愛する者たちを守るため、微力ながら抵抗をさせていただきましょう」


 シフは最後のため息を漏らすと、右手を高く掲げる。

 そしてきょろきょろと周囲を見渡したあとで――――――


「ここは良くありませんね、少し場所を移しましょう」


 そう告げながら、掲げた右手をアルバの方へと振った。

 するとシフのもともと太かった腕が、ぐんぐんと巨大化していく。


 アルバの下へ到達したときには、シフの右腕は大木のように大きくなっていた。


「くっ……!」


 大剣の横腹で咄嗟に受けたアルバだったが、それでも衝撃は殺しきれない。

 アルバの体は強い勢いのまま、見晴台から吹き飛ばされた。そして恐ろしく長い滞空時間のあとで、アルバは地面に激突に近い形で着地する。


「……ここは」


 激しく地面に、それも足から叩きつけられたにも関わらず、アルバは何事もなかったかのように周囲を見渡した。鎧や槍などの武具が置かれ、敵を模した人形が置かれた広場。アルバはその場所に見覚えがあった。


「ここは兵舎近くの修練場です。いまは火急のため、誰もおりませんがね」


 アルバの前に降り立ったのは、腕が元通りとなったシフ。

 シフは普段と同様の穏やかな口調で言ったが、その体からは隠すことのできない闘気が溢れている。

 

「一撃でこのアルバを城外まで吹き飛ばすとはな。竜人族か、厄介な魔物だ」


「あれで怪我を負わないあなたも大したものだ。しかし、竜人族がこの程度だと思われては、沽券に関わる大問題。特別に見せてあげましょう、竜人族の本気というものを」


 するとシフの腕が足が頭が、瞳から爪の先に至るまで、瞬く間に肥大化していく。膨張し裂けた服の下から覗くのは、ずらりと並んだ翡翠の鱗。ぐんぐんと大きくなっていくシフは、やがて魔王城すら超える巨大な竜へと姿を変える。


 もはやシフの目線からは、人間のアルバは虫のように小さくなっていた。


「ほう、これほど巨大な竜は初めて見る。これは討伐のしがいがありそうだ」


 それでもアルバは大剣を片手に、巨竜へその切っ先を向ける。

 異常な体格差にも関わらず、彼女の態度には一切の怯みが含まれていなかった。


 そのアルバの態度にどこかで感心を覚えながら、同時にシフの頭には疑問が浮かんでいた。


「戦いの前に、ひとつだけ……伺ってもよろしいでしょうか?」


「最期の願いというやつか。良いだろう! 何が知りたい?」


 シフは自分で訊いておきながら、妙な胸騒ぎに戸惑った。

 知りたいが、知れば後悔する。そんな不吉な不安。


 しかしどうしても好奇心には抗えず、シフはおずおずと質問を口にした。



「あなた……どうやってここまで来たんですか?」



 アルバは驚く様子も、嫌な顔もみせなかった。

 だが数秒後に唇の端を持ち上げたかと思うと、悪意に満ちた瞳を覗かせる。


 そして表情を曇らせるシフの前で、



「それはな――――――」



 質問に応じるのだった。




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