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メシマズ異世界の食糧改革  作者: 空亡
第六章 魔王の死

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第197話 「招かれざる客(大勢)」

2019/5/26/ 整合性のためタルトちゃんを追加しやす。


 大仕事を終え、ルートミリアの待つ屋敷の客間に戻った稲豊。

 そんな彼の第一声は、


「なんかめっちゃ増えてる!?」


 すごく素っ頓狂なものだった。

 というのも今回、稲豊と一緒に屋敷に来たのはパイロとミアキスとナナ、それにルートミリアとタルト、マリアンヌを加えた計六名だった。


 にも関わらず、現在クロウリー家の客間は、その倍以上の人影でごった返している。


「…………ナナちゃん。おかえりなさい」


「タルトちゃん! ただいま~!」


 子供たちが可愛らしく挨拶を交わすなか、ふたつの足音が稲豊へと近付く。

 それは息のピッタリと合った、仲の良い足音だった。


「おかえりなさいませ、お父様ぁ」


「お父上! お待ちしておりました。ご無事で何よりです!」


「アリスに、クリスも? どうして――――」


「クリステラ様たちだけじゃない、僕たちもいるぞ!」


 声に反応し、稲豊は顔を右へ向ける。

 するとそこには、したり顔のネロとターブ、そしてバツの悪そうな顔をするタルタルの姿があった。


「お、おい!? お前らがなんでここに!?」


「お前が危険な場所に行くというのを小耳に挟んでな? すわ一大事と、クリステラ様たちと共に駆けつけたという訳さ。いやぁ、無事でよかったよかった」


「オレ様もしょくざ……いやテメェの身が気になって仕方なかったぜ。よかったよかった」


「嘘だッ! お前らがそんな仲間思いの訳ねぇだろよ!? ぜってぇ俺の採ってきた魔女の遺産が狙いに決まっとるわい!!」


 棒読みで心配するネロたちをひと睨みし、次に稲豊はタルタルの側へと寄った。

 その表情は仁王像のごとく怒っている。


「俺は……()()()()伝えろと言ったよな?」


「あははー、怒ってる? これからは口に鍵つけるから許してー」


「ったく!」


 怒り心頭といった様子の稲豊だが、内心ではそこまで怒ってはいない。

 寧ろこの小さなお祭り騒ぎに、どこか心地良ささえ感じていた。


 そんな稲豊の首に、背中側から細い腕が絡められる。


「ボクも来てるよ~!」


「ウ、ウルもか? お前は一体どこから情報を掴んでんだよ……」


「それが面白そうなことだったら、どこにだって駆けつけるのがボクさ! 最近の魔王国はあんまり楽しいことないから、いまは嗅覚がビンビンなんだよね。まあでも、それは()()()()()()()()みたいだけど」


「ボクだけじゃないって――――うおっ!?」


 ウルサの目線に誘導され、稲豊は窓際の方へと視線を走らせる。

 すると窓の下に置いてあるソファーに、稲豊にとって意外な相手が腰を下ろしていた。


 それは普段なら部屋に引きこもっているはずの、


「ソフィア!?」


「よう。来てやったぞ」


「そ、そんなバカな!! 食事だって部屋で摂るような筋金入りの引きこもりが……わざわざこんなところまで!?」


「ほっとけ」


 簡単な挨拶を交わすと、ソフィアは手元の本に目を落とした。

 それは彼女流の会話終了を意味している。仕方なく稲豊は、彼女の後ろでティーポットを持つ人物へと、疑問たっぷりの視線を投げかけた。


「どういうことなんですか? アドバーンさん」


「私めにもさっぱり。いきなり部屋から出て来たかと思うと、『クロウリー家まで連れてけ』でございますよ。軍師という生き物は、どうやらいつの時代も地獄耳なようですな」


「…………はぁ」


 要領を得たような得ないような。

 稲豊は腑に落ちない表情を浮かべながらも、それ以上の質問はしなかった。例え追求したとしても、腑に落ちることは絶対にない。直感でそう分かったのである。


「まあいいや。とりあえず俺は、ルト様に冒険の成果を報告だ」


 集まった面々に言いたいこともあった稲豊だが、いまは別に優先すべきことがある。ルートミリアの鎮座する奥の席まで移動した稲豊は、蜂蜜入りの瓶を取り出しながら口を開いた。


「ルト様! リリト様が遺してくれた伝説の食材、地下より持って帰りました!」


 意気揚々と、冒険の成果を報告した稲豊。

 返ってくるのは眩いばかりの笑顔だと信じて疑わなかった彼だが、ルートミリアの反応は予想外なものだった。


「そうか、苦労だったな。だが、妾には必要のないものじゃ」


 つれない表情のルートミリアは、稲豊と目を合わすこともなくそっぽを向く。まるで『興味などない』とでも言わんばかりの、そっけない態度である。


 それには稲豊も、驚きのあまり言葉を失ってしまう。


「ハニー、ちょっとこっちこっち」


「え?」


 ルートミリアのとなりに座っていたマリアンヌが席を立ち、稲豊の腕を多少強引に引っ張る。強制的にルートミリアから離された稲豊は、驚きの冷めやらぬ状態でマリアンヌを見た。


「えっとな? 実はルト、めっちゃ機嫌が悪いんや。どうもハニーが地下に行くのに反対やったらしくて、猪車の中からず~~~~っとこんな調子なんよ」


「そっか、猪車じゃお前とルト様が一緒だったもんな。でもなんで反対…………」


「ハニーは心当たりないん?」


「あー……うん、無いわけでも……ないかな」


 ルートミリアは、母であるリリトのことを嫌っている。

 だからそんな母の残した物になど、関心すら示したくない。


 思春期の少女が母親とケンカしたあと、食事に手を付けないことがある。いままさに、ルートミリアにも同様なことが起こっていたのだ。


「ヒャクは大丈夫だったんだけどなぁ」


「知らずに食べるのと、知ってて食べるのじゃ違う――ってことなんやない? ま、完全に興味ないわけでもないみたいやけどね」


「うん? どゆこと?」


「ほら、ガラス越しに見てみて? コッソリとね」


 マリアンヌに言われ、窓ガラスに目をやる稲豊。

 そこには、ちらちらとふたりの様子を窺う、ルートミリアの姿が映っていた。


「なあ? 素直やないやろ? どんな食材か気になるのが半分。もう半分はハニーの怪我の心配ってとこやろね」


「そういうルト様も可愛いけど、このままじゃらちが明かないな……」


「意地はってるだけや思うから、背中を一押しすればええんちゃう? あの頑固者のことやから、その一押しが大変なんやけどね」


 ルートミリアが口にしないのに、皆で盛り上がるのも忍びない。

 それに母が娘のために用意した、想いの詰まった食材がないがしろにされるのも居た堪れない。


 わざわざ地球から取り寄せた蜂蜜。

 その偉業は、稲豊には想像もできないほどの苦労に違いなかった。


 娘のため、研究に没頭するリリトの姿を想像した稲豊は――――



「じゃあ、ダメ元でやってみるか!」



 リリトのため、自分のため、そしてルートミリアのため。

 説得する覚悟を決めた。


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