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悪殺し -悪に殺される話-  作者: 皆口 光成
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悪ー四拾ー


真っ暗闇の裏路地の中、私たち五人は逃げていました。




「こっちよ。急いで」




先頭をハゼト君、その後ろにミキナさんという順の五人パーティーはその逃走を順調に進ませていました。

……一番後ろの私を除いては。




「ハァッ、ハァッ」


「ちょっと、サヤさん遅いわよ。早くしないと置いてくわよ」




ミキナさんがやや急き立てるように言います。




「しょうがないだろ。委員長はP組でも一番遅いんだから」




ハゼト君が私を擁護する言葉を言いますが、若干その言葉は私にダメージを与えました、精神的に。




「クラスいちじゃなくて学園いちでしょ?」




そしてミキナさんがトドメを刺します。




「そんな言い方するなよ…。本当のことでも」




さらに追い討ちを食らいます。




「あら?事実を隠蔽したって仕方のないことでしょう?わざわざ嘘で当事者の気持ちを傷つけないようにしたっていずれはバレるじゃない。なら、最初から本当のことを言ってあげるのが善意というものよ」




クイッ、とミキナさんはハゼト君に指のジェスチャーで次の曲がり角を見てくるよう促します。




「はぁ…、どうもお前とは仲良くなれそうにないな」


「あら、奇遇ね。私もそう思うわ」


「二人ともやめてください!」




段々二人の雰囲気が悪くなるのを感じ、私は思わず二人の間に割り込みました。




「喧嘩は後、今はそれどころじゃないのは二人とも分かるでしょう?」


「……それもそうね」


「……だな。悪い委員長」




謝る相手を間違えてますよハゼト君、と言いたいですがそれを言えばまた二人が喧嘩しそうなのでここはグッと押し堪えます。




「で、どうなのハゼト君?次の曲がり角に敵らしい影はあった?」




ミキナさんはハゼト君に聞きますが、数秒の沈黙が生まれます。




「……多分大丈夫だ」




返ってきたのはそんなあやふやな言葉でした。




「しっかりしてよ。ここであなたがミスをすれば私たち五人全員また捕まっちゃうんだから」


「分かってるけど…でもやっぱ分からねえよ。なんせここは裏路地で、ここには街灯の光も無いから数メートル先も見えないんだから」


「それもそうね」




そう言ってミキナさんは空を見上げます。




「今は月明かりのお陰でなんとか見える感じだけど、それもいつまで続くか分からないわね。今日の天気は曇りだったし」




今日は満月のようで雲から覗く月の光は私たちの周囲をほのかに照らしてくれているようです。




「やっぱり裏路地を出た方がいいんじゃないのか?」




ハゼト君は提案します。




「それは駄目よ」




ですがそれをすぐさまミキナさんに却下されます。




「なんでさ?」


「危険だからよ」




私を含め、ハゼト君もその他二人もどういうことか?と頭を悩ませているとミキナさんがその説明をしてくれました。




「確かにすぐに裏路地を出て一直線に警察のところへ駆け込むべきかもしれないわ。でも今は深夜、つまり一般の道に私たちユニアドの生徒は目立つのよ」




そこで私は気づきます。そう、私たち五人全員は服装が誘拐された時の、ユニアド学園の制服のままであるということを。

もしこの格好のまま裏路地を出れば目立つことこの上ないでしょう。そうなれば先程の痩せ顔の男性の仲間に見つかる可能性は高くなります。




「じゃあどうするんだよ?」




「今はこのまま裏路地で移動するしかないわ。最悪どこかに息を潜めて朝になるのを待つというのもありだけれども」


「…それかえって危険じゃないか?」


「まぁ、危険ではあるけどさっき言ったのよりかはマシな筈よ。それより…」




ミキナさんはピシッと指を上に向けます。




「いい加減そろそろ移動したいのだけれども、確認と判断はまだかしら?早くしないと月が雲に隠れてしまって本当にどこかで一晩を過ごすことになってしまうのだけれども」


「…分かったよ、すぐ行くからちょっと待ってろ」




ハゼト君は半ば嫌々ながらも一人死角となっている曲がり角に行きました。




しばらくすると戻ってきました。




「大丈夫だ。この先には誰もいない」


「では行きましょうか」




ハゼト君の判断にミキナさんはすぐに行動しました。




「…随分とすんなり聞き入れるんだな。また何か言われると思っていたのに」




ハゼト君が小声でそんなことを言うと。




「あら、当然じゃない。私はこれでもハゼト君の事は信頼しているつもりだからあなたの言う事に疑いなんか持たないわよ」




それを聞いたハゼト君は少し顔に赤みを帯び立たせました。

恥ずかしがらずにそんなことを言うミキナさんは凄いなぁ…。




「さ、行きましょう」




そう言ってハゼト君を先頭、その後ろはミキナさん、をお決まりのようにして私たち五人はその曲がり角を曲がろう、とした時でした。




ガッ!!




突然私の口と身体を押さえる手が背後から出てきたのです。




「!!?」




突然の出来事に躊躇う間も無く私は連れて行かれました。




「ーーー!!ーーー!!!」




声を出そうにも口を押さえられていて出せません。必死に抵抗しようにもかなりの力で全く歯が立ちません。




ミキナさんたち四人はそのことに気付かず、先に行ってしまいました。




「クソッ…たかがガキ五人に何手こずっていやがるんだ?あの野郎」




その野太い声を発する人物の格好は痩せ顔の男性と四角顔の男性のと同じ黒服で、私は瞬時にこの人もその仲間だと悟りました。




「仕方ない、今回はコイツだけで良しとしておくか…」




そう言う男の顔はまるで、幾多の激戦を潜り抜けたような証とも言える傷を持った顔でした。


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