悪ー五ー
昼のチャイムが鳴り、校舎には再び静寂を打ち破る生徒たちの声で響き渡る。
皆それぞれ思い思いに動き、それぞれの目的で動いていた。
しかしこの人物は動いていない。
いや、動けないのだ。
場所は学校の四階にあるトイレ。
男はトイレにただひたすらにジッとしていた。
時折聞こえる話し声や走る音にビクつきながらも、誰も男の存在には気づいていない。
この階には教室や職員室といったものがなく、ここに訪れる者も数少ない少数だろうという男の予想は当たっていた。
いや当たりすぎていた。
この学校には監視カメラがそこら中にあるはずなのである。
もっというと入口やその他塀などにはセンサーまである。
なのに自分がいまだに発見や確認されていないことに若干の違和感を男は感じはじめていた。
──いや、どうでもいいか。
しかし途端にその違和感も消えた。
男にとってはどうでもいいことであったのだ。
むしろ、好都合でもある。なにせ自分の目的が達成できるのだから。
例えこれが、誰かの差し金であろうとなかろうと男には関係なかった。
ただ、目的を達成出来れば──。
もうじき昼休みの終わりのチャイムが鳴る頃だろう。
それから十分経てば、自分はまた動ける。
大丈夫、全て予定の位置に仕掛けた。もし今ここで自分が捕まってももう誰も止めることは出来ない。
男は黒く燃える闘志を静かに、確実に激しくさせていた。
しかし、誰もそのことには気づかない。