悪ー四拾四ー
え?
どうして?
なぜ?
なんで?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?
なんで、私が刺されているの?
サヤの動揺は凄まじいものであった。
突如として飛来してきた黒い棒状のもの。
それはサヤの胸に深々と刺さり、背中まで貫通していた。
だが痛みなどは無い。痛みは無いが、それでも体は動くことは無かった。
これってあまりの激痛による脳が痛覚を遮断したからなのかな。
内心冷静を装っても体は正直であり、サヤの顔からは汗が滲み出ていた。
体が動かないサヤでも、目だけは動いた。
その目でこの黒い棒状のもの。刺した犯人、黒いシニガミをまっすぐに見据える。
現在二人がいる場所はユニアドの廃墟の一つの部屋。
ただでさえ暗い場所のうえ廃墟ということも相まって灯りなどの類はなく、ここは完全に暗闇に包まれていた。
唯一の救いである月の光は今は雲に隠れているのか少ししか入ってこない。
しばらく経って目が慣れてきたとしても見える範囲は自分の周囲だけだろう。
故にサヤが目の前にいる人物を見ても、その顔部分までは見えなかった。
サヤの目に映ったのは。
右手を鳴らす形にしてるところ。
スッ、とゆっくり右手を持ち上げ、その人物は自分の顔の高さまで持っていくとそこで動きを止めた。
「…………………!!!」
先程の光景を見ていたサヤにはそれが何を意味するのかは分かっていた。
この黒い棒状に刺さった黒い人が身体中から棘のようなものを出す光景。
そしてその後黒い棒と共に塵となって消えた光景。
言葉が出ないのは恐怖によるものか、それともこの黒い棒状のものによるものなのか。
それは当の本人であるサヤでも分からないことであった。
月の光が少し強くなる。
どうやら雲からその姿を現したようで、再び暗闇に光を妖美な光が照らされる。
それは二人がいる部屋も同様である。
光が入り、二人の姿が鮮明になる。
サヤは座った状態なのですぐ全身が照らされたがもう一人は立っているのでまだ腰辺りしか照らされていない。
その人物を映す光が胸まで上る。
ドッ、ドッ、とサヤの心臓はその心拍数を上げ、外にも聞こえそうなほどの動悸がした。
光は顎にまで上り、より一層上がる。
そして口、鼻の順。
ドッドッドッドッドッドッドッ、と心臓は動く。それは今か今かと待っている期待感からか恐怖からか。
やがてそれが目に移行しかけた時。
月の光は再び雲に隠れてしまい、部屋にまた闇が生じる。
その光の残光でサヤの目に残ったのは、その人物の顔にある真っ赤な二つの瞳孔。
血のように真っ赤な目。
その目がサヤの姿を捉える。
「………………え」
サヤの口から、何かが言われるよりも先に。
パチンッ、と部屋に指を鳴らす音が響く。
その直後。
ブシャアッ!!と何かが破裂するような音が聞こえ。
ドサッ、と人が倒れる音が最後に聞こえた。




