悪ー四拾七ー
自分の家のある住宅街を一人歩くこと数分。
我が家まであと少しというところ。
あとは角を曲がれば自分の住まう家が見えるというところ。
それでこの街の日々は終わり、長い旅が始まる。
その節目。
そこに、誰かが立っていた。
今の時間は明朝でこんな時間に人がいるなんて珍しいな。
そんな呑気なことを僕は考えるべきでは無かった。そう、その人物がユニアドの制服を着ている時点で。
僕は気付くべきだったのだ。
見るとその人物は走っていたのか息を切らしていた。
この時間帯に走っていたのか、だとすると陸上関係の人だろうか?
一体誰なのだろう、と顔を見た時。
一瞬僕の世界は止まった。
そこに。
そこにいたのは。
「…サツキくん」
長い栗色の髪に眼鏡を掛けた女子校生。
先程殺したはずの、サヤさんだった。
「な…んで!?」
あまりの衝撃に言葉を詰まらせてしまう。
いや落ち着けまずは確認だまだ彼女が僕が悪殺しだと知っているとは限らない一ヶ月前と同じように記憶が消えているかもしれないそもそもあの時あの場所は暗がりでお互い顔も見えないくらいの暗さだったのだ例え記憶が消えてなかったとしてもそれが僕だとは彼女は知らないはずだまずは確認だ。
「サツキくんが…“黒いシニガミ”だったのね…」
「え…?」
「もっと早くに気付くべきだったわ…。だってカナデが言ってた特徴ほとんどがサツキくんと酷似してるもの」
そこで僕は理解を、納得をした。
“黒いシニガミ”の特徴は『骸骨の体』『黒い衣』『悪人の魂を抜く』『神出鬼没』そして『赤い瞳孔』だった。
『黒い衣』は僕が悪殺しになっている時の姿のことで、『悪人の魂を抜く』は僕が悪殺しをしている時、『神出鬼没』というのは僕が音も無く動くことからであろう。
つまり“黒いシニガミ”=“悪殺し”だった訳だ。
これでいよいよこの街での目的は無くなった訳だが…。
だがおかしい。今の三つの点で彼女が僕を“黒いシニガミ”だと気づける部分は『黒い衣』の部分だけだ。それなのに「酷似している」というのはどういうことなのだろうか?
いや、そもそも…。
「だって…サツキくん」
サヤさんは続けて言う。
「体、白いじゃない」
「あ…」
その発言で僕はようやく分かった。どうして僕を“黒いシニガミ”だと思ったのか。
僕は生まれついてから体の色が白い。
先天性白皮症。
俗に言う“アルビノ”。
髪も、肌も、体全体のメラニン色素の欠落により引き起こされる症状。
それ故に僕の体は周りとは比較にならないくらいに白いのだ。
そしてそんな人物が夜な夜な黒い服を身につけて徘徊すればどうなるか。
自分ではなんとも思っていなかったが、それを見た人たちはさも骸骨が黒い衣を身につけたように見えたことだろう。
しかも目は血のように真っ赤。より一層恐怖を与えたに違いない。
どうして今まで自分で気が付けなかったのかと自分で自分に落胆していると、ふと気がつく。
それでもどうしてサヤさんは僕だと思ったのか?
僕のアルビノから“黒いシニガミ”へはなかなかに無理矢理感がある、そうなると実際に見なければ気づけないようなものだ。だがあの時は暗闇で見えなかったはずなのに…。
そんな疑問を思っていると、その疑問は当事者本人が答えてくれた。
「そういえば言ってなかったっけ…。私まだサツキくんに、どうして私がP組なのか…」
「え?」
どうして今それを?と思ったがそれでもサヤさんは話す。
「私のソロカリでのテーマは“暗視力”。…つまり私には例え暗闇でもほんの僅かな光が入っていれば昼間と変わらない景色を見ることができる眼を持ってるの」
「………!!」
そこでようやく。本当に今更。
僕は全てを納得した。
「それで…サツキくん。私あなたに…」
話すサヤさんにビッと右手を前に出し静止させる。
「とりあえず、立ち話もなんですから家に入りますか?サヤさん」
そう言っていつも通りの笑顔で言った。
どうやらここでの時間は。
まだまだ続きそうだ。
完




