唯一度君に求む
私は異世界トリップがしたいです
「俺に出来ることはあまり無いから。」
彼はそうやって自分を否定した。
「俺がやるよりも他の人がやる方がうまくいくって。」
俺はそうやって自分を卑下してきた。
そう、自分達には人を助ける程の能力など持っていないのだから。
それでも俺達は自分が自分の中で唯一自慢できるものを持っていた。
彼は他人から不器用と言われないくらいには器用だった。
俺は他人から才能がないと言われないくらいにはテニスができた。
これが自分達の最大限に尖っている長所だった。
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「君たち、本当にそんなんでいいの?」
唐突に、それはもう本当に唐突に、彼女は聞いてきた。
不意を突かれた形での質問に俺達は反応出来なかった。
「君たちは本当にこのまま生きていくの?自分達を陥れたままに。」
二度目の質問にやっと反応出来るくらいに思考が回り始めた。
『それは嫌だ』
と喚くのは簡単だろう。
だが今更だ。
今まで何度も足掻いてきた。
だからこそ俺は、俺達はこう言うんだ。
「「俺はいい。俺はこの生き方に納得もしてるし満足もしている。ただ、もう少し彼の長所を伸ばして欲しいとは思っている。しかし彼は現状に満足している。ならば俺が口を出す意味も無いだろう。」」
だからこそもう一度言おう。
「「俺達は今の俺達に非常に満足している。」」
「多少外が変わっても本質は変わらんよ。」
「ただそのときを一生懸命歩けばいい。」
「でもっ」と彼女は何か言おうとしている。
「自分の中で自分の価値を見いだせる。」
「自分はそれに満足できる。」
「「それは十分に幸せなことだろう?」」
そう言うと彼女は何も言えなくなったのか、開いた口を閉じて俯いてしまった。
だから俺達はここから去ることにした。彼女に一つお願いをして。
「「俺にくれるような力があるなら別の奴にやってくれ。」」
「俺にはその力を扱える気がしないから。」「俺よりも他の人が扱う方がうまくいくって。」
そう告げて俺達は去っていく。
もう俺達が会うことはないと理解しながら。
「じゃあな親友、また今度。」
「あばよ親友、また会うときに。」
読んでくださり有り難うございます