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悪殺し -悪に殺される話-  作者: 皆口 光成
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悪ー四拾壱ー


「クソッ、繋がらないな…」




傷持ちの男性は仲間と連絡を取ろうと携帯で電話をしていました。

しかし何かあったのか誰も出ないようです。

その片方の痩せ顔の男性のことなら知っていますが。




「フンッ、まぁいい…」




パタンと携帯を閉めこちらを見ます。

現在私とこの傷持ちの男性は廃墟の一つにいました。

連れ去られる途中幾つか廃墟の確認が取れたことからここはユニアドの外周部、或いはその近くであることが分かりました。




「あの」




「喋るな」




ギロッ、と恐い目でこちらを見ます。




「口を開くなやたらと動くな腹が減ったら我慢しろトイレに行きたきゃそこのバケツにしろ無闇に目を動かすな余計なことはするなその他外部と連絡を取ろうと思うことは一切するな」




有無を言わさない勢いで言われ、絶句します。




「俺は例え相手がガキでも容赦はしない。油断もしない。妙な真似をすればすぐに殺す」




そう言って傷持ちの男性は懐から何かを覗かせます。




銃です。




それの登場により私の緊張感はより一層高まりました。

今は拘束も何もされていない自由なのに指一本すら動かせないのです。

傷持ちの男性から発せられる気迫にやられてしまっているのです。




これが…本物の…。




私はそんなことを思っていました。

別段私はこういう世界の人間に詳しいわけではありません。

いつもテレビに出てくる恐い人達だな、くらいの、悪い人達の代表、くらいの認識でした。

ですが本物は違います。少なくとも目の前にいる傷持ちの男性は別格です。




幾多の激戦を潜り抜けたであろうその身体と冷徹さ、遥かに劣るはずの私にでさえ一切の油断もしない慎重さ、そしてこの気迫。




到底叶わない、と思いました。




例えここにミキナさんとハゼト君がいても、その他の大人達に助けを求めても、警察に頼っても。

多分この人には叶わない、返り討ちに遭うのが明白です。

そう思わせる程の強さを感じました。




「やはり繋がらないな…。まぁいい場所の指定はしたからあと数分もすれば来るだろ」




傷持ちの男性は再度連絡を試みましたが諦め、崩れて座っている私の前に仁王立ちをするような格好になりました。




あと、数分で私は売られる。




いや、この場合は買われる、が正しいのかな?




そんなくだらないことを頭に思い浮かべていないととても乱れた心を落ち着かせることは出来ません。




…今日は色々あったなぁ、日付け変わっちゃってるけど。




学校では保健室でなぜかサツキくんに手足縛られてたし、理由聞きたかったなぁ…。




放課後はカナデを含めた三人でケーキ屋に寄ったんだよね。あれは楽しかったな、三人で色々お話しできて。途中店側のトラブルで騒然としちゃったけど。




その後ソロカリから突然の連絡が入ってサツキくんとも別れちゃったんだよね。もっと話とかしたかったのに。




それで帰り誘拐されちゃって、でもミキナさんやハゼト君たちのおかげで逃げ出せたんだけどな…私だけまた捕まっちゃった。




ミキナさんたち、心配してるかなぁ。突然いなくなったりしたらビックリだよね。二人が喧嘩してないといいんだけど。




せっかく、ミキナさんと友達になれると思ったのにな。




その他にもA組の二人とも仲良くなりたかったなぁ。私の知らないカナデとかの話とか聞きたかったし。




カナデ、私がいなくなったら泣いちゃわないかな…。




カナデとは昔から付き合いであの私に対する友情は危機とするものを感じることがあるんだよね…。でも私にとってはカナデは親友だからもう慣れた、というかそれが普通になったんだよね。




サツキくんとはもっと話がしたかった。




事情があってか微妙な時期に転校して来たサツキくんとはすぐに息が合ったんだよね。まるで前にも会ったことがあるような感じで不思議だったな…。




その後もちょくちょくと喋りかけて今では一緒にケーキ屋まで行く仲になったし。




それに、言いたいこともあったのにな…。




ミキナさん、ハゼト君、カナデ。




そしてサツキくん。




また、会いたいな…。




私が心にそんなことを願っていると。




ソレ(・・)は突然現れました。


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