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悪殺し -悪に殺される話-  作者: 皆口 光成
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悪ー四拾五ー


ユニアドの街に陽の光が照らされる。

夜が明け、暗色だった空はいつもの透き通った青空に変わりだす。

あれだけ曇っていた天気はどこへ行ったのかと思うほどに晴れている。快晴だ。




そんなことを高いビルの上、屋上でただ一人思う。




黒いハット帽をかぶり、黒い燕尾服のような姿で。




「今日もたくさん殺したなぁ…」




ふと、呟く。




もし誰かに聞かれでもしたら間違いなく警察に突き出されるセリフだが幸いここは屋上でしかも時間が時間なので誰もいない、はずだ。




「そろそろ戻しておくか…」




そう言って左手のひらを上にする。すると身につけていた黒い帽子と服はまるで塵になるかのように細かい黒い粒子となって左手に集まってきた。

やがてそれらの粒子は全て集まり、別の形に変わる。あとはポケットに入れておいたレンズをはめ込むとどこからどう見ても普通の眼鏡に早変わり、というわけだ。




そして()も…僕も“悪殺し”からただのユニアド学園の学生サツキに戻る。




その目は血のように真っ赤のままだが。




「…………………」




形を変えた眼鏡を凝視する。そこにある感情はただ一つ。




終わった。




やっと、終わった。




そんな達成感も何もない、言うなら心に穴が空いたような虚無感。

それだけが僕の中にあった。




サヤさんを殺すこと──。




それがこの街の、僕が訪れた目的だった。




いや、その目的自体は実を言うなら一ヶ月前に達成されたのだ。本当なら目的はすでに終わっていたのだ。




なのに、だ。




彼女はその後も普通に登校してきた。

しかも一部の記憶を失って。




そのため僕の目的は少しだけ変わった。ほんの少しだけ、大きく変わった。




それは、彼女の中から“アクヨセ”が消失したのかを確認することだった。




“アクヨセ”は文字通り“悪”を寄せる者のことを言う。だからその後もサヤさんの周りに“悪”が集まるのかどうかを僕は近くで見張っていたのだ。




そしてそれも一ヶ月が経った頃に、それは再現した。




最初の朝、僕はサヤさんが連れ去られたと分かりすぐに助けに行った。


放課後サヤさんのいるケーキ店に襲撃しようとしたホームレス連中を未然に防いだ。


夜、サヤさんたちユニアド学園の学生を誘拐した奴らから解放した。




でもそれはサヤさんを(・・・・・)助けるためではない(・・・・・・・・・)




僕が助けていたのは、そのサヤさんに、“アクヨセ”に近づこうとする者達の方だ。




“アクヨセ”の力は単に“悪”を引き寄せることではない。その先がある。




それは人間を(・・・)“悪”そのものにすること(・・・・・・・・・)




それを阻止したかった、だが…。




一人、間に合わなかった。




“アクヨセ”に近づき過ぎたあの傷持ちの男は“悪”に取り込まれてしまい、“悪”そのものとなってしまった。




そうとなってしまえば、もう…。




ギュッと眼鏡を握り、太陽の方を見る。大分顔を出していて、もうじきユニアドの空は朝の空になる時だった。




もう終わったことだ。目的も一ヶ月も延長したが達成されたことだし。

そう心に踏ん切りをつけることで過去の失敗をただの過去にする。




ここでの活動ももう終わりだ。




そして区切りをつける。




眼鏡の形に変えた物を掛け、いつもの、学生サツキの姿になる。




「………帰るか」




バシュッ!と勢いよく飛びすさび、ユニアドの街の建物の上から上へと飛び移る。




見た目は学生でもその本質は奇異な力を持った者。




“悪殺し”としての本質は失わなかった。


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