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メシマズ異世界の食糧改革  作者: 空亡
第六章 魔王の死

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第223話 「遅れてきた代償」


 マルコがエデンの大聖堂で敵の襲撃を受けていた頃――――


 そんな事態が起きているとは露とも知らないアドバーンは、のんびりとした様子で非人街の外れにある小川のほとりを歩いていた。


 歩きつつ小川のせせらぎに耳を傾けていたアドバーンだったが、正面に見知った顔の人物を見つけ、声をかける。


「むむ! 鳥の餌やりですかな? パイロ殿」


「あれ? あなたがこんな場所に来るの珍しいっすね?」


 パイロの足元には大小何羽もの鳥がいて、撒かれた餌を忙しなくついばんでいた。


「余ったヒャクの種はいつもコイツらにやってんすよ。ただでさえ食糧不足の世の中、お互いに分け合わねぇとね」


「代わりに丸々と太った彼らをいただくという訳で?」


「ははは、もちろん()()()()ってヤツっす。世知辛いのも、世の中ってね」


 軽い冗談で笑い合ったあとで、アドバーンは「よっこらせ」と適当な坂に腰を下ろす。腰を据えた彼の様子に不思議がりながらも、パイロは足元にいた一羽の鳥を抱いた。


「おや? 怪我ですかな?」


「ええ。仲間同士で喧嘩でもしたのか、足を結構やっちゃったみたいで。といっても、もう割と治ってきてるみたいっすけど」


 抱き上げられた鳥の左足には、白の手拭いが巻かれている。

 鳥はパイロの片手に収まるサイズなので、手拭いも相応に小さなものだった。


「そんなことより、今日はどうして非人街ここに? ただ散歩しにやってきた……なんてわけじゃないっすよね?」


 鳥の容態よりも、アドバーンの目的の方がパイロは気になった。

 散歩するならこんな辺鄙へんぴではなく、もっと相応しい場所がたくさんある。


 にも関わらずこの場所を選んだことは、何かしらの理由を疑って当然。

 そしてパイロは、アドバーンが無意味な行動を取らないことを、稲豊から聞いた話で知っていた。

 

「そうそう! パイロ殿にお伝えしたいことがあり、探していたのでした!」


 アドバーンはわざとらしく手を打ってから、左手で髭を弄った。

 どこか人を小馬鹿にした様子に多少の苛立ちを覚えつつも、パイロは「献上するヒャクの量を増やせって相談なら、乗りかねますよ?」と軽口を返した。


 するとアドバーンは再び軽く笑ったあと、視線を小川へと戻す。

 そしておもむろに――――――――













「あなたのお父君を拘束させていただきました」


 そう口にした。


「……………………………………………………………………………………は?」


 自分の耳を疑うことに必死で、他のことが考えられない。

 なんとか絞り出した言葉は『は』のひとことだったが、そこにパイロの困惑のすべてが集約されていた。


『親父を……拘束?』


 冗談にしたってたちが悪い。

 いや、だからこそ冗談ではないのだろうか?


 そんなパイロの混乱に拍車をかけるように、アドバーンは続ける。


「容疑は……まあ、なんでも構いません。いまはふたりの兵士に付き添われながら、魔王城の独房へ連行中でございます」


 申し訳無さそうだが白々しく話すアドバーンの様子を見て、遂にパイロの怒りが爆発する。


「ふ、ふざけんな!!!! いったい……あんたに何の権利があって――――」


「私めはモンペルガの治安維持を任されております。不穏分子を排除するのは、当然のことでございます」


 不穏分子という言葉を聞いて、パイロの表情がますます険しくなった。

 それはいまにもアドバーンに飛び掛かりそうなほどだったが、背後から聞こえた足音により未遂に終わる。


「その形相はアドバーンにでなく、こちらに向けるべきだ。オサの拘束を命じたのは、他でもないオレ自身だからな」


「あんたは…………」


 パイロが振り返ると、そこには黒いケープを羽織った少女が立っていた。

 面識はほとんどなかったが、一切の笑みを持たないその少女が誰なのか、パイロにはひと目で分かった。


「ソフィア王女殿下直々の命令ってわけか?」


「ああ。いまから質問をする訳だが、嘘偽りなく答えてもらうぞ」


「…………そういうのは質問じゃなくて、尋問っつーんだよ!」


 剥き出しの敵意をぶつけるが、ソフィアは眉一つ動かさなかった。


 このふたりには挑発も糾弾も意味がない。

 パイロの顔に、諦めにも似た覚悟の感情が浮かぶ。


 だがどうして自分の父親が拘束されたのか分からない以上、振り上げた敵意を下ろす気にはなれなかった。


「なんで親父が捕まらなきゃならねぇんだ! うちの親父が……あんたらに何をしたってんだよ!」


「別に何も。オサ殿は我々の為に、身を粉にして尽くしてくれましたとも」


 ズボンについた草を手で払いながら、アドバーンがソフィアの隣りに立つ。

 その飄々(ひょうひょう)とした態度と、言葉の真意が分からない。パイロの不安を表すように、空を暗雲が覆い始めていた。


「お前の父は人質だ。事が済めば解放するが、場合によってはしばらく臭い飯を食ってもらうことになる」


「人質……? どういうことだよ? 意味がわからねぇよ!!」


「分からないか? だったら、分かるようにはっきり言ってやる」


 ソフィアの表情にも、覚悟の色が浮かぶ。

 そしてまっすぐにパイロの瞳を見つめてから、スローモーションのようにゆっくりと、()()を口にした。
















「エデンに情報を送っていた裏切り者は、お前だろ? パイロ」




短いですが、区切りを考えてここで。

次話とのバランスを考え、いずれかに修正したいと思います。

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